五話 生
ああ、息ができない。
胸が押しつぶされるように苦しくて、まるで深い水の底に沈んでいくようだった。
身体の感覚はほとんど無い。
ただ、冷たい地面に頬が触れている──その一点だけが、かろうじて“生きている”証のように思えた。
ここまで、気力だけで進んできた。
けれど、その気力ももう尽きかけている。
──ここで、死ぬのか
何も成し遂げられないまま、無様に倒れて終わる。
せっかく強くなれるかもしれないという希望を掴んだのに、それを活かすことすらできなかった。
──お前は出来損ないだ。
誰かの声が、頭の奥で響いた。
村にいた頃、同年代の連中がよく言っていた言葉だ。
魔法を見せつけては、僕を笑い、罵り、見下した。
負けじと僕も魔法を使おうとするけれど、いつも失敗して、結局は笑いものになるだけだった。
両親はいつも泣き言を聞いてくれた。
けれど──あの日、医師が放ったたった一言で、すべてが変わった。
『それが無理なら……もう……』
寝付けなかった夜、偶然聞こえてしまった母の声。
父も何か言っていたけれど、はっきりとは聞こえなかった。
ただ、肯定も否定もしなかったのだろうと、今なら分かる。
父は、そういう人だった。
僕には生きる価値が無い。
存在するだけで、誰かに迷惑をかけてしまう。
ならばいっそここで死んだほうが、皆のためになるのではないだろうか。
そう思いかけた時── ふと夢に出てきた老人の言葉が脳裏をよぎった。
『得物を持ちながら──なぜ臆する?』
不思議と馴染みのある言葉だった。
それはまるで、今の僕に向けて言われているように感じた。
……そうだ。
諦めてはいけない。
消えかけていた炎が、再び小さく燃え上がる。
胸の奥に、じわりと熱が戻ってくる。
落ちかけていた意識を必死に繋ぎ止め、動かない身体を無理やり引きずり起こそうとする。
「……こんな……とこ…………で…………」
ふらつきながら、ゆっくりと、それでも確かに、僕は立ち上がろうとした。
──プツっ、と。
糸が切れたように、力が抜けた。
顔面が地面に叩きつけられた感覚だけが、やけに鮮明だった。
身体はもう限界だと言っている。
それでも、僕は諦めなかった。
身体が動かないなら、せめて意識だけでも。
この小さな灯火だけは、絶対に消さない。
必死に、生へと喰らいつく。
こんなにも必死になったのは初めてだった。
魔法が使えなかった時でさえ、ここまで自分を追い込んだことはなかった。
こんな状況なのに──初めて、“生きている”という実感があった。
そして同時に、理解した。
そうか──これが生きるということなのか。
もがき、苦しみ、されど必死に足掻いたその結果が、僕が生きたという証明なのだ。
なら、今までの僕は生きていたといえるか?
否。
だが確実なのは──
今の僕は誰よりも生きている。
ならば足掻いてみせよう。
強くなってみせよう。
例え、この身に魔力がなくとも。
この世界を『生きる』為に。




