ぼくのなつやすみ さいしゅうへいき
「ことしの じゆうけんきゅうは、かくみさいるに するぞ!」
縁側でスイカを齧りながら、ぼく——もとい、俺(前世:しがないネットイナゴ、享年24)は、プラスチックの虫かごを前にニヤリと笑った。
今世の俺は、どこにでもいる田舎の農家の一人息子、小学1年生の「ゆうたくん」。両親は「泥にまみれて健康に育てばよし!」という、絵に描いたような素朴で優しい、しかし学のない農民だ。
彼らは知らない。目の前で「アサガオの かんさつ」の画用紙を広げている我が子が、夜な夜なネット知識(前世のうろ覚え)を総動員して、ウランの精製方法をノートに書き殴っている狂人だということを。
「ふん、ただの田舎っ子で終わる俺じゃない。この『自由研究』で世界を震撼させ、一発逆転の神童として歴史に名を残してやる!」
ネットで見た「自作原爆を作ろうとしたアメリカの少年」のまとめ記事が、俺のバイブルだった。
小学1年生の特権は、「何をしていても怪しまれない」ことだ。
俺は山裏の廃鉱山に通い、怪しい鉱石を拾い集めた。畑の肥料(硝酸アンモニウム)を物置からくすね、じいちゃんの古い道具小屋を「秘密基地」に改造した。
毎日、泥だらけになって帰ってくる俺を見て、母ちゃんは目を細めて笑っていた。
「ゆうたは、いっしょうけんめい じゆうけんきゅうを やっとるねぇ。えらいねぇ」
「うん! ちきゅうの へいわを まもる けんきゅうなんだ!」
嘘ではない。抑止力としての核だ。
俺の頭の中では、完全に『異世界転生した天才科学者(俺)』の脳内アニメが再生されていた。
「イエローケーキ(ウラン精製物)の真似事くらいなら、この大自然の素材と、前世の化学知識があれば……いける!」
バケツの中で怪しい濁った液体をかき混ぜる。
防護服? そんなものはない。小学校の体操服と、コロナ禍の残りの不織布マスクだけだ。
数週間後、秘密基地の奥で、ぼんやりと怪しく光る(ような気がする)「自家製コア」が完成した。それを、ホームセンターの塩ビパイプと、粗悪な火薬を詰めたロケット花火の束(推進剤)に組み込む。
「できた……! ぼくの かくみさいる(全長80センチ)だ!」
8月31日。いよいよ明日が始業式という日の夜。
秘密基地にこもった俺は、最終チェックを行っていた。
「くくく……明日、学校の体育館にこれを持ち込んだら、先生も同級生も、どんな顔をするかな? 『ゆうたくん、すごーい!』じゃ済まないぞ。国家予算レベルの身代金か、あるいは天才としての特待生シートが——」
その時、急に猛烈な吐き気が俺を襲った。
視界がぐにゃりと歪む。
「あ、あれ……? なんだ、これ……。身体が、めちゃくちゃ熱い……」
ポタポタと、鼻からどす黒い血がノートに落ちた。
皮膚が焼けつくように痛い。髪の毛に触れると、束になってゴソッと抜けた。
「まさか……遮蔽が、足りなかった……?」
前世のうろ覚え知識。「これくらいなら大丈夫だろう」と高をくくっていた。だが、手製の核物質から放たれる目に見えない死の光線(放射線)は、数週間にわたって、小学1年生の小さな肉体を容赦なく破壊し尽くしていたのだ。
カチ、カチ、カチ……。
静まり返った小屋の中で、おもちゃのガイガーカウンター(のようなもの)が、悲鳴のような速さで鳴り続けている。
「う、あ……あたまが、いたい……お母ちゃん、たすけ……」
這いつくばって助けを呼ぼうとしたが、指先はすでに感覚を失い、動かない。
目の前にある、塩ビパイプ製の「かくみさいる」が、あざ笑うように転がっている。
一発逆転の夢。
神童としての未来。
すべては、知識を過信した「イキリト」の哀れな妄想の産物だった。
翌朝。
「ゆうたー、朝ごはんよー! 始業式遅れるよー!」
母ちゃんが裏の小屋の扉を開けたとき、そこに広がっていたのは、見るも無惨な光景だった。
床に倒れ伏し、すでに息絶えている我が子。
そして、その手元に残された、1冊の自由研究ノート。
『じゆうけんきゅう:かくみさいるの つくりかた』
1ねん1くみ おだ ゆうた
もちろん、このノートが学校に提出されることは二度となかった。
その後、その静かな農村は、防護服を着た「大人たち」によって完全に封鎖され、両親はわけも分からぬまま強制退去させられることになるのだが——それはまた、別の話である。
(人生エンド / 自由研究・完)




