0.3.3 ポトフちゃんとお肉
今回ちょっと微グロです。
本日はお休みなのでこれからやりたいことを書き留めておこう。
1.調味料、調理器具の調達。
これは早めに確保したい。
2.植物の育て方。
薬草は自分で育てられるみたいだし、畑みたいな施設があるのかもしれない。キノコなんかは種で増えないし、なんか考えとかないとな。要確認だ。
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さて、休み明けです。ログインしたら前回に続いて街を目指すよ。
「ゴインキョさんって、もしかしてマップ全部埋まってるんですか?」
「うむ。わしの種族の能力じゃな。」
「世界樹の精の能力?」
「この大陸全体に根を張り巡らせている……という設定があるんじゃ。」
制作側だから地図が頭に入ってるのかな?それでもやけに詳細だな?と思っていたけど、なるほどそういうことか。
休憩を取りつつ南下していくと、ささやかな木漏れ日に照らされた森の中から、明るい開けた場所へ出た。
「わぁ……ここが森の街ですか?」
「うむ。今わしらがいるこの樹海の国で最も大きい街じゃ」
外からみると、地面に生えている背の高い木を柱に、枝やツタを編んで密集させたような外壁に囲まれているのが見える。壁のない、恐らく出入口であろう場所を通り抜けると、そこには街があった。
入ってすぐの、真っ直ぐのびた大通りと呼ばれるうな道の左右には、ログハウスのような丸太で出来た家や、ツリーハウスのように木の上に作られた家が建っている。看板が出ている家は店だろうか。道沿いには露店が立ち並んでおり、なかなかの賑わいをみせている。
行き交う人々は頭に花が生えていたり、足が根っこになっていたり、植物の特徴を持った人が見受けられる。人間と変わらない見た目の人もいるが、案外そういう人も植物種族だったりするのかもしれない。
「なんだか鼻が曲がりそうじゃ。」
「いろんな匂いが混ざってますもんね。」
現代人はこんな匂い嗅いだことないだろうから、さぞ強烈に感じることだろう。
真っ直ぐ行った街の中央らしき場所には、世界樹程の大きさはないものの、巨大な木がある。ウロの部分には樽のふたのような扉であったり、丸に十字の入った木枠で出来た窓のようなものが見える。まさか家ではあるまいし、何かしらの施設だろう。
「お昼時だからか結構賑わってますね。これ、全部NPCなんですよね。」
「そうじゃ。今のところは設定された生活ルーチンにしたがって動いておるだけじゃがな。プレイヤーが近づいてもこれといった反応はせんが、話しかければ簡単な受け答えはしてくれるぞ。」
反応がないと聞いて、早速、食べ物を売っている屋台に近づいてみる。食べ物系のアイテムはないのにこういうのはあるんだね。
グリルの上で串の刺さった大きな肉がジュージューと焼かれている。味付けはなんだろう?非常にスパイシーで食欲をそそる匂いがする。横にはすでに焼かれた肉が立てて並べられていて、これを削ぎ落としてパンなんかに挟んで食べるようだ。ケバブってやつ?シュラスコだっけ。
「それはなんじゃ?」
「肉を焼いてるんですよ。いいにお〜い。」
「……肉?」
「そうです。牛か豚だと思います。」
「この街の住民は肉を食っておるのか?」
「これを見てる分にはそうだと思います。」
ゴインキョさんは眉間にシワを寄せて黙り込んでしまった。薄々思ってたけど、やっぱこの世界の人たちお肉食べるの無理そうかな。たしか、愛護団体みたいなのもあったはずだし、そうじゃない人にもいい顔はされなそうだし、このまま実装されたらまずそうだ。
ここに来るまでに聞いたけど、新しい植物を作ってもおっけーらしいから当初の予定通り肉の代用品になりそうなものをつくろう。
というわけで提案です。
「ゴインキョさん、確かめてみますか?」
「……何をじゃ?」
「この街でお肉が食べられているのかどうかを。」
「…………うむ。」
ゴインキョさんから許可を貰えたので早速聞き込みだ。とりあえず目の前の串焼きの店のおじさんに聞いてみる。
「すいません。この辺りにお肉屋さんってありますか?」
「肉屋ならこの通りを北にいった所にあるよ。」
「ありがとうございます。」
おっと、街並みに気を取られてここに来るまでに見落としてたみたいだ。
周りの出店に意識を配りつつ、北上すると見つけた!大きな葉っぱのテントの梁には、ドデカい肉塊が吊り下げられ、テーブルにはズラーッとお肉が並べられている。牛、豚、鶏……こっちは何だろう、羊とかかな?
