0.4.1 ポトフちゃんと農園
おはようございます。昨日のお肉解体事件を引きずっておりますが、私は元気です。
さぁログインしますよ。
「あれ?」
ゲームに入ると目の前には更地。私の記憶が正しければここに解体場があったはずでは……?首を傾げていると後ろから声が掛けられた。
「おはようございます。ポトフさん。」
「わっ!おはようございます。」
振り返るとそこには一人の女性がたっていた。頭には花飾り、いや、花が生えているように見える。黒目がちな紫色の目はブドウのように艷やかだ。花弁のような華やかなドレスを身にまとっており、貞淑さの中にどこか危険な妖艶さが見え隠れしている。綺麗なバラには棘があるとはこのことか。やや、人外寄りなこの見た目はおそらく“アルラウネ”のほうか。しかし、こうして声を掛けられたということは………
「えっと、今日の担当さんですか?」
「はい。わたくしめのことはどうぞ“73”とお呼びくださいませ。」
「ななさん、さん?」
「“ななさん”でございます。」
なんかイントネーションがどう聞いても数字の7と3なんだよな……製造番号とかじゃないよね?AIじゃないよね?と、とりあえずよろしくお願いします。
顔合わせも済んだところで早速質問です。
「ななさん、昨日までこのあたりに……えー、小屋があったと思うんですけど……」
「わたくしもそう聞き及んでおります。なにぶん、昨日はお休みを頂いておりましたので今朝聞いたばかりの話なのですが、緊急会議でいくつかの要素が削除されたとのことでして、ここにあった小屋もそうなのでしょうね。」
仕事が早いなぁ〜。お肉アウトでしたか。ゴインキョさんの様子からしてそうでしょうねって感じだったけどね。街の肉屋とかも消えてるんだろうなぁ、あの串焼き肉の店も……食べとけばよかったな……いやそんなことしてたらドン引きされるどころかクビになってたかもな……
「そこで、わたくし共からポトフさんに2つほどお願いがございます。」
「お願いですか?」
「はい。1つ目は削除された要素に代わるもの、即ち肉に代わる食料をポトフさんに作って頂きたいのです。」
「肉に代わるもの……」
果物とか野菜で埋め合わせちゃだめなの?って思ったけど、どうやら、私が新しい植物をつくりたがっていることを聞いてたスタッフさんが居たみたいで、どうせならポトフに任せてみない?ってことらしい。ありがたく提案を受けることにしよう。
「やります!」
「ありがとうございます。それではこの辺りをポトフさん専用の農園にしましょうか。」
「専用の農園!?いいんですか?」
「ええ。これは2つ目のお願いにも関わって来るのですが、この農園に未鑑定のご飯を持ち込ませて頂きたいのです。」
「未鑑定のご飯って、まだパラメータが設定されていないご飯ってことですか?」
「そのとおりです。」
つまり外れ値のご飯の品質をきめてほしいってことか。全然いいですよ。
「ありがとうございます。できる範囲で構いませんので、ご自分のなさりたいことを優先してくださいませ。それでは少々失礼いたします。……………………」
お、話し合いモードですね。
それにしても農園か〜。街に来ていきなり大地主になっちゃったな。というか別ゲー始まりそうだ。
やりたいこと……やりたいことねぇ。やっぱ美味しいご飯を食べることだね。最初はそんな個人的な願望だったけど、今はいろんな人にご飯を広めるのもいいなぁって思ってる。新しい作物もつくれそうだしなんだかんだ要望が全部叶いそうだ。
「ポトフさん、こちらへ。」
「はーい。」
ななさんに誘導されて街を囲う外壁のそばへ。農園できるのかな。
「お願いします。」
ななさんのその言葉と共に目の前の地面が揺れだす。更地だったその場所はボコボコと波打ち、耕された畑のようになっていく。ある程度の範囲が耕され揺れがおさまると、その畑部分を囲うように等間隔で木が生え始め、木と木の間にはわさわさとしたしげみが生い茂り、天然の柵の出来上がりだ。
「わぁ〜!すごい!」
「お気に召していただけました?」
「はい!召しました!」
地図で大きさを見てみると、森の街の4分の1くらいはありそうだ。
農園の入口に案内してもらって、あれ?違和感を覚えて振り向くと、北にあった門よりもやや小さい門があり、大通りならぬ、中通りと呼べるような道があった。
森の街には“ト”の形に大きな道が通っており、接点の位置に大樹がある。始点と終点の3ヶ所に大きな門があり、本来なら今いる北東方向に門などないはずなのだ。
「ななさん、なんでここ開いてるんですか?」
「農園から直接街へ行き来できるようにさせていただきました。」
「いやまあ、便利でしょうけど。」
「この場所へ最も近い、世界樹に通じる道へ出る北門は、物語終盤まで閉じたままにする予定がございますので。このままでは不便かと思いまして。」
「世界樹の所に行けるようになるのって、そうとう先ってことですか……?」
「そうですね。何ならこの街も、リリース直後のバージョンで来ることはできません。少なくとも我々にそういった制約はないので、自由に歩き回ってくださいませ。」
なんでも、リリース直後に遊べるのは、この大陸の中央にある『湖の国』とその周辺にある国の一部の地域のみなんだそうだ。そこから時間をかけて『草原の国』と『樹海の国』の一部を少しづつ実装。草原の国を終えたら、森の街を含んだ『樹海の国』の一部と『火山の国』。その次はまた別の国と何年もかけてやっていくそうだ。すごく息の長い計画だあ……
「じゃあ未鑑定品の持ち込みってどうするんですか?」
「それぞれの街に農園の支店を置くことになります。」
なるほど。ここが本店。改めて農園を紹介してもらう。入り口は森の街の門をさらにちっちゃくした様な感じ。アーチみたいになっている所に農園の看板でも掛けたらそれっぽくなりそう。中に入ると右手には大きな木!扉と窓がついていて、中に住めるようだ。左手側には、大きなテントがあり、中にはカウンターや棚が並んでいる。農園の方は……あんまり広くないような気がする。気のせいかな?
「最初から広すぎるのも大変かと思いまして、この大きさにしております。この農園は特殊な空間に建っておりますので、いくらでも広げることが可能です。家の中も同様ですのでカスタマイズの方はご自由にどうぞ。」
「へー……特殊な空間っていうと天気とか時間経過はどうなりますか?」
「外部と同じでございます。ただ、この空間内は世界樹の周辺と同等の環境になっております。」
「!それって環境問わずなんでも育つってこと?」
「仰る通りでございます。」
そうだよね、そうでもないとオリジナル作物って育たないよね……
農園の方は見たので、今度は木の家に入ってみる。この家は完全に私の持ち家として扱っていいらしい。私が許可した人だけ入れるよ。中は見た目よりも広い。一階には机と複数の椅子があり、リビングの様な感じ。……キッチンがないな……後でつくるか。二階にはベッドルーム。そして地下室。ここには机と椅子、それから棚が並んでいる。机には魔法陣が描いてあり、中央にはスライムのような水玉が浮いている。
「ここで新しい作物を作っていただければと思いまして。」
「なるほど研究室。」
一応、農園内であればその場で形をいじってもいいらしい。
一通りまわって見たし試しに何か作ってみようかな?なにがいいかな……やっぱ肉かな。
「……ポトフさん。」
「どうしました?」
ななさんに顔を寄せられ囁かれる。な、なに……?
「豚さんのお肉の味を再現した作物はつくれますでしょうか。」
「丁度そういうのもつくろうと思ってた所です。」
ななさんあんた、結構モノ好きな人ね……。