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プロローグ
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夢を見る。
それは、魔力もなしに戦う男の夢。
焼けた木と鉄と、乾きかけた血の匂い。
空は暗く、どこかで金属が擦れる音が鳴っている。
戦場だ、と直感だけが告げてくる。
そこを男が駆けていた。
魔力の煌めきも、術式の光もない。
あるのは、ひと振りの刀だけ。
刃が風を裂く音がする。
振りは速く、無駄がなく、恐ろしいほど静かだ。
斬る瞬間、世界から音を奪っていく。
強い。
ただそれだけが、夢の底に刻まれる。
袖は裂け、手の甲には古い痕があり、それでも握りは微塵も揺れない。
倒れているのが敵か味方かさえ判別できないほど、地面は黒く濡れている。
男はふと立ち止まり、こちらを振り返る。
顔はよく見えない。
けれど目だけが、あり得ないほど澄んでいた。
その目が、まっすぐに言う。
──強くなれ。
命令ではない。
もっと別の、抗いようのない何か。
手を伸ばす。
──しかし、届かない。
この夢が、情景が、薄れて消えていく。
──強くなれ。
それは、約束だ。
男は微かに笑ったように見えた。
笑みというより、ようやく終わりに辿り着いた者の安堵に近い。
遠くで、誰かが叫ぶ声がする。
風に掻き消されて、言葉の形だけが残った。
それは、かつて最強と呼ばれた刀使いの夢だった。




