少年と少女
目を開けると、少女の顔があった。
「気がついたみたいね」
少女はほっとした様子で微笑む。俺は反射的に半身を起こそうとした。
だが。
「……うっ!」
痛みを感じて、すぐまた後ろに倒れ込んだ。
「じっとしてて、水と食べ物持ってくるから」
ぱたぱたと、少女の足音が遠ざかっていく。
俺は改めて、周囲を観察した。
海水で汚れていた体は清められたらしく、嘘のように爽やかな気分だ。
そして、普段住んでいる建物と様子が違う。床も壁も、木でできた部屋に俺はいた。寝かされているのは簡素な寝台だが、あの浜辺からすると天国だ。開いた窓から光とともに風がそよそよと吹き抜け心地よい。
「……あれ?」
そこまで考えて、俺の思考は止まった。
「普段住んでいる建物」?
「思い出した……のか?」
目を閉じると、頭の霧はわずかに晴れ、美しい白い城の記憶が垣間見えた。回廊を歩き、バルコニーから豊かな街並みを眺める。
周りには、豪奢な服をまとった人々。俺を見ると笑顔になり、何事か話しかけてくる。
手探りであたりを探すと、枕元にペンダントがあった。
今はその紋章も覚えがある。王家の紋章だ。
「俺は、セレイス国の第二王子。リヒト・ヴァインシュテール……」
名前も思い出した。けど、なぜここにいるのかわからない。
少女が戻ってきた。木の器に水を汲んできてくれた。ありがたく飲み干す。
「助けてくれてありがとう。あの、俺なんでここに来たか覚えてなくて……」
そこまで言って、彼女が置いた皿に目がいった。黄色い果実と、麦がゆに似た白っぽい食べ物。ごくん、と喉が鳴る。
「食べて。話は後でいいよ」
「ありがとう!」
麦がゆだと思ったものは、芋をつぶしたものらしい。一口食べるとまた一口欲しくなる。果実も甘酸っぱくて美味しい。
少女は勢いよく食べる俺を満足そうに見守る。
「昨日は村までふらふら歩いてきて、倒れちゃったの。なかなか起きないから心配してたんだよ」
「あ、俺は……」
名乗ろうとして戸惑う。万が一、ここは母国が敵対している国ということも考えられる。身分は伏せた方がいい。
「俺は、リト」
「私はクロエ。よろしくね」
話すうちに、ここは母国から遥か南の国の、端の村だとわかった。確か友好条約を結んでいるはずだ、と思い出し安堵する。
俺は半袖に膝丈のサラサラした生地の服を着せられていた。普段着ている鮮やかな刺繍の入った服よりあっさりした造形。動きやすくはあった。
こんな調子で、小屋のいろんな物を見るたびに俺の表情が変わるからクロエが気にした。
「何もかもが俺が住んでた土地と違うから、見る度に記憶がよみがえるんだ」
「じゃあ、もっと元気になったらいろんな物を見ましょう。
村を案内するわ」
「ありがとう、クロエ」
クロエは一人暮らしだそうだ。手当に食事、村の案内まで。なぜここまでしてくれるのか不思議だったが、申し出はありがたかった。