0.4.2 ポトフちゃん初めての収穫
さて、新しい作物の作り方を教えてもらおう。
「そちらの水球に手を添えて、創りたいものを想像してください。難しければ、既にある作物を水球に入れて、その作物をベースに作り変えることができます。」
なるほど。早速水球に手を伸ばし想像してみよう。
まずは見た目、豚……豚といえばやっぱりピンクだよね。遠目で見ると分かりづらいけど毛も生えていて……モモみたいな感じかな?
そしてこのピンクの皮の部分。……豚の皮って食べたことないな……いや豚足があるか……よく考えたら部位もたくさんあるし……私、豚のこと全然知らないや……
「ななさん……」
「どうかなさいましたか?」
「WEBで調べながら作ってもいいですか?」
「構いませんよ。」
許可がおりたのでゲーム内ブラウザを起動。えー、『豚 とは』
………………
「こ、こんなに部位が分かれているのですね……」
「結構多いですね……」
定番の豚バラ、ロースから豚足にミミガーまで。細かく分ければ内蔵や舌だって食べられる。あんまりいっぺんに増やしてもややこしくなるだけなので、今回作るのは豚バラ!君だ!
他の部位は、ガワだけ同じにしてブドウと山ブドウみたいに一緒に生えるようにしよう。エノキみたいに(バラ)とか(ロース)とかつけてね。
皮はさっきのでいいとして、そうだ、腸の代わりにできるように皮と身の間に薄皮をつけよう。卵の薄皮みたいな感じで。これを使ってソーセージとか作れたらいいな。
大きさはモモをベースに考えてたけど、バラブロックみたいな縦長にして……でっかいナスみたいになったな。
中身の方は皮付きだとわかりづらいので半分に分けて断面が見えるようにしてから作り込んでいく。皮に近い外側は脂身で、中央に向かうにつれて縞々っぽくなるように赤身部分を増やす。これ、〈粗〉だと全部脂身とかになるんだろうなぁ……
そして種。至って普通の種。そういえばハートの模様がついた種ってあるよね……よし豚鼻のマークをつけよう。コンセントの差込口みたいなやつだ。まわりには豚骨でできた殻をつけよう。これでスープにつかえるぞ。
骨がつくとスペアリブっぽくなっちゃったな。ランダムで種無しとかに出来ないかな、ブドウみたいに。
「できますよ。」
「できるんですか?」
「ポトフさんは現在、果実を食べて中に入っている種を取得されておりますが、いままでポーション用に存在していた薬草の種は、店から購入するか、薬草を収穫した瞬間にランダムで取得できるようになっております。」
「つまりこれから創る作物もそのランダム設定にしちゃえばいいってことですね。」
「ええ。それに、ポトフさんは緑の手のスキルをお持ちですので、確定で種を取得できますよ。」
「ランダム設定にします。」
ついでに、いままで食べてた果物とかもその効果をつけることになりました。私がパラメータを設定したあとから効果が発揮されるよ。
ということで完成しました!豚肉でできた作物!名前は、えー……
「『ブタモモ』です。」
「ブタモモ、ですか?豚バラがどうこう仰ってませんでした?」
「果物の方のモモですね。最初はそのイメージで作ってたので。」
「もはや影も形もありませんね……」
縦20センチ、直径10センチほどのデカくてずんぐりむっくりしたフォルム。モモではないね……
出来上がったオリジナルブタモモはこの部屋の棚に並べておいて、お次はこれの種を畑に植えに行って育ち方を設定するよ。
まずは家の目の前の畑に種を撒きます。そしてどんな風に育てたいか想像しながら〈植物成長〉スキルをかける!と、すぐにぴょこんと芽が出てきた。
本来はもっと時間がかかるんだけど、開発期間中は特別に、爆速で育つようになってるんだって。
モモに引っ張られて、果物みたいに木に生る形にしようかなと考えていたけど、そういえば、と思い出しスキルをかける手を止めブラウザを表示する。
「ななさん、この『スイカ』のイラストのクルッとしたつる、豚のしっぽみたいじゃないですか?」
「!!!!!地面に植えましょう!!!」
めちゃくちゃ食いついた……豚がお好きなんですね。
それじゃあスキル再開です。
地面から生えるということで、スイカのようなつる植物に。葉っぱは豚の足跡みたいな形で〜花は〜、あっ!花は豚の耳をモチーフにして食べられるようにしたらいいんじゃない?これは別の日にやろう。
根っこは豚足にして……これも後回し。形だけそれっぽくしといて、今はブタモモ!
何回か植物成長をかけて、形を手で整えたら……完成!
「できました!ブタモモ!」
「ああ、なんて可愛らしいんでしょう……!まるで子豚ちゃん達が葉っぱの陰でかくれんぼしているようです……!」
むっちりたわわに実ったブタモモをこれでもかと言うほど撫で回すななさん。私もちょっと触ってみよ。うお、むちむち……身が詰まってるわ。
収穫しようとつるの部分を引っ張るも、うぐぐ、か、かたい……ナイフを買おうと思ってたのすっかり忘れてた……
「ななさん、ハサミとか持ってませんか?」
「…………はっ!ハサミですか?」
「ここの、つるの所を切りたいんです。」
「それでしたらお任せ下さいませ。」
スパパッと的確に(見えなかったけど多分ナイフで)つるからブタモモを華麗に切り離し、3つあったうちの1つを我が子のように抱きかかえている……あっ、頬ずりしだした。
「ポトフさん、早速味付けをしていただけますでしょうか?」
「あ、えーっと、野菜とはいえ一応豚なので火を通さず生で食べるのはちょっと……それに、刃物がないとこの皮も剥けそうにないですし……」
「あら、そうなのですか?刃物は……この街で買うとなるとNPCだよりになってしまいますから、どうしても品質が〈並〉になってしまいますわね……あら?ちょっと失礼します。」
〈並〉ってあんまりよくないのかな……とか思ってたらなにやら話し合いモード。ブタモモをもちもちして時間を潰そう。
「ポトフさん。」
「あっ、話し合い終わりましたか。」
「ええ。このあとのアップデートでフィールド上を高速移動できる手段が追加されることになりました。」
「高速移動ですか?」
「はい。それぞれの街にある乗り合い馬車、もしくは、自身のテイムしたモンスターに乗って移動できるようになるんです。徒歩よりもずっと速いですよ。」
へ〜。便利機能の追加か。街と街の間の移動がこれで楽になるね。とか思ってたらなんとも言えない顔をしだすななさん。どうしました?
「それを利用……して1人、助っ人……? ええ、助っ人ですね。その方がいらっしゃるそうです。製作系のスキルを一通り持ってらっしゃるので、刃物類はその方にお願いしましょう。」
「製作スキル……!鍛冶スキルもあるんですね?包丁とかフライパンとか欲しいものいっぱいあるんですけど、作ってもらえますかね?」
「あなたにお願いされたなら、喜んで作るでしょうね。」
わ、私にお願いされたら……?なんか意味深なんですが、怖くなってきたんですが。
嫌〜な妄想をしてぷるぷるっと震えると、ななさんは苦笑を浮かべて一言。
「小さくてふわふわしたものが好きなだけの方なので、邪険にしないであげてくださいね。」
ん?ふわふわ?