全知全能パラドクス。零の螺旋とオレの意味。
「それでは参りましょう!
アナタの人生を賭けた最終問題。
あたしがアナタと素零を閉じ込めた理由は、な〜んだ?」
パラドクスの出した問題を聞いたオレは考える。
閉鎖空間に閉じ込められていた四人に共通していたのはエニグマであるということ、
そこからさらにオレと素零だけに共通していた点があるとすれば、零の螺旋を使えるということだろう。
パラドクスはオレと素零が生存し続けている必要があったと発言していた。
零の螺旋が必要なだけであれば両者が生存している必死はない。
つまりはオレが今こうして生きていることもなかっただろう。
だとしたらオレと素零が同時に世界に存在している事で生まれる何かが必要なのだろう。
「──直近の事柄と結びつけて考えるならエニグマの全滅。
素零を撒き餌にしてエニグマを誘き出し、オレに殺させる。
……いや、だとしたらオレである必要性がないな。
それなら、お前が固執していたもう一つの方だろう。
1番を消すのにオレと素零が必要だから。違うか?」
パラドクスと対面してから聞いた言葉と、今までの経緯を総合して出した答えだった。
ただでさえ情報が少なく、不明瞭な点が多い現段階にしては、こじつけだとしても上手く纏められたものだとオレは思っていた。
「……素晴らしい。よもやこれほどとは。
アナタの知識、判断レベルは確実に向上していますね。
覚醒が進んでいる証拠です」
パラドクスが感嘆の声を漏らす。
正否については口に出していないが、閉鎖空間に戻されていないということは、そういうことなのだろう。
「オレも一つ、聞いてもいいかな」
「はい。アナタとのお喋りは楽しいので構いませんよ」
「お前はさっき、生命の皆様と言っていたよな。
輝夜は人間性を捨てたのか?
もしくはレオナルドに精神を支配されたとか、人間とは違う異質な存在に変貌してしまったのか」
「…………」
パラドクスは不自然に沈黙した。
表情が見えない分、余計に不気味だが、オレとしてはパラドクスの回答を待つしかなかった。
「その質問は前提からして間違っています。
あたしはアナタが知る輝夜であるとは明言していません。
あたしはパラドクス。その質問には答えることができません」
「そうだよな、すまない。話を続けよう」
オレは迂闊な発言を後悔していた。
今までのパラドクスのやり口から考えても、目の前にいる存在を輝夜であるように思い込まされているだけかもしれないからだ。
「さて、正解の報奨を与えなければいけませんね。
アナタの疑問に一つだけ答えます。
あたしは全てを知っているので気兼ねなく聞いてください」
パラドクスを信用していなければ成立しない内容だった。
現時点では不明だが、パラドクスは事象単位で世界を支配できる能力を持っている可能性がある。
つまり嘘でも真実だと思い込まされてしまうかもしれない。
オレは当たり障りのない質問をすることに決めた。
「色々と疑問だらけだからな。オレの正体とかさ。
まぁ、正体についてはアレスティラから聞きたいし、
さっきの問題の答えを教えてくれ。
どうしてオレと素零が必要なのか、その理由が知りたい」
「アナタは全知全能のパラドクスを知っていますか?」
オレの質問にパラドクスは即座に口を開く。
能力を発動するような兆候もなく、オレは一先ず安心した。
「なんとなくは知っているよ。簡単に言うと矛盾のことだよな」
どんな事でもできる神がいたとして、その神に質問をする。
貴方は自分でも飲めないほど熱く、飲み物を加熱できますか。
加熱出来なければ全能ではないし、どんな事でもできる以上、飲めないものが存在してはならない。そこに矛盾が生まれる。
「よくご存知ですね。その通りです。
1番はその矛盾や真偽を解消する方法を編み出してしまった。
真の意味で全能となってしまった。
ですから今、1番は全てを超越した先にいる。
その究極ともいえる真理に辿り着くために必要だったのが、
素零が持つ零の螺旋とアナタなのです。
逆を言えば素零とアナタが揃えば1番を倒せる可能性がある。
だからこそ、どうしても二人を手に入れる必要がありました」
なんとはなしに聞いた質問が自身の存在理由の核心をつくような答えとなって返ってきた。
オレは動揺を隠せずに困惑の表情を浮かべる。
「オレだって!?
そんなまさか、でもだとしたら……どこからだ、あぁ、クソ!
待ってくれ、少し考える時間が欲しい」
「落ち着きなさい。質問は一つだけと言ったでしょう。
アナタはアレスティラとの勝負に勝って自分を取り戻す事に全力を尽くせばいいのです。
そのためには今後1番がどうしても障害となるでしょう。
そこで提案なのですが、あたしと手を組みませんか?
共に1番を倒し、世界を健全な姿に戻すのです」
パラドクスの言葉途中でオレは平静を取り戻すと同時に、全ての答えを自分の目で確かめてから判断すべきだと考えていた。
「余程1番が憎いんだな。
でも簡単には答えは出せない。
1番がどんな奴かもオレは知らないしな。
もちろんパラドクス、お前の事もまだ信用していない」
「そうですよね。賢い判断です。
あたしとしてもアナタは自分の意思で判断すべきだと思っていますから。世界を生かすも殺すもアナタ次第です」
「だけどな、確かに1番の言葉が絶対ってのはオレも好きじゃない。運命は自分で切り開けなければ楽しくないしさ。
どうだろう、オレと取引をしないか?」
「取引、ですか?」
パラドクスは少しばかり間の抜けた調子で返した。
「ああ。美唯子を返して、オレ達を自由にしてくれたら、
1番が絶対じゃないと証明してやる」
「何の策も準備もなしに、そんなことは不可能です。
正気の沙汰とは思えない。1番の怖さも強さも何も知らないで、勇気と無謀を混同しないで。口では何とでも言えます」
パラドクスの声には諦めの色が含まれていた。
今まで高圧的な態度で散々人を振り回しておいて、いざ自分が詰められる側になった途端にしおらしくなる。
パラドクスの豹変にオレは腹が立ってきていた。
「いや、見せてやるよ。
運命が変わる瞬間を、1番が絶対ではないことをな。
お前は黙ってオレを信じろ!」
ハッタリやその場凌ぎの嘘だと思われるのは面倒だと思い、オレは声を大にしてパラドクスに告げた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




