0.4.3 ポトフちゃんと孫
お昼休憩を挟んで戻って来たよ。バージョンアップして0.4.4になってるね。
「お帰りなさいませ。ポトフさん。」
「ただいまもどりま、した……?」
ななさんに迎えられると、その隣にデッッッッッカイ人がいた。ななさんの頭が肘の辺りにある……
黒曜石のような黒い肌に黒い髪。白目の部分は黒く、右目には大きな眼帯をしている。至って普通の服装だが、鍛え上げられた胸筋や腕が惜しげもなく日の下に晒されている。
特筆すべきは、髪の隙間、虹彩、そして肌の様々なところから黄色く、赤い、炎のような揺らめきが覗いていることだ。一言で表すならまさしく“溶岩の化身”と呼べるだろう。
そして私はこの人を知っている。ふわふわなものが好きって時点で察してたし、そもそも顔がそのまんまだし。
「えーっと、『ふわふわうさぎ』さんですよね?」
「ああ。『ふわふわちゃん』でも『うさぎちゃん』でも好きに呼んでくれ。」
「じゃあ……『うさちゃん』?今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく頼む。」
私がうさちゃんと呼ぶと、嬉しそうに目を細め微笑んでくれた。はぁ〜絵になるわ。
「欲しいものがあると聞いたが、なにが要るんだ?」
「はい!とりあえず、包丁とフライパンがほしいです。それから......」
思い浮かんだものを一通り言ってみよう。まずキッチンまわりのものだよね。流し台。水は魔法を覚えればなんとかできると思うから、穴を開けてもらおう。排水用と、ついでに生ゴミとかも捨てられる穴。
それからコンロ……は魔道具であったりするかな?なければ、かまどみたいな形で。そうだ、まな板を忘れてた。それからお皿とカトラリーと……
「ポトフ。」
「はっ、やっぱり多すぎますかね……?」
「いや。覚えきれそうにないから、一つずつ作っていこう。」
「はい!」
お言葉に甘えさせてもらいます!
「73、農園内に加工場をつくってもいいか?」
「そうですね。家の隣が空いているのでそちらへどうぞ。」
「加工場ですか?」
「ああ。アイテムは専用の加工施設で作るんだ。例えば剣は鍛冶場で作れる。……そう考えると料理にはキッチンが必要だな……」
「でしたら、各街の農園支店にキッチンを併設しましょうか。」
……あれ?じゃあシイタケの串焼きは?
「ポトフさんにはこの開発中のゲームに入った時点で、ある程度自由に創造する権限が与えられています。ですので、“焚き火でシイタケの串焼きが作れる”というのはその創造の結果となりますね。」
「か、勝手につくっちゃってたんですか!?すいません!」
「あれくらい問題ないさ。マズかったらおじいちゃんも止めてただろうし。焚き火で料理が出来るのは残しておいていいかもしれないな、知る人ぞ知る隠し要素的な感じで。」
おじいちゃん……あ、この人がゴインキョさんが言ってたお孫さんか。
いやぁ、怒られなくてよかった……
というわけでお家の隣に加工場ができました。鍛冶場だけじゃなくて、木材を加工したり、ガラスや陶器を作れる作業場も併設されてるよ。
「ポトフ、せっかくだから製作系のスキルを覚えてみるか?」
「えっ、そんな簡単に覚えられるんですか?」
「スキルの取得方法の一つに、“既に取得している人の真似をして覚える”というものがあります。製作スキルの大半はそれで覚えることか可能ですね。」
へ〜。じゃあやってみようかな。
「それなら、木工をやってみたいです。」
「よし。木工だな。」
うさちゃんはそう言うとインベントリから丸太をドンッ!と、取り出した。あれ?もしかしてうさちゃんの自前?
「気にするな。俺がお前の為にやりたくてやってるだけだからな。」
トゥンク……とはなりません。とろけるような笑顔だけど、うさちゃん私の頭見てない?綿毛帽子見てるよね?さてはコイツこれに惹かれてわざわざ助っ人に来たな……?しょうがないにゃあ……
「うさちゃん……後で私の頭触りますか?」
「!!!いいのか!?……いやしかし……!」
な、なんだかすごく葛藤してる……
「ポトフさん、うさぎさんは固有スキルの都合上、あなたに近寄らないように気をつけてらっしゃるのです……」
「えっ……もしかして、見た目通り触られたら消し炭になったりします……?」
「その通りです……ウッカリ触れられると即死です……」
うさちゃんの固有スキル〔溶岩の肌〕は、火属性のダメージを完全に無効化する。
ただし、素肌、つまり装備をつけていない部分が触れた生物に、知力依存の火属性ダメージを毎秒与える。じゃあ装備をつければ?って話だけど、頭、胴体、腕の上半身部分に装備を着ているとこのダメージは無効化関係なく自分に入ってしまう。熱がこもるってことだね……スキンは着てても大丈夫。これがあるので、装備は実質8つまでしかつけられないらしい。
あんまり意識してなかったけど私今、全裸なんだよね。初期スキンだけ。ダイレクトにダメージをもらう状態。
いくら私が火属性無効化を持っているとはいえ、うさちゃんとレベル差がありすぎる現状では、指で突かれただけで消し炭である。
曰く、「一度触ってしまったら抑えられる気がしない」らしい……今思えば、私が近づいたら一歩下がってたな……
「ポトフ……とりあえずお前の頭の装備を先に作ってもいいか……?」
「ど、どうぞ……」
作ってもらう側が文句は言いませんよ……