恋に恋い焦がれても、愛に打ちのめされても、結婚で幸せになる方法。
巷ではだれもかれもが結婚してるし離婚してる。
結婚する理由なんてたくさんある。
でもそれと同じくらい離婚する人もいる。
とりあえず今離婚しそうなやつらに言ってやる。
「結婚は妥協だ」と。
思えば最初に彼女に出会ったのは店に面接に来た時だ。
事務所に向かったらちょうど面接が終わって帰るところだった。
普段は絶対しないのに思わず声をかけた
「...君どこかで会ったことない?」
って昔ナンパ野郎のセリフかよってツッコむのは無しだ。
「なっなっなっないと...おもいますよぉ?」
あれ?
思ってた反応と違う???
ちなみに語尾は上がってるのである。
「そう? どっかで見たことあると思うんだよなぁ...」
「えっ!? えぇ...っと...」
彼女はどちらかというと焦っていた。そして考え込んでいた。
ますます自分の頭をひねる反応になってしまった...何が彼女をそうさせているのか見当がつかないからだ。
「そっか。いきなり声かけてごめんね」
「あっいえいえ大丈夫です」
彼女は挙動不審に半笑いでかつ速足で事務所を去っていった。
???
ちなみにこの時の反応は後日知ることになるので今は置いておこう。
それからしばらくたってからのある日彼女が事務所にいた。
アルバイトとして採用されたらしい。
ちなみに他にも面接に来た子はいたし、何なら他の子のほうが可愛かった。
その日は勤務時間がずれていたため彼女とは話すことはなかったが、後日勤務が一緒になった。
「こんにちは。面接受かったんだね」
「えっあっ...はい?」
なぜ疑問形で返事を返す?
気を取り直して
「今日は自分が指導につきますのでよろしく」
「...! はい! よろしくお願いします!」
...この前の挙動不審はどこに行った??
気を取り直して仕事に向かうことにして昨日指導についた同僚から引き継ぎをする。
「いやー...彼女大変だよ?」
半笑いだ...
「どうゆう意味なの?」
「とにかく頑張ってるからしっかりフォローしてあげてね!」
「オッケー、了解した」
なかなかに含みのある言葉だったが働く姿を見ればわかることだな。
勤務中の彼女は一言でいうと真面目。とにかく一生懸命。
彼女を採用した上司の目に狂いはなかった。
...と思ったのは半日だけだった。
真面目だし一所懸命なのだが...慌てすぎる。
うーむ...これは指導が大変といっていた同僚の意味がよく分かった。
しかしながらそれを導くのも上司の務め! と、気合を入れた。
その後もあわただしく時間は過ぎていき、あと一時間で店も終わりの時間だなと思っていたころそれは起きた。
起きたと言うのも変だが。
彼女の視線がある一定方向によく向けられているし、よくその周辺で足が止まる。
ん?
今何を見てた?
その周辺を見に行くことにした。
???
特に何もない?
と思ったがやはり彼女は間違いなくその周辺を見ていた。
んー???
いったい何を見ているんだ?
もう一度その周辺を細かく見直してみる...
あ...
