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0.8.1.xx あるお姉ちゃんの1日

・序盤のインベントリ修正の下りを削除

 キッカケは“妹”に誘われた事。


「ね!これ一緒やろ?まだリリースしてないけど先行プレイの募集やってるの!」


 見て見て〜!と押し付けられたスマホの画面には、ユービキアスとか言うゲームの広告が流れていた。


 ─広大で美しい、ファンタジーな世界へ転生してみませんか?─


 そんなキャッチコピーと共に、風景、街並み、戦闘シーンなど、開発中と書かれた画面が映し出される。


「うーん……でもこれ戦闘あるっぽいじゃん……」


 ジャンルはVRMMO。目の前にいる妹と違って、お世辞にも運動神経が良いとは言えない私に、全身を使ったアクションゲームは厳しすぎる。


「でもクラフト要素もあるみたいだよ?」


 ふむ。確かに、パッ、パッ、と切り替わる画面の中には、材料を大釜に入れてポーションを作る様子や、魔法を使って布地を裁断したり縫い合わせたりしている様子が写っている。


 ……私はこういったものづくりゲームや作業ゲームが大好きなのだ。

 ちまちまとした、人によっては面倒とも言える作業を経て一つの作品を完成させた時の達成感……!正直、この広告にも心惹かれちゃってます。


「ね〜お姉も一緒にやろ〜よ〜。戦闘はアタシに任せてバフだけかけてくれればいいからさぁ。最悪、合わなかったら辞めちゃっていいからさぁ……」

「う〜……わかったわかった。」


 そんな揺れる心を、妹に後押しされる形で先行プレイに応募することとなった。

 いや〜この時は受かると思ってなかったんだけどなあ。


 ────────


『さあ、行くがよい!』


 種族多すぎる!見るだけで1時間はかかっちゃったよ。

 その結果、選んだ種族は幽霊族。死んでる訳じゃなくて、そういう種族があるみたい。

 聖、光属性の影響がない場所なら攻撃がすり抜けるスキル、そして、敵から狙われにくくなるスキルを持ってるからこれにしたよ。


 キャラメイクを終えて放り出されたのは、だだっ広い草原の中にある野営地。あ、これはあとから知ったんだけどね。


『君、大丈夫?』


 柔らかい男性の声に目を開くと、途端飛び込んでくる、鼻の奥をくすぐる嗅いだことのない爽やかな香り……これは、何だ?


 あまりの情報量に、心配するNPCの声も届かないほど固まる私であった……


 ………

 ……

 …


 草原の匂いに翻弄され、敵に翻弄され、街の匂いに翻弄され……最後にワイバーン便に翻弄され……

 なんやかんやで湖の国へ到着!!つ、疲れた……


 ギルドのロビーにあるテーブルに突っ伏していると、ピコっと通知音。

 妹の方は既に湖の国へ来ていたようで、“そろそろチュートリアル終わった〜?”とゲーム外のチャットに連絡が溜まっていた。


 ロビーで休んでるよ〜と返すと、近くにいたらしく、返事ではなく本人が直接来た。これで無事、合流出来ました。


 チュートリアルで死にかけた。と話すと、「本当にアクション苦手だよね……」となんとも言えない目で見られた。

 ムズいよ!あんな突進避けられないって!


「突進?」

「してきたでしょ?宙に浮いてる鳥みたいな魔物がヒュッ!って。」

「アタシ、ゴーレムみたいなやつに殴りかかられたんだけど。」


 おやおや?なにか噛み合わないと思ったら、妹は火山の国にある、石の街ってとこの近くにスポーンしたらしい。なるほど、スポーン位置はランダムなのかな。そして、国によってチュートリアルの内容が変わる、と。



