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◇序章~第1話~

 あれ、おかしいな。さっきまでちゃんと立っていたはずなのにどうして俺は天井を見上げているのだろう。


「天地がひっくり返ったか」


 そんなわけがないことはもちろん知っている。ここはベッドの上、さっきまで夢を見ていた。


「ひっくり返っているのは貴様自身だユウ。 早く起きろ、遅刻しても私はしらんぞ」


 ユウというのは俺の名前、紅藤クドウ ユウを指しているのだろう。

 ブレザーに着替えながら俺に指示を出すこの男は宮永ミヤナガ 誠哉セイヤでクラスメイトでありルームメイトでもある。

 オールバックの髪に狼のような鋭い眼光、頬に走る一筋の刀傷、パッと見は極道者のようだ。


「オーライ、誠哉。 俺が時間に合わせるんじゃない、時間が俺に合わせるんだ」


「せいぜい時間と戦うがいい。 私は先に出る」


 血も涙も無いのはご愛嬌だ、慣れてる。

 誠哉は特注のマグナムをホルスターに納めると足早に部屋を出ていった。

 あいつはいつも早めに部屋を出る、だから大して急ぐ必要もないのだがこのままだと布団と同化してしまうかもしれないので起きることにしよう。

 耳をすませば俺が住んでる寮のすぐ近くにある射撃練習場から銃声が響いている。朝から射撃訓練なんて精がでるぜ。

 俺が今から登校するのは国立公闘官高校だ。

 公闘官とは、政府が不景気を打開することを目論み一般企業に国内での軍需物品の生産と販売を許可したのを発端に、景気は上昇したのだが重火器を用いた凶悪犯罪が多発する事態をもたらし、企業間での武力闘争が激化、それを鎮圧ならびに排除する役割を担う職業だ。

 普通の高校に通うのも魅力的だったが、推薦されてここに通うことになった。

 入学試験は死ぬほど苦しかった、俺を闘校に推薦した奴にはいつか三途の川で急流下りをさせてやろうと思う。


「ふぅ……」


 在学中に殉職する仲間も多い中で俺が生き長らえているのは共闘者のお陰だな。

 闘校のイーストウッドの異名を持つ誠哉に感謝感謝だ。

 寝巻きのTシャツ短パンを脱ぎ捨て、防刃仕様の学ランを着る。

 銃は銃で便利なのだが俺はあまり好きではない。リロードやジャムなどやや面倒な事態も起こりうるしメンテナンスもめんどくさい。

 俺は壁に立て掛けておいた日本刀を手に取ると腰に帯びる。

 やはり武器はヒカリモノに限る。

 高校生なれど入学した段階で三等公闘官の階級が与えられる為に銃火器や刀剣の対人使用が認められている。

 進級と同時に昇級するので現在俺は二等公闘官だ。


「ユウ! 起きてる? 入るよー」


 ドアを開けて俺の部屋に女子が入ってきた。


「あん? ユウはお眠なんだよ、騒がしくするな。 触らぬ神に祟り無し、だ」


 わざわざ女子寮から男子寮まで急用でもないのに訪ねて来たこの娘っ子は小石川コイシガワ 癒歌ユカ、公闘官高校衛生隊に所属している俺の幼馴染だ。

 幼馴染といっても実家同士が近く小学校中学校現在と学校が偶然にも同じというだけ。

 血に外国人が混じっているらしく髪は日本人らしからぬ銀色の長髪で、俺と同じ強襲隊に在籍する女子はみんなボーイッシュな短髪ばかりなのでとても新鮮だ。

 容姿端麗なのとあわせて治癒の女神と呼ばれているユカは医師免許も持っているエリートだ。

 小学校の時に髪の色で虐められているところを救ったのをきっかけに妙に懐かれてしまった。


「わたしがユウを迎えにくるの今月何回目かな?」


「さてな。 数えてないからわからん」


「3回目だよ? いくらユウが神だったとしても3回も迎えに来させられたらわたしだって怒るんだから」


「怒るとどうなるんだ?」


「毎日夜と朝にメールをいっぱい送ります」


 薬だって朝と夜に飲めば効くかもしれないが、過剰摂取は死の危険さえあり得る。


「それは勘弁してくれ。 怯えて夜も眠れん」


「もうっ!」


 ユカは河豚みたいに両頬を膨らましている。

 それで怒っているつもりだろうが逆に可愛らしい件について。


「それっ」


 人差し指をユカの頬に埋めてみた。


「ぷすん……」


「あ、割れた」


「ふふっ、早く行こう!」


「オーライ」


 指先に残る柔らかな感触を確かめつつ部屋を出た。

 一緒に歩くユカから香るのは消毒液のような薬品の匂い。それと仄かに香る柑橘系の芳香。

 白を基調としたワンピース型の制服は清潔感が溢れ衛生隊に相応しい。

 寮の中央ロビーには登校するべく集まった生徒でいっぱいだ。


「よう、紅藤。 朝っぱらから女神とにゃんにゃんか?」


 この空気を読むのが苦手そうな男は同じ強襲隊に籍を置く東城トウジョウ 英孝ヒデタカ、俺と同じく剣を用いるが日本刀ではなく西洋刀サーベルの使い手だ。

 茶髪で襟足をゴムで纏めている軽い男だ。

 ちなみにあだ名はエイコー。


「エイコーか。 そんなんじゃねえよ」


「股の刀も奮ってるのか? 早く鞘に納めろよ」


「~~!」


 あらら、下衆なトークにユカは真っ赤に沸騰してしまった。


「納める前にお前で試し斬りがしたい。 ちょっと首を洗ってきてくれ」


「はっはっは、悪かったよ。 俺の御首にはまだ価値がないからな。 時が来たら狙えばいいんじゃね? ユカちゃんもメンゴメンゴ!」


 公闘官を目指す奴にはろくな奴がいないのか、それとも高校生なんてこんなものなのか、とりあえず肩を組むなよ暑苦しい。

 こんな下らない朝の集いを悠長にしてても時間はたっぷりある。

 メイン玄関の前には校舎行きのバスが停車するからだ。

 東京都と千葉県の県境に設置された東京都第24区は国の管理下にあり特別養成区となっていて一般人は住んでおらず公務員しか居住していない。

 広大な敷地内には校舎や寮や各自施設が配備されている。

 俺たちは校舎行きのバスが来るのを待った。

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