001.異世界に迷い込んだメカ少女、目を覚まして早々セクハラに遭う
『強制スリープ解除……マキナドール『RECODE』システムNo.9721、システム再起動……』
機械的な声が、脳内に直接響く。それと同時に、『私』は目を覚ました。
『同機との連絡……不可……故に状況確認を優先……メインカメラを通し現在の状況を表示……』
真っ先に視界に映ったのは、天井。横にされている状態なのだろう。
『天井か。物質は金属ではないな。材質の名称、特定不能……?ならば範囲を広げる……推測、『木材』?どういう事だ……樹木は数千年前に……いや、今は状況確認を優先。』
手を握ってみる。その後に、ベッドと思われる物体から降り、起き上がってみる。問題なく出来たため、体そのものは動くようだ。
「くかー……」
『音声を察知……』
すると音がしたので、視界を右に向けてみた。
そこには、いびきをかき、少量のよだれを垂らしながら、うつぶせになっている何かが1人いた。
『同機でもない、敵対機でもない……解析……『人間』!?』
人間の女の子、それが1人。有り得ない。人間も8万年前に既に……
『馬鹿な……いや……そもそも私は何故このような……』
まず、私は何故この状況下に置かれているのか。確か、地球外生命体の砲撃を受けてしまったはずだ。なのに今いるのはこの、データには無い場所もとい部屋……
『メモリデータを確認……!』
そうだ、メモリを探れば何かわかるかもしれない。そこで、脳内のデータを確認すれば、原因を突き止められる。
8万年前、突如出現した地球外生命体によって、植物を含めたほぼ全ての生物が絶滅。
人類滅亡の直前、各国の兵器を搭載した人型兵器が作成された。
それが、人類最後の発明『マキナドール』。私はその一人、『RECODE』システムNo.9721。モデルタイプは16~18の少女。
地球外生命体の壊滅及び地球復興がマキナドールの目的。時折、他国が作成した機体が襲いかかるという事例もあったが、そういったものも対処しつつ、この日も地球外生命体殲滅のため行動を行っていた――
『強制スリープ起動以降のデータは無し、か。メモリも破損も無いのか……』
やはりというか、この場にいる要因はわからない。だが運ばれてきたのは間違いない。
ならば、ここは地下の施設だろうか。いや、それもありえない。地下にこのような施設が存在するというデータは全くないし、あったとしても、使い物になる可能性は低い。
「んー…?」
その時、声がした。この少女の目が覚めたようだようだ。
「あー、いっけない…寝ちゃってたわ……ん?」
少女がこちらに気づいた。状況が理解できずにただ立ち尽くしている私を、目を擦りながら見ている。
「ん、んお、おお?」
目が冴えてきたのか、私の方に顔を段々近づけていく。
この場合、どうすれば良いのだろうか。眼の前にいるのは、滅んだはずの生物、人間そのもの。
私は今まで自分の口で喋ったことなど一切ない。というのも、そもそも同機との会話は通信だけで済んでいたためであり、今こうして放っている言葉も私にしか聞こえないものだ。
戸惑っていると、その少女が喋り始めた。
「おおお!起きてる!動いてる!いやったー!!」
幼い子供の如く、はしゃいでいる。そこまで驚くことなのだろうか。私のモデルタイプと大差ないはずの年齢の少女は、私を見てかなり嬉しそうな表情を浮かべていた。
「うおお改めて見ると結構良いボディ!道徳だの細かいことはともかく、人間の体にここまで良い感じにメカ要素を入れ込むなんて!」
目を輝かせながら思いっきりジロジロと見られている。それに対して、私は後ずさりしてしまう。この時の感情をどう表せばいいのだろうか。
「ねえねえ君どんな機能搭載されてるの!?ビームとか!?ビームとか!?ビームとか!?」
とうとう押し倒され(というか抱き着かれて)、もっとぐいぐい迫られる。
「ねーねーせめて何か言ってよー!!言ってくれないと何も分かんないよねーねー!!」
もはや何が何だか分からない。というか普通に怖くなってきたんだが。あっ、ちょ、やめろ!!どこ触ろうとしている!!そんなところ触っても柔らかくもなんともないぞ!!ちょっ、待っ、待てっ!!やめろ!!やめっ、いやホントに!!来るな!来るなっ――
「来るなセクハラ女ぁぁぁぁぁっ!!!」
「あべっ!!?」
あんまりにも迫られるので、流石に怖すぎて少女に向かって思いっきりアッパーカットを叩きこんだ。少女はそのまま激しくひっくり返り、扉の方まで転がってぶつかる。そして失神した。
「ハァ……ハァ……勘弁してくれ……ん?」
あまりにも迫られ過ぎたせいで実感が湧きづらいが、何気に何の問題も無く人の言葉を喋れていた。
「い、意外と普通に喋れるのか……いやそれよりだ、ここは本当にどこなんだ?」
少し落ち着いた後、もう一回あたりを見回してみる。そこでカーテンらしきものを見つけたため、それを広げて、外の景色を見てみる事にした。
そうした瞬間、私は呆然と立ち尽くしていた。
カーテンと窓を開けて見えた風景は、私が知っている地球とかけ離れていた。
鉄材の建物がほとんど無く、木々があり山があり、そして鳥が、更には羽の生えたトカゲみたいな生き物が飛んでいた。
「あ……」
地球には植物すらなくなったはずなのに、こうして、涼しい風が吹いて心地いい。そんな場所に、私はいた。
少し考えた後、私は、1つの結論にたどり着いた。
どうやら私は、創作物で言うところの『異世界』に来てしまったらしい。