008.一日の終わりと人ならざる人型
一通り学院内を探索していたら、そろそろ夕方になって来た。
と言うわけで、エリカに貰った地図を頼りに、寮に到着した。
「私の部屋が……ここか。」
いざドアを開ける。当然部屋には――
「おお、来た来た!ようこそー!で合ってるかな?」
当然、エリカが待っていた。食堂で会ったホノカとマナもいる。そう言えば2人の事を、エリカはルームメイトだとも言っていたな。
部屋を見回していた所、私のために要されたスペースを除けば、3人の個性が出るようなものが多かった。
まず本棚には、ホノカが読んでいるのだろう剣術関連の本、エリカが読みそうな機械学の本、あとは……銃やら狙撃やらの本。多分マナのものだろう。
ベッドは2段ベッドが2つ。1つは(元々は余りだったのかもしれないが)私が使える。
3人のベッドの方を見てみたが、エリカは当然機械関連の物品、マナはぬいぐるみやら銃やらが並んでいて、ホノカは……何だろう、厚くない本が積まれている気がするが深くは探らないようにしよう。
「……何というか、ここまで個性が全肯定されているようなスペースだとは思わなかったな。」
「すごいでしょ?私物とか引越し感覚で持っていけるから、実家みたいな安心感あるんだよ。」
「逆に秘密を隠せないという欠点も……いや何でもない。」
今のは言わなくても分かってるぞホノカ。まず何も言及しないでくれている時点で良いと思う。
「あ、そろそろ夕飯。」
マナの言う通り、そろそろ夕飯の時間のようだ。寮にも個別で食堂が存在しているようで、夕飯も、腹に負担がかからないような料理を頼める。何から何まで優遇されているというか、やっぱりすごい。何度も言おう、すごい。
そんなわけで、夕飯も文字通りいっぱい食べた。
「それじゃあ次はお風呂だけど……」
「水は問題ない?」
「問題ない、ちゃんと防水性になっている。」
次は風呂。マキナドールは、雨でも活動できるよう防水性になっている。なので問題なく入れる。風呂そのものは、入学する数日前に使わせてもらっている。
言い損ねていたが、私は入学する前は、学院長の計らいで学院から少し離れた宿で世話になっていた。
……風呂に入った後は、後は合間に予習復習をして、そして寝る。そうしたら、次の日にまた授業がある。ざっくり言えばそんな形式になる。
ただエリカは、マキナ操作の検定が近いと言っていた。ホノカとマナも、それを受けるつもりのようだ。そんなに人気なのかウィザードマキナとは。私もやってみようか……
そんな事を考え、資料や教科書を、用意された勉強机の上に置き、復習を済ませた後、私は先にベッドで眠った。
―――――――
と、そこで目が覚めた。すでに部屋の明かりは消えているため、3人とも就寝し、何時間語っている頃だろう。
……何だろう。妙な気配を感じる。どこかで似たような気配を感じた覚えがある。
気になって、窓を少し開けてみた。冷たい風が吹く。
「誰だっ!!」
窓の外にいた、何かが動いた。その方向に、右腕のマシンガン向ける。誰かいるはずだが、よく見えない。
そういう時は、右目に埋め込まれているセンサーを使えば良い。……ほら、暗闇でも丸見えだ。
「そこだなっ!!」
軽くマシンガンを発砲。暗闇にいる何かに命中した。
「(当たりはしたが……何だ?この奇妙な感覚は……)」
「へえ、身を潜めてたつもりなのにあっさり見つかった。」
その姿は、人間の女性に近い。しかも、銃弾を当てたはずなのに、何とも無いように立ち上がっていた。
「暇つぶしで暴走させたスパイダー型を、人間1人があっさり片付けたなんて嘘みたいな報告があったけど……どうやら、やったのは貴方のようね。」
「お前……何者だ?人間の姿をしているが人間とは思えないな。」
「フフ、教える義理は無いわ。知らないのなら自分で勉強したらどう?」
その何かは、微笑むような仕草をしながらこう言った。
「まあ、どの道この学院は知ることになるでしょうね。この私、『メルトリア・ダラキサ』の事を。」
名前ともにそう言い放った後、それの周りに大量のコウモリが現れ、私の目をくらます。
そして、いつの間にか姿を消していた。
「撤退したか……意味深な言葉を残していたが、何を企んでいるんだ……?」
――そして、一日が終わる。