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三話 邂逅

「おい無能がいるぞ!」


 僕を囲むように笑い声が聞こえる。

 これは……過去の記憶だ。村にいた時の記憶。

 友人だと思っていた奴らに笑われた記憶だ。僕が好きだった女の子も蔑むような目で僕を見下ろしていた。


 そして次に流れるのは母が壊れた時の記憶だった。

 魔力がない僕をどうにかしようと、信ぴょう性のない薬をたくさん僕に飲ませてきた。

 どうせ騙されているだけだと思っていたけど、母は完全に信じきっていた。だからこそ効果が出ないと僕や家具に当たった。


 そうか。これは走馬灯と呼ばれるものだ。

 僕はすぐに理解した。

 そして同時に悲しくもなる。

 最後の最後に、また悪夢を見せられて終わるのかと。


 しかし、急に場面が転換する。

 それは──刀と呼ばれるそれに生涯を捧げた男の夢だった。

 誰かが言う。


『天を斬る事が出来れば格差は無くなり人は強くなれるであろう。天が我らを見下すが故に人は弱く、格差が生まれるのである』と。


 なるほど、一理あるやもしれんと彼は頷いた。

 そして、その期待に見事応えてみせた。多くの群衆が見守る中で、見事天を切り裂いて見せたのである。


 誰かが言った。


『人間業ではない。あの者は化の物かはたまた妖の類である』と。


 ここで夢が途切れた。

 とても不思議な感覚であった。

 明らかに自分ではないのに、まさにそこに立っている現実感があった。

 得物を握り、天を分かつその感覚を鮮明に感じていた。


「ここは……」


 気が付いた時には、夕焼けのように明るくも薄暗い空間に立っていた。下には薄く水が張られているのか自分の姿が反射して見えた。

 正面には両脚を丁寧に折畳んで座る謎の人物。

 笠を深く被り、顔すら見る事が出来ない。しかし直感で、夢に出てきた男だと分かる。


「得物を持ちながら──何故臆する?」


 声からして老人であろう。言葉の意味を汲み取れないものの、その低く掠れた声は何処か懐かしささえも感じる。

 老人は右足を立ててから立ち上がる。

 ただそれだけでも、まるで一つの芸でも見ているのかと錯覚してしまう程に美しいと感じた。

 ただ立つという所作だけでも、洗練されると魅入ってしまうのかと驚きを隠せなかった。

 同時に既視感を感じてしまう。

 ──いや、それはまるで鏡でも見ているかのような感覚だった。

 所々が欠けた笠。黒色の羽織袴。使い古され色がくすんだ草鞋(わらじ)


 僕はそれを、知っていた。

 (ぼく)はそれを身に着けていた。


 立ち上がった老人は暫く僕と向かい合ったあと、足音一つ立てず、水面すら揺らすことなく、こちらへと向かってくる。


「天は上に人を作らず。地は下に人を作らず。この世に格差はあれど、我が秘剣に天地の差なし」


 僕の近くまで来た老人は足を止めると、腰にぶら下げていた長い木剣──白鞘を抜き取る。


「なれば、この世に斬れぬものあらず」


 持ち手を前に突き出してくる。装飾も何もない質素な白鞘は、しかし確かな存在感を放っている。

 言葉はない。だが意思は確かに伝わった。

 僕は前に突き出された白鞘を片手で掴んだ。

 よく手に馴染む。初めてとは思えぬこの感覚に、久しぶりだと手が喜んでいる。


 老人が手を離した。

 白鞘本来の重さが腕に伝わってくる。

 若干重く感じはするが、さして昔と変わらぬ重さだと勘が告げる。


「──」


 自然と、僕は自分の名を告げていた。

 それが礼儀なのだと身体が覚えていた。

 反応はなかったが、続けて老人はこう言い放つ。


「お主に託そう。これぞ我が人生、我が生き様────」


 僕は鞘から刀を抜き放つ。


「故に、天地万丈(てんちばんじょう)の刀である」


 最後に、老人の口角が上がったような気がした。


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