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第18話 商会・2

 全くもって、身内ながら蛇の獣人は分かりづらい。いや、じゃあお母様たちネコ型の方がマシかと言われると、別にそう言う訳でもないのだけれど。

 その点、この子たちはだいぶ分かりやすい。


「ディル、食品の流通もやってるのね。公式のバレンタイン絵でチョコがあるのは確定だって知ってたけど、よく出される日本っぽいお菓子がこの商会だって言うのは知らなかったわ」

「お嬢、セレナ様をご案内して来たよ」


 嬉しそうにぴよぴよと喜ぶセレナに、褒めて褒めてと尻尾を振るルドルフ。ヴァイパーやアスピスと違って、いつだって直球だ。

 ルドルフにはセレナが喜びそうな場所へ連れて行くよう指示をしていた。想定通りセレナの気をひけたようだ。これで商品開発に気持ちよく協力して貰えそうで何より。


「ご苦労だったわ、ルドルフ。セレナ、これから服飾を扱っている工房へ行きましょう。貴女がアイデアを出してくれたネックコルセットの開発が進んでるの。採寸して作ったけど、試着をした方が良いでしょう」

「えー、楽しみ」


 ルドルフの先導の元、セレナを連れ立ってヴァイパーとアスピスが気にしていた例のお針子たちの詰めている部屋へ向かう。

 ……まあ、ルドルフがモテたところで、と正直思っている。私にはなんの損失はないし、人に好かれると言うのは喜ばれさえすれ、酷だなんて言われる状況になるとは思えない。ヴァイパーもアスピスも、心配しすぎなだけ。弟分がそんなに気になるなら、自分で守ってあげれば良いのに。


「どうぞ」


 ルドルフがそっとドアを開ける。セレナと連れ立って入った部屋には、私より少し年下くらいの少女たちが十人弱居た。私たちを見た瞬間、みな驚いた顔をし、その後は訝しむような戸惑うような目で見てきた。

 私を知らないんだから仕方ないわね。ヴァイパーの言う通り、会ったことのない子ばかりだもの。


「お嬢様! ご無沙汰しております!」

 

 唯一見知った顔の工房を管理している仕立物師(テーラー)であり、その名もずばりテーラーと言うハリネズミの獣人がパタパタと走ってやってくる。その言葉で、私が誰だか分かったようだ。少女たちは慣れていなさそうなお辞儀をする。

 このテーラーを含めて上から下まで本当に女性しかいない職場だ。確かにそこに男をひとり放り込んでいるのは問題が出来やすいだろう。改めてなるほどね、と納得する。


「まさか作業場へお嬢様にご足労いただくなんて! 何か不備でもありましたか!?」

「久しぶりね。いいえ、最近は無理なお願いばかりしてしまっているから。様子を見に来たのよ。こちらはヴァンドール伯爵家のご令嬢。例のデザイン画の方よ」

「ああ! あの素晴らしいアイデアの方ですか! ご本人も素晴らしい! 創作欲が刺激されます! 私、ドレスを作って差し上げたいです!」


 好意全開でハリネズミはセレナの全身を見回す。相変わらずの仕事中毒で、針仕事が好きですきでたまらないといった様子だ。この工房に来ると決めていた時点で、このテーラーの反応は予想していた。

 そりゃあそうでしょう。この世界のヒロインなんだから。世界のミューズみたいなものよ。誰もがセレナが好き。だから安心して紹介できる。これで仕事が早くなれば御の字だけれど。

 セレナはその勢いに驚いているものの、セレナよりも小柄なテーラーを好ましくは思った様子なのが見てとれた。


「試作品、良い出来だったわ。この娘の分を試着させてあげようと思って。もう出来ているのでしょう? あとで応接へ持ってきてちょうだい」

「もちろんです!」


 あとで応接に、と言ったのにも関わらず、ハリネズミが二つ返事で奥から白いレースと真珠一粒をあしらったネックコルセットを持ってくる。セレナの表情がパッと明るくなった。星浮かぶ瞳がキラキラと瞬く。


「わ、すごい。思った通りの!」

「素晴らしい図案でしたからね! コルセット職人もこれを見て驚いていましたよ!」


 でもまあ、セレナが喜んだなら、それでいいか。

 そんなふたりに、ルドルフがずいと近づいた。


「これは胴体に着けるコルセットと違って、首を細くするためのものではありません。必要以上に締まらないようにセレナ様のサイズで調節紐を最低限に短くするか、ある程度で縫い留めておいたほうがいいでしょう。考えたくもありませんが、調節部分を力づくで引っ張られたら窒息します」


 流石に私にコルセットを無理やり着けられそうになった者の言葉だ。重みが違う。だけど、言い方がこのテーラーには向いていない。これにいくらかかっているのか、彼女はよく知っている。


「た、確かに。ファッション性だけ追い求めて実用性が落ちてしまっては……申し訳ございません!」


 頭を下げたハリネズミに、私は出来るだけ優しく話しかける。

 

「いいのよ、改善点を見つけるための試作なんだから。それに今のは一から作り直すほどの課題では無いわ。貴族へ売り出す時は調節のサービスをつけなければいけないってことも分かったし重畳ね。内側に裏地を縫い付けてくれたのは貴女の心遣いね? 使用感も不快じゃなかったわ」


 テーラーが幾分かほっとする。

 そう、ヴァイパーに怒られるハプニングはあった。しかし結局試作品としては要件を満たしていた。


「一番の課題だった防刃性については、後頭部のボーンの位置と数が絶妙で狼の歯だと貫通は出来なかった。問題ないわ」


 私がそう言った瞬間、セレナが驚いた声を上げた。


「試したの?」

「ええ」

「ルドルフさんと?」


 えっ、という声が別で上がる。声の発生源を見ると、お針子の少女のひとりが口を押さえていた。

 まずい。皆が今の会話で勘違いをし始めている。


「わ、私とじゃないわよ!」

「ええ? じゃあ誰が?」

「模型に被せて噛み付かせたのよ!」


 一度生身で試しかけているなんて絶対に言えない。


「なーんだ。まあ、ルドルフさんがディル以外に噛み付くなんてありえないもんね」


 セレナが明るく言う隣で、テーラーもうんうんと頷いている。焦りすぎてスカートから尻尾が出てしまったのを、こっそりとしまう。

 これだから……!

 私は扇で顔を隠し、さっさと応接室での試着とフィッティングを促した。

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