十八話.秘剣【燕返し】
それはかつて、私が編み出した技。
全てを返す逆理の刃。
皆、最初は興味を持った。
確かにすごい。神業だと。
しかし誰かが言う。
たった一回、球を返したところで何になる。必要な技術と、その恩恵が見合っていないと。
いつからか、これは見た目だけの曲芸だと馬鹿にされるようになった。
た。
かつての私が編み出したものの、誰からの理解も得られず、日の目を浴びることのなかった技。
故に秘剣。
それが今、僕の手のなかで再現される。
今なら分かる。記憶とともに、感情が流れ込む。
私の無念。私の後悔。
しかと受け取った。
ならば、僕が受け継いでみせよう。
例え誰からも理解されなくとも、僕だけが理解者であり続けよう。
確かに一発の球しか返せないかもしれない。
でもそれは、決して無駄にはならない。
得物が、風に接触する。
嵐のような突風。殺意を持って迫る風塊は、僕の手をずたずたに切り裂いた。
──返せない。
触れた瞬間に、理解した。
腕から何かが千切れたような音がした。
そして同時に、大量の血が噴き出す。
それでも僕は、得物を振ることをやめなかった。
「ぐっ──おおおぉぉぉぉおおおぉぉぉオオオオォォォォオオォォオォッッ!!」
全身が張り裂けそうだった。
瞑想の効果が落ちたせいで、毒も本格的に回り始めた。
身体から力が抜けそうになるのを、何度も堪えてここに立っていた。
無理だ。諦めろ。
過去の僕がそう囁く。
──黙れ。
得物を握る力が強くなる。
見せる人は居ない。
見てくれる人もいない。
だからといって、諦める理由にはならない。
振り絞れ。
限界を超えろ。
その時──僕の視界に、一羽の鳥が舞った。
見たこともない鳥だ。小さいが、その身のこなしはとても素早い。
走馬灯だと思った。
しかしすぐに、これは記憶の混濁による幻だと気付く。
そして、その幻が、その幻想が──
私の燕返しを完成させた。
刀を切り返す。それはまるで、燕が身を返すかの如く。
魔物から放たれた風の塊は身を翻し、魔物の方へと向かっていく。
まるで鉄砲のような速さで向かうそれを避ける事は叶わない。それは一番、奴が分かっている事だろう。
奴は避ける素振りさえ見せなかった。私の方へと目を向けた後、その目を閉じた。刹那、風の塊は奴の胴を深く深く抉り取り、大量の血を巻き込みながら消え去った。
魔物は力なく落下し、凄まじい地響と共に森の中へと消えていく。
「はぁ……はぁ……っ……はぁ……」
腕がだらりと下がる。視界が霞み、頭がボヤけ、思考もままならない。
なぜ立てているのか、それは自分にもわからなかった。
「見事だ……」
自然と口から出た言葉だった。それはまるで、私から僕に対しては放たれた言葉のように感じられた。
驚きながらも、僕は口に笑み浮かべる。
歩む。
やがて限界を迎えた身体は崩れ落ち、もう何度目か地面に突っ伏す。しかし今回は草のクッションがあった為、痛みはあまり感じなかった。
村のこと、両親のこと、考える事は幾つもある。
それでも今は、この勝利に浸る時間が欲しかった。




