メビウスの輪の壊し方。永遠の無限にさようなら。
「あの……喰べるって、つまりどういう……」
『そのままの意味です。アナタを喰べます。存在ごと全て』
オレと素零が扉を抜けると、そこにはオレがいた。
「なんだこれは……どうなっているんだ」
「シーッ! 気付かれちゃうよ、静かにしとかないと」
素零がオレの口元に指を当てながら囁く。
薄い扉を一枚隔てた向こうにオレとアレが立っている。
室内の構造、質感、匂い、全ての事柄に既視感を覚える。
オレは周囲を見まわし入念に観察する。
「ここはオレの家だ。それにこの光景は見覚えがある。
アレと初めて会った日の出来事が再現されている。
いや、再現ではなく現実で、つまりは過去なのか?」
オレが囁くと素零はクスクスと小さく微笑む。
異常な状況を満喫しているようだ。
「まぁ、そう考えるのが自然かなぁ。
閉鎖空間の外側がキミの過去って意味がわからないけどね」
素零が楽しそうに答えるが、目の前の状況にオレは不満を感じていた。
「なんか、嫌だな。試しにオレを消してみるか? オレが二人いるのは不自然だし、不快だ。何か状況が変わるかもしれない」
「ダメだよ! たいむパラドクスだっけ?
あそこにいるのが本当に過去のキミなら、消した瞬間に今のキミも消えちゃうんじゃない? 消すならアレスティラの方だよね?」
素零が慌てた様子で話す。
確かにSF映画などでは過去への介入は未来の出来事に影響を及ぼすパターンが多い。
だとしたら何もしないことが無難なのだろうが、無限ループを抜け出すためのヒントくらいは探し出したいとオレは考えていた。
「なるほどな。でもその理屈ならアレスティラを消しても今までの出来事がなかったことになるんじゃないかな。
……待てよ、アレスティラの能力って時間を操れるんじゃなかったか? 一か八か、接触してみるか」
「あー。あの女は時間を操れるってコトにしてるよね。
アイツは本当の能力を隠してる。
昔から嫌な女だったよ。良い子ぶって、本心は誰にも見せない。
素直に協力してくれるとは思わないけどな」
『あ! そろそろ本日はお開きの時間です。ワタシはこう見えても多忙なんです。ではまた後ほど!』
オレと素零が密談している間に、過去のオレとアレスティラの会話が終わりを迎えていた。
アレスティラは空間を引き裂き、暗黒の運河に飛び込み転移していく。
「見ろ、暗黒の運河に入ったぞ。
今がチャンスだ、話し合いに行こう」
「しょーがないなぁー! 付き合ってあげますかー!!」
素零が空間を引き裂き、二人して暗黒の運河へと飛び込む。
闇の中に煌めく星の海を疾り、アレスティラの背中を追う。
「アレスティラ!」
『へっ!? 嘘、どうしてここにいるのですか?』
オレの呼びかけに振り返ったアレスティラは狐にでもつままれたような顔を見せた。
「オレは未来から来た。正直、今困っている。
力を貸して欲しい」
「ヤッホー! キミの顔はいつ見てもムカつくよねぇ!
協力しないなら消しちゃうけど、それでもいいかなー?」
オレの背後から素零も顔を出す。
アレスティラは困惑の表情をさらに強める。
『素零……。6番はどうなったのですか』
「んー? ここにいるけどぉ? 今は眠ってるよー!」
オレと素零を交互に見つめた後、アレスティラは沈黙し、やがて状況を悟ったのか静かな口調で語り出す。
『……なるほど。世界の状況は大きく動き出したようですね。
オレ、話してください。ワタシに出来ることなら協力します』
オレは自身が置かれている状況と経緯を詳細に説明した。
話してる間、アレスティラは何度か小さく頷きを見せる。
説明が終わる頃には素零は飽きてしまったのか、退屈そうな顔で欠伸をしていた。
『そうですね。複雑は複雑ですが、なんとかなるでしょう』
ものの数分もしないうちにアレスティラは答えを出したようだ。
「へぇ、やっぱりキミは頭がいいんだね! ムカつくな!
どういうことか、なるべく理解しやすいように説明してよね」
退屈そうにしていた素零が興味を持ったのか、憎まれ口を叩きながらアレスティラに聞く。
『まず気になった点として、11番が二度、死んだことが成立してしまっていることです。絶対にあってはならない事が起きた。
その時点で世界は大きな矛盾を孕んでしまった』
アレスティラは淡々と語る。
『同じ人物が時間差で二回死亡するという、世界の矛盾を解消するためにはオレと素零の能力が必要になります。
しかしパラドクスの能力でオレと素零の存在は地球から消えてしまっていることになっていると思われます。
従って、アナタ達が消える事となる喫茶店の店内に到着することを世界が拒否している。ループの原因は世界の意思です。
パラドクスとアナタ方二人が接点を持つ瞬間を拒絶したいのでしょう』
ループの原因は誰かの能力ではなく世界の意思。
驚愕の事実であった。
「だとしたら、ループの起点が何故あの異空間なんだ?
もっと色々と手を打てる段階まで戻してくれたらいいのに」
『それは11番が二度目の死を迎えた直後でしょう?
その時点で世界は壊れて、矛盾解消のために動き出した。
タイムラグ等を鑑みても、不自然ではないタイミングだとワタシは思います』
「他にも何か原因はあるの? 全て知っておきたいんだよね」
『原因はアナタですよ、素零。我々の仲間がアナタを消すために大規模な移動を開始したことにも問題があると考えられます。
宇宙の均衡を維持するためにいる我々が意志を持ち動く。
世界のパワーバランスが地球一点に集中してしまう。
宇宙、最低でも秩序が崩壊してもおかしくありません。
ダムの水をペットボトルで受け止めるようなものですから』
「なんだか想像以上にヤバい状況みたいだな。
それで、その状況から脱出するにはどうしたらいいんだ?」
オレと素零が一番知りたい情報だった。
原因が原因なだけに、ループ脱出の方法は皆目見当もつかない。
『そうですね、論理的に考えるのなら、
ループが繰り返されている時間内に、
パラドクスとその他の要因となっている能力を突き止め解除、
11番が二度死んでしまう状況を回避し、
素零を消すために地球へ移動している軍勢を引き返させる。
もしくは排除できれば世界は平穏を取り戻すでしょう』
とんでもない事をアレスティラはアッサリと言い切った。
「「いやいやいやいや、絶対無理だろ(でしょ!)」」
オレと素零は同時に叫んだ。
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