0.8.0.1 ポトフちゃんは招き猫
さあ、湖の国へやってきましたよ。
ワイバーンの発着場を出て、ギルドの方へ向かうと、早速いつもとは違う光景が目に入った。
興味津々といった様子で辺りを見回しながら歩き回る人。
知り合いを見つけパーティに誘う人。
スライムの大きさを比べ合う人。
いる……!プレイヤーが、魂の入ったアバターがいる……!
似たようなタイミングでチュートリアルが終わった人が多いんだろうね。結構な人数がギルド前の開けた場所にいる。あ、今もギルドから人が出てきた。
感動してきょろきょろと辺りを見回していると、少しずつ人がはけ始めた。どうやら、クエストをこなしに行くようだ。
おっとまずい、ボーッとしてる場合じゃないね。バラけないうちに、食事アピールをしましょう。
屋台のある通りの方へ移動し、ハードルの低そうな食べ物を吟味します。
お、丁度ジュースを売ってる店が、通りの入り口にあるね。プレイヤー達側から見ると屋台の背が見える形だけど、私が購入する様子はよく見えるだろう。あれにしよう。
意気揚々と屋台へ向かい店主のお兄さんに話しかけます。
「すいませ〜ん、この、飲み物?って買えますか?」
今の私は役者…!声を張りつつもたどたどしく、オレンジ色の飲み物を指さしてたずねる。
『ミカンジュースかい?一杯5石だよ!』
「じゃあこれで。」
『はい、毎度!』
さあ、購入できました。店主さんからコップを受け取り、鼻を寄せる。んん〜いい香り。
周りの反応は……ふふふ。見られてる見られてる……注目されて緊張している、ぷるんちゃんの震えっぷりで分かるよ。
探るような視線を一身に受けながら、いざ実食。恐る恐るコップに口をつけ、一口ゴクリ……
「……!」
その瞬間、驚いたように目を見開き、一口、もう一口と飲み進める。美味い!
くぴくぴ飲みながらも周りに意識を向けると、近くにいるプレイヤー達の会話が、さわさわと耳に入ってくる。
「あのお店って背景じゃなかったんだ。」
そうです!れっきとしたお店です!
「もしかしてアレにも味がついてるのか?」
その通りです!ん?アレに“も”?もしかして、ケーランボーロを食べてくれたのかな?
「えっ、あの首元のってスライム?スライムって肩に乗せられるの?」
あっ、はい。ちっちゃい子なら肩でも頭でも乗せられると思います。
ツカミはなかなか悪くなさそう。ミカンジュースを飲み終えたら、次はバナナジュース!
購入したら、飲みながら移動します。この場に居座ってたら、他の人が買えないからね。
せっかく興味を持ってくれてる人がいるんだし、邪魔しちゃ悪い。次の食べ物を探しますよ。
「あの〜、あの人が飲んでたオレンジ色のやつって買えますか?」
『ミカンジュースだね?一杯5石だよ!』
ジュースの屋台を離れてすぐ、そんな声が聞こえた。やった!釣れた!
チラッと視線をやると、立派な2本の角をもつ女性がジュースを購入している!
支払いを済ませコップを受け取ると、手で仰いで匂いを確かめたり、掲げて光に翳したり、と理科の実験じみたやり方で観察している。
観察を終えると、そーっと口を付けてコップを傾けた。チビッと口に含むと、その味に驚いたのか、ぴくり、と肩を震わせる。
ハラハラしながら見続けていると、むにゃむにゃと咀嚼しだした。味を確かめているようだ。そして、そのままコクリ、コクリと飲み干していく。これは……なかなかいい反応じゃない?
さて、2人の人間がジュースを飲み干したことで、そういうものなのかと認識されたのか、3人、4人と興味を持った人がジュースを買い始めた。
ここまでくれば、後は芋ずる式。私が飲む様子を見ていなかった人でも、他の人が飲む様を見てジュースを購入している。
中には飲まずにインベントリへ閉まっちゃう人もいたけど、ほとんどの人がその場で口にしてくれてるみたいだ。
ゴクゴク豪快に飲む人や、口に合わなかったのか眉間にシワを寄せ首を傾げる人。
反応は三者三様だが、飲んだ人の評価は概ね好評なようだ。
いや〜なかなかいい滑り出しじゃない?次は食べ物の屋台に手を出しましょうか。
………
……
…
オムレツ、からあげ、クレープ……
黙々と食べ歩いていると、市場の端の方まで来てしまった。
一旦ギルドの方に戻ろうかな。そう思って振り向けば、
「マジで食える……」
「うわっ、口ん中で溶ける!」
「うぇ、なにこれ!」
「それどんな味?」
「えー、言語化すんのムズい。」
私の通った後には、ご飯を食べて一喜一憂してはしゃぐ人々が。そう、私が見たかったのはこれだ……!
へへっ、鼻の奥がツンとしてきちゃった。
しみじみと感傷に浸りつつ、プレイヤー達の会話に耳をかたむけながら、おにぎり片手に歩みをすすめる。
「そっちの、白地に赤いのが乗ってるやつ下さい。」
『はい、イチゴホイップクレープですね!12石になります!』
「え、それさっきの人が頼んでたヤツじゃなくない?」
なぬ?振り向いた先には2人組の女性。
確かに、私が買ったのはイチゴホイップではなくバナナキャラメルだった。
「でもこれも食べれるヤツでしょ。半分こしよ。」
「え〜、まあいいけどさ……」
おお……何というチャレンジ精神!
どうかな?口に合うかな?
クリームのたっぷり乗ったところをひと口食べると……「「んー!」」とハモり、瞳を輝かせながら目を見合わせている。美味しいみたいだね、良かった!
「攻撃バフが3時間継続か。」
「プラス5ってしょぼくないスか?」
「最初に手に入るレベルのものだし、こんなもんじゃない?」
こっちの4人パーティの人達は、からあげを指でつまみ、ゲームプレイヤー的視点で語らっている。
うんうん。それもアリだ。
「しょぼいとかどうでもいいわ。もっと食いてえから買おうぜ。」
「そうだな。」
「賛成。」
「異議なしっス。」
うーん、まさに鶴の一声。
手に持っていたからあげを一斉に頬張り、からあげの屋台へ足早に駆けていく。男子って感じで微笑ましいね。
のんびり歩いて、ギルド前まで戻ってきました。まだ人がちらほらいるけど、片手で数えられる程まで減っていた。
新たにギルドから出てくる人は、賑わう様子が
気になるのか、吸い込まれるように屋台のある通りへ向かう。いい連鎖反応が起きてるね。
「わっ。」「おっと。」
そんな様子を伺いながら歩いていると、人とぶつかりかけた。
「すいません。」
「ああ、こちらこそすんませ……ん。」
ケモ度やや高めな狐頭の、ひょろっとした獣人のお兄さん。謝罪の声が途切れたかと思うと、クワッ!とフレーメン反応のような表情をこちらへ向けてきた。何!?
「お、お、おにぎり!?そのっ、おにぎり何処でっ!!??食べれるの??!!」
そのギラギラとした視線の先は、私が手に持つ食べかけのおにぎり。
「美味しいですよ。あっちの通りにある屋台で売ってました。」
「ありがとうございます!!!!」
狐さんはお礼を告げながら猛ダッシュで去っていった。
なんだったんだろうあの過剰反応……もしかして、あの人も転生者だったりするのかな?いやぁ、まさかね~。




