#02:春風の書店
高校生編の短編連作です。
2014年 春
放課後、いつもの書店に寄った。
入口のベルが小さく揺れ、春の風が背中を押す。
話題の棚の前で立ち止まる。
受賞作や映画化されたものが並んでいる。
「2L♦︎DK」
目の前の本を手に取った。
「瀬戸さん、それ読むんだ」
斜め後ろから声がした。
同じクラスの男の子。図書委員だから、名前だけは知っている。
『…まだ分かんない』
本を戻すか迷っていると、彼が少し近づいた。
「映画になったよね、それ。…観るの?」
陽子は首を横に振った。
「そっか。…俺も行こうかなって思ってて。
一人で行くのも、ちょっと、ね…」
『…うーん…あんまり…』
空気が止まった。
春風だけが、棚の端を揺らしている。
「…そっか。じゃあ、また学校で」
彼は少しはにかんで店を出た。
陽子は本を平積みに戻したまま、棚の前でしばらく動けなかった。
手元がどうにも落ち着かない。
帰り道、さっきの会話がふと浮かぶ。
胸の奥に、説明できない音が鳴る。
目を瞑り、風の音を感じると、少し落ち着いた。
それ以上は考えなかった。
考えても分からないと思ったから。
次話:#03:半歩の距離感




