002.メカ少女と変人少女
魔法技術と機械技術が栄えた国『ガルディギカ』。
軍人、発明、暴走する魔獣の討伐等々……あらゆる面において魔法を利用した機械技術を駆使し、人の才能と創造力を向上させ、世界の発展に最も貢献している大国である。
そして、そんな人材を輩出しているのが、この『聖ガルガンチュア学院』なのだ。
「と言う事なんだけど、分かった?」
――と、その少女(さっきグイグイ来てた子)が、ニコニコしながら私にそう話した。
あの後私は、音を聞きつけたこの施設の職員に捕らえられた。反論や抵抗をするつもりは無かった。理由がどうであれ、普通に人を殴ってしまったので素直に従った。
大人しく確保された後、私は椅子に座らせられ、手錠を掛けられた後に別室に連れて行かれた。てっきり処分される可能性も想定していたが、考えすぎだったようだ。
少しした後、何故かさっきの少女がこの部屋を訪れた。彼女も彼女で結構怒られたのか、さっきのテンションの高さは抑えられていた。不満気ではあったが。
色々言いたいことはあったが、ひとまず「ここはどこなんだ」と彼女に聞いたところ、今に至る。
「大国ガルディギカ、そこに属するこの施設が聖ガルガンチュア学院……ひとまず把握した。」
「……へー、君も君で案外すんなり受け入れるねぇ。てっきり信じられないだろうなって思ったけど」
「私の知る地球と比べて環境の全てが違うからな。受け入れる他ない。」
その言葉を聞いて、「そうなんだ」と言うように、少女はまたこちらを見つめる。
「にしても君、結構特殊な境遇みたいだねぇ。」
「特殊な境遇だと?確かにお前達人間から見れば、機械人形である私は特殊だろうが……」
そう言った瞬間、少女はぽかーんと口を開け、首を傾げていた。まるで「何言ってんだろう?」って言いそうな表情だった。
――その次に、彼女はこう言った。
「君……もしかして、自分が人間だって分かってないの?」
「え?」
――私が、人間?ちょっと待て何だその発言は。私が人間だなんてあり得ないぞ。大体滅亡した人類を復興させるために作られたのがマキナドールなのに、そのマキナドール自身が人間では本末転倒だ。
マキナドールの外見は確かに人間を元にしている。だが、それはあくまで骨格とかの話であって、人間と違って肌というものは無いし、色は全体的に黒か白でまとめられて――
理解できないでいた時、視界にはこの少女とは別の人間。彼女と同じくらいの年の、茶髪の女の子。その少女もまた、ロープと椅子で縛られて――
「……私だ……」
いや、違う。これは私だ。鏡に映った私だ。
右腕や両足を含めた何か所かは機械だが、確かに肌の方を見れば、頭部や上半身の一部は人間と同じだ。周囲の状況を調べるのに気を取られていて全く気が付かなかったが、これが、私の姿だったのだ。
「……山の頂上に埋まってた君を回収した時、装甲部分がボロボロになってたから剥がしたんだよ。ついでに、君に内包されてた武器のほとんども取り除いた。」
私が困惑していると、少女はそう言った。その話が本当なら、この姿は、他のマキナドールのものと同じような装甲で隠されていたようだ。
それなら誰がそうしたのか……と言いたいところだったが、ここは私の知る地球ではないため、指揮官であるマザーコンピューターもいない。故に求めている答えを知る相手がいないため、今は深く考えないことにした。
「お前の言うとおりであるなら、私は改装人間と言う事なんだな?」
「わあ、切り替え早い。でもまあ、そんな感じかな。細かく言えば、左腕や頭とかは人間のまま、内臓含めた体の6割は大体機械に変えられてるね。あ、あと柔らかかったよ。」
「そこまで言われても……」
気持ちを切り替えた後、今度は少女の方から質問して来た。
「ところで君、名前は?」
名前と聞かれると、人間みたいな名は無い。全員いつも個体番号を与えられるため、いちいちつける理由は無かった。だから無い。
「人間のような名前は無いが、個体番号ならば『RECORD』システムNo.9721だ。」
「んー、無いのかぁ。じゃあ『レオナ・レコード』でどう?」
「ちょっと待て!!そんな突然且つ雑に名前を決められても!!」
「えー、ダメ?」
「い、いやそれは……」
――元の世界で、こうして話せるような者がいなかったからなのだろうか。言われてみると、別に悪くは感じない。
「……まあいい、お前の好きにしろ。」
「あり、すんなり受け入れたね君。じゃあホントに『レオナ・レコード』で決定?」
「好きにしろと言ったハズだ。」
ということで、私の名は『レオナ・レコード』になった。テッテレー(?)
「というか、お前の名前は何というんだ?」
「え?そう言えば名乗ってなかったね。」
少女は椅子から立ち上がると、突然やけに高いテンションでこう名乗った。
「私は『エリカ・トランサー』!この聖ガルガンチュア学院に舞い降りた天才機械科学徒!!」
「何言ってるんだお前」
正直な感想を言ったら、少女『エリカ・トランサー』はちょっとだけへこんでいた。