0.3.1 ポトフちゃんとシイタケ
時折枝の向きを変えつつ、火に炙られるシイタケをじっと見つめていると、じわじわと香ばしい匂いが漂い始めた。
「む?なんだか変な匂いがせんか?」
「シイタケが焼ける匂いですよ。」
「これが?……なんとも言えん匂いじゃな。」
すごく怪訝そうな顔をしてらっしゃる。いつかこの匂いに美味しそうと感じる日がきますからね。
シイタケのカサの内側に、じんわりと水分がにじみ出てつやつやとしている。香りがピークに達する頃、私の口内にも味が広がり始める。
「よし!『シイタケの串焼き』完成です!」
「おお、リンゴとは全然違うのう。」
シイタケエキスを溢さないように気をつけながら、地面から串代わりの枝を抜きとり、一本をゴインキョさんに渡す。う~ん美味しそうな匂い。熱々のシイタケに息を吹きかけ少し冷ます……火無効があるなら冷まさずに食べても平気なのでは……!早速いただきます!
「はふっ、ん~うま!」
「あむ、ほふっ、んん!?なんじゃこれは!」
肉厚なカサの部分にかぶりつくとプリッとした弾力!口内で咀嚼するとそのたびにジューシーなキノコ独特の旨味が溢れ出てくる。惜しむらくは、醤油が手元にないことか。
気になってた火無効スキルも発動してる気がする。口の中は熱いと感じるけど全然平気だ。
「どうですか?ゴインキョさん。」
「不思議な食感じゃのう……柔らかいのに硬いと言うか……」
「うんうん。歯ごたえがあるんですね。」
「歯ごたえ……それに甘くも酸っぱくもない何とも言えん味じゃ。」
「うんうん。シイタケ特有のうまみですね。」
「うまみ……」
シイタケって苦手な人結構いると思うけど、ゴインキョさんはなかなか口にあったようだ。
「もっと焼きますか。」
「ああ、頼む。……おっと、そうじゃ」
「どうしました?」
「製作スキル全般がそうなんじゃが、アイテムを作る際には『設計図』や『レシピ』が必要なんじゃ。」
「作り方の説明書があるんですね?」
「うむ。まあ、適当に素材を突っ込んで作っても、それが既存のレシピと一致しておるならそのレシピを入手した扱いになるんじゃがな。そして1度作ったことのある物は素材さえ揃っていれば、次からは製作の過程を飛ばすことができる。ただし補正値は手作りしたものと同じ数値になる。」
「自動作成機能があるんですね。補正値っていうのは……?」
「器用さが製作物の質に影響するのは話したじゃろ?お主じゃと〈料理〉じゃな。〈料理〉レベル10のスキルがあると、装備品を含めない素の器用さの10%が補正値として製作した食べ物に付与されてより効果の高いものができるぞ。」
「なるほど……つまり補正値の高いものを作りたければ、器用さが上がるたびにもう一度つくる必要があるんですね。」
「そうなるのう。」
ということでこの串焼きのレシピを記録しておくことになった。
1.シイタケの汚れを拭き取り、石突を取る。
2.カサの部分に横から串を刺す。
3.火で炙る。
4.シイタケから水分が出て、カサの内側に溜まってきたら完成!
「文面だけでやるとなると難しそうじゃのう。」
「生産職やる人ならそういうのも楽しめると思いますよ。」
多分。知らんけど。
そうこうしてる内に次のシイタケ焼けましたよー。
「あむ。ん〜、美味しい。さっきのが〈優〉でコッチは〈良〉かな。」
「はふ、むぐ。正直差がわからんのう。」
「私もです。ほぼフィーリングで決めてます。」
一個目のほうが肉厚で美味しそうだったきがする。それだけだ。それにしても素焼きだとちょっと物足りないな。
「醤油か塩ってどっかに売ってますかね?」
「醤油……は知らんが、塩なら確か錬金術の素材にあったな。……料理に使うのか?」
「そうですけど?」
ゴインキョさんは食べるのをとめて、苦虫をかみ潰したようなちょっと嫌そうな顔をしている。なんで?
「塩ってあれじゃろ?汗の味がするんじゃろ?」
「!?逆ですよ!汗が塩の味するんですよ!」
「同じじゃろ?」
「違います!」
うわーッ!『しょっぱい』に変なイメージが付いてる!そうだよね現代人汗かくよね、しょっぱいは知ってるよね!
「汗とは別のものだと思ってください!」
「それは同じものと言っとるも同然では?」
「別のものです。両者にはなんの関連性もありません。」
「わ、わかったぞ。」
どっちも塩化ナトリウムだァ?知らねーッ!別モンだ別モン!
「とりあえず、塩はあるんですね?」
「ああ、いくつかのポーションに使われておるな。」
「料理に使ってもいいですよね?」
「……う、うむ。」
よし!街に行ったら塩を買いに行かなきゃね。
「それならさっきのレシピも書き換える事になるのう。」
そっか、そうなるよね……でもシイタケの味付けなんて、醤油や塩だけじゃなくてバターをかけても美味しいし、それこそ人の数だけ食べ方があるのだ。
「レシピにない素材を追加して料理を作ったらどうなりますか?」
「ふむ…………ポーションの場合じゃと失敗作扱いで使うとデバフが付いたりするな。」
「ゴインキョさん、串焼きにもいろんな味付けがあるんです。それこそ100種類以上!」
「100種……!?」
すいません盛ったかも。100は流石に言い過ぎたかもしれません。
結局、レシピに調味料の類は含まれない事になった。メインの素材と調理方法がおおよそ合っているなら成功扱いだ。途中で醤油かけてもいいよ。まだこの世界にないと思うけど。
お昼休憩を挟んだら次はフルーツだ!
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『シイタケの串焼き』〈生命力+〉〈60分〉
1.シイタケの汚れを取り、石突をとる。
2.カサの部分に横から串を刺す。
3.火で熱する。
4.シイタケから水分が出て、カサの内側に溜まってきたら完成!
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