彼女に声をかけに言った。
「ちょっといい?」
「? どうしました」
「...自分...アニヲタだろ?」
「!?!?!?!?!?」
彼女は固まった。
「さっきから何か見てるなぁって思ってたけどアレをずっと見てたよね?」
「!?!?!?!?!?」
彼女は今度は目をそらした。
「えーっと...何のことですか...?」
すごく目が泳いでる。
さらに問い詰める。
「あそこに行ったときに動き止まってたよね? しかも少しニタニタしながら」
我ながらよく見てる。少し気持ち悪いぐらいだとは思っているが問題ない。と思う。さらに続ける
「あそこにしか張ってないもんねPOP」
「!?!?!?!?!?!?」
そう
その視線の先には店内に張られたPOPで、ちょうど某アニメとのコラボPOPだったのだ。
しかもあいにく店内にはその一枚しか張られてない。
彼女はなぜバレた! と言わんばかりのオーバーアクションでこっちを見る。
そんな彼女が絞り出すような声で
「なんでわかったんですか!? だって...そこ見てるだけじゃ...たまたまだとか...思わなかったんですか...?」
「うん...まぁ...POPを見てたのもあるけど...なんていうか...反応の仕方と動きかな?」
「!?!?!?!?!?」
彼女は固まった。
表情はまるでこの世の終わりかのごとく。
自慢じゃないが自分も軽いオタクだ。何をもって重い軽いの定義があるのかはさておき、いわゆる同類の匂いには敏感だ。
そう、彼女はオタクならではの動きを持っていたからだ。
って偉そうに言ってるが...改めて何様だと自分に問いかけるがそれはさておき
「とりあえず今は仕事中だから真面目に働いておこうな?」
「...はい」
彼女の返事はそれはそれは不思議であいまいな返事だった。
恥ずかしい気持ちと隠してたことがバレたことによる驚愕と自分に対する不思議なものを見る目を言葉にした感じだった。
「お疲れ様でしたー!」
閉店時間を迎え、店内清掃も終わり終業後に次の勤務に向けての引継ぎ内容の確認をしなければならない。
うん...同僚が言っていたように大変ではあったが真面目に働いている。
特に問題はないだろう。
あるとすればあのPOPの前で動きを緩め、ニタニタするのはお客様に悪影響ではないだろうか...
とか考えているところに彼女が事務所にやってきた
「今日はありがとうございました!」
...挨拶は元気だ
「お疲れさまでした。では今日の勤務の振り返りをですね...」
ズサッ!
彼女はなぜか後ずさった
表情も少し固まっている
おまけで動きもオーバーアクションだ
「えーっと...とりあえず座りましょうか?」
「あ...はい」
彼女は下を向きながら返事をしつつ椅子に座ったが...やはり微妙に距離を取られている
「今日の勤務を一日見てましたが、とてもまじめでいい感じです」
「...! ありがとうございます!」
お? やっと顔上げた
が
彼女はは目が合うとすぐに目をそらす
そんなに目を合わせたくないのか!
「ただ忙しくなると慌ててしまい、動きがバタバタしてしまうのは頑張らないといけないところです。これは今後の課題でもあますので、頑張っていきましょう!」
「はい!」
返事は100点だ
だがすぐ目線をそらすのはどうなんだ? 圧迫面接なんてやってないぞ!?
...あえて触れないようにしようと思っていたのだがあえて突っ込むことにした
「それで...あのアニメ好きなの?」
今思うと早まった質問だった
彼女はすごい勢いでこっちを見て
「そうなんです! あの作品ほんとに好きなんです!!!!!」
!? なんだこの食い気味な反応はっ!?
「特にあのキャラがうんぬんかんぬん・・・・・!!!」
やばい
何かのスイッチを入れた
というよりこれは地雷を踏みぬいた
彼女の早口トークは止まらない
「もぅあのシーンのすごいところは!!」
「あのキャラの声優が!!!」
「第一期のOPもいいんですが私第二期の!!!!」
彼女のトークは止まらない
おい
だれか止めろ
同僚やスタッフは軽く挨拶をしてどんどん去っていく
同情するような優しい目でこっちを見るんじゃない!
彼女のトークは止まりそうもない勢いだ
仕事中バツが悪そうにしていたのは何だったんだ?
元気に話すのは良いことだが...ちょっと違う
とにかく彼女の作品愛はすごいものだった
「わかったわかったから! ちょっと待て!」
このまましゃべらせるとアニメのストーリを1話から全部聞かされる勢いだった...
流石に我に返ったらしく彼女は顔を真っ赤にして
「あ...その...すいませんでした...」
「いやいいよ。大丈夫。」
大丈夫じゃありませーん
「まぁ...その作品のことをしゃべるのと同じ熱量で働いてくれればうれしいかな?」
今言える精いっぱいの言葉だったと思う。正直ドン引きではあった。
しかし彼女は褒めてもらえたと思ったのか
「はい! 明日からも頑張ります!」と、とても良い返事でこちらをちゃんと見た。
こうして彼女との初勤務は終わった。
最後の最後で危険物を取り扱うとは思いもしなかった。