 さて、十分休めたし、パーティも組みました。ひとまずクエストは後回しにして、そこいらを見て回ることにします。

 ギルドの外へ出てみると、何だかザワついている。ただの喧騒ではなく、芸能人がいるよ!と言われた時のような、統率の取れた騒めきだ。


「どしたんだろ。」

「あ!あっちに人集まってるっぽいよ。イベントでもやってるんじゃない?」


 妹が指差す声の大元は、ギルド前にある広場から見える大通り。騒めきに釣られてか、次から次へ人が入っていく。意を決して私達もその通りへ向かうと、そこには……



「そのバナナ?白いヤツください。」

「ん〜!」

「あちちっ!はっふ……」



 白い飲み物を注文する人。

 葉っぱに包まれた黄色い何かを頬張る人。

 茶色い塊をつまんで食べる人。


 マンガやアニメでしか見たことのないような、現実味のない不思議な空間が広がっていた。皆が思い思いの屋台で商品を買い、口にしているのだ!

 そして、その食事をしている人の大半から『味がある。』『味がついてる。』と言う呟きが漏れ聞こえてくる。

 料理に……味が?あの屋台に並んでいる料理一つ一つに味が?


「ア、アタシたちもいこ!売り切れちゃうかも!!」

「あ、ちょっと!」


 妹も私と同じことを考えたのだろう。私の手を引いて空いた店へと素早く駆け寄る。


「その白いヤツください!」

『あいよ!バナナジュースは1つ5石だよ!』

「私も1つ!」

『まいど!』


 そんな一瞬のやり取りであっさりと手に入った“バナナジュース”とか言う飲み物。匂いを確かめる私の横で、早速妹が一口。


「……ん〜!!」


 それほどまでに格別な味だったのか、目をキラキラ輝かせながらはしゃぎ、ポフポフと私の肩を叩く。ハイハイ、早く飲めってことね。


「ん!?」

「んはっ!そうなるよね!」


 な、何なんだこれは……舌の上に広がる不思議な味。水よりも重さを感じる液体に、ぬるりとした感触の謎の物体。

 鼻に抜ける独特な香り、喉を滑り落ちていく感触、私の細胞一つ一つが、未知を、味わわんとする。


 いつの日か見た、ドラマのワンシーンが脳裏に呼び起こされる。その時代ではなんてことはなかったであろう食事風景。美味しいね、なんて言って笑い合う家族達。


 視界に映る楽しそうな妹を見て、私は理解した。これが“美味しい”ってことなんだね。


 バナナジュースを飲み干し、コップが消える頃にはもう、私の覚悟は決まっていた。


「これ……」

「お姉?」

「これ、作りたい……!」


 料理、作りたい!いや、作る!

 今までにない味、想像できない作り方。その全てが私の創作意欲を掻き立てるのだ。


 何より、私の妹と、そして、これから先来るかもしれない“きょうだい”達に美味しいね、と言ってもらいたいのだ。


 ………

 ……

 …


 結局のところ、バナナジュースを飲んだあとは、屋台通りで一品一品じっくり食べ歩いた所で今日のゲームはおしまい。

 楽しいんだけど、すっごい疲れるんだよね……嗅覚とか味覚とか、普段あまり使わない感覚を使ってるからかも。妹はまだ元気っぽかったけど、お姉は体力持ちません。


 料理が作れるか否か、私がそれを知ったのは夜、ログアウトしたあとのことだった。


『お姉〜これ見て!』


 ベッドでゴロゴロ、そろそろ寝るかと思っていたところに、妹からの連絡。

 何かと思えば送られてきたのは、ある配信者のアーカイブの切り抜き動画。しかもユービキアスの動画ではないか。

 よほど面白いバグかはたまた珍プレーか、ちょっとワクワクしながらリンクをタップする。


 ────────


【ユービキアス】胸筋、初めての〇〇【胸筋】


『なんかね、これ作ったらバスクサの串焼きってのがアンロックされたんだよね。』

 ………

『はい。で、バスクサのこの、太いほうから刺していきます。……』

 ………

『うおー!出来てる!あっレシピきた!』

 ………

 ……

 …


 ────────


 こ、これは!!料理!できるんじゃん!私、明日から料理やります!

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