「ほら、ゴインキョさん、ここがお肉屋さんですよ。」
「これが……」
どんどん口数が減るゴインキョさん。心なしか顔色が悪いようにも見える。このゲーム顔色まで反映されるの?あ、泣いてるとこ見られたんだっけ。やっぱ感情の動きが反映されるのかな。
ダメ押しとして最終確認。肉屋のおじさんに聞いてみる。
「すいません、この辺りに食肉加工する場所はありますか?」
「北門から街の外へ出て、西へまっすぐいった所にあるよ。」
「ありがとうございます。」
正直あんまり気は進まないけど、外に参りましょうか。……ゴインキョさん、大丈夫かな?
「やっぱり、やめておきましょうか。」
「…………いや、これは確認しておくべきじゃとわしは思う。」
ゴインキョさんの覚悟を無駄にはできまい。北門を出て西へ。外壁に沿って少し歩くと、街外れへのびる踏み慣らされた道がある。その道を進むと小屋が見えてきた。
「ゴインキョさん。」
「……はぁ、大丈夫じゃ。」
小屋の外からでもわかる血生臭いにおい。連れ込まれた豚の鳴き声がフゴフゴと聞こえる。ここまでくるとゴインキョさんの顔色が悪いのがハッキリわかる。
覚悟を決め、小屋の窓から中を覗き込む。丁度台の上に載せられるところのようで、悲鳴にも似た鳴き声をあげ、数人がかりで抑えつけられジタバタともがいている。一人の男が豚の首元にナイフを、
………………
…………
……
ゴインキョさんから反応が返ってこなくなっちゃった。豚の解体を済ませた人たちはすでに街へ戻っていった。でもここで一人にされるのは怖いんですけど。
血の匂いが気になるのでゴインキョさんを引きずって小屋から離れ、近くの木にもたれかかる。と、ゴインキョさんが消えた!えっ、ログアウトした?と、思ったらなにやらポコンとウィンドウが出てくる。なになに?
「『ふわふわうさぎ』さんから着信中?」
誰!?いやスタッフさんしかいないな、ふわふわうさぎ……。そういえば女性のスタッフさんが何人か居たな……その内の誰かかな?ともかく、許可ボタンを押して電話に出る。
『もしもし、ポトフさん?』
ひっっっっっっく!!!声低!この声あの人だ!私にカウンセリング勧めてきた人!あの人がうさちゃん!?
『ポトフさん?』
「あ、ああ、はいお疲れ様です。」
『お疲れ様です。ポトフさん、終業時刻にはまだ早いんですが、今日はもうあがってもらって大丈夫です。』
「あ、え、そうなんですか?」
これはもしかして、ゴインキョさんが早上がりしたのと関係してる?
『本日ポトフさんたちが見つけた……肉に関して話し合う事になったので。』
「そうなんですね……ゴインキョさんは大丈夫ですか?」
『おじ、んんっ、ご隠居は大丈夫です。少々気落ちしてはいますが。健康そのものです。』
「そうですか……」
『それから、明日はご隠居が休みなので、別の者がつきます。』
「!?わ、わかりました。」
『……ポトフさん、何かある前にカウンセリング、いえ、自分でもいいので相談してくださいね。それでは失礼します。』
そう言って通話は切られた。……またカウンセリングを……いやでも今回はそうだね、かなりショッキングなもの見ちゃったからそりゃ心配されるよ。それにしても明日お休みって、ゴインキョさん大丈夫かな?確かめてみるか、なんて聞かなきゃよかったかもなぁ……
ペしょぺしょにヘコんで、本日の業務は終了です。お疲れ様でした……