不条理な心理戦。素零オレを撃て。
「素零達の現状を簡単にまとめまーす!
脱出不可能な閉鎖空間に閉じ込められました!
多分パラドクスという存在の能力で解除方法は不明。
7番が出られないって言ったのが能力発動の合図だと思うよ!!
ちなみにあの7番はパラドクスではありません!
素零が昔から知ってる7番は脳筋パワータイプのお姉さんでした。なのでこんな気の利いた事は絶対にできません。
ちなみによくあるデスゲーム的なのと決定的に違う点は、素零達が死なないということ、飢えもしないし寿命もない。
この状況を受け入れさせえすれば永遠にこの世界で仲良く暮らしていけるってこと! とりあえずはこんなとこかな」
オレ達が置かれている状況を素零が簡単にまとめた。
氷駕もアレスティラも思考を巡らせているのか沈黙している。
「つまり無駄に争うことも、疑り合う必要もないってわけだな」
「そうなるね! でもそれは現段階での話。
他に何か条件が定められているかもしれないし、デメリットがないとは完全には言い切れないなぁ! なんだかワクワクしない?」
素零は一人テンションが高い。
この異常な状況を楽しんでいるようだ。
「そんな馬鹿な話があるか、脱出方法が何かあるはずだ。
地球の消滅に10番街の治安維持、俺にはやることが山ほどある。いつまでもこんな場所で足止めされてたまるかよ!」
怒鳴り声を上げて氷駕がテーブルを殴りつける。
本来ならこれが正常な反応だろう。
「でも、これって仕掛けた側にしてみれば究極の敵対措置だよね。
うまくいけば、素零達を永久に封じられるしさ。
生かさず殺さず放置プレイ? 何か意味があるのかな?」
意味があるから閉じ込めたのだろうが、確かに意味不明ではあった。
敵を潰し合わせるにしては効率が悪すぎるからだ。
『素零、アナタは狡賢いので脱出の方法について何かわかっているのではないですか?』
「ズルは余計。素零はただ賢いだけだし。
まぁ、パッと思いつくのは能力者を殺すことだよね。
基本的にはそれで全て型がつく。あとは外部からの協力?」
「だがいくら探してもこの店には俺達四人しかいないぞ」
「だから、さっきも言っただろ?
素零達が自分を自分だと思い込んでるだけかも知れないんだから、そうとは言い切れないんだって!
つまり、この中の一人がパラドクスの可能性もある。
そいつを見つけ出して殺してしまえば悪夢は終わりさ。
ちなみに素零はアレが怪しいと睨んでいる。
似たような閉鎖空間にずっと10番を閉じ込めていたよね? アレスティラさん!」
『白々しい、あれくらいの結界ならアナタにも作れるハズです。
大体アナタは事情通が過ぎるのではないですか?
この中で誰が怪しいかと聞かれたら、ワタシは迷わず素零と答えます』
「皆んな落ち着けって、まだ何か見落としてる点があるかもしれないし、一度冷静になろう。発想を変える必要がある。
脱出方法ではなく、死ぬことがないオレ達を閉じ込める理由を考えるんだ」
最初から話し合いや心理戦の類いは無意味だとオレは考えていた。
ただでさえ閉鎖空間では精神が安定せず口論になりやすい。
話し合うほどに状況が泥沼化することは目に見えている。
むしろそれが敵の狙いである可能性もあり得る。
ここまで計画的に策を講じる者が、閉じ込める相手の性質を知っていないわけがない。
つまりエニグマは不死であり、閉じ込める事自体には何も意味がないことを知っていて敢えて監禁したのだ。
互いを怪しむような状況を作り出し、不毛な争いをさせて時間を稼ぐ必要があったのだろう。
美唯子を連れ去ったのも簡単に脱出されては困る理由があるからだとすれば納得もいく。
だとしたら美唯子さえオレ達から取り上げてしまえば犯人がこの場にいる必要はないのだから、能力者が紛れているとは考えにくい。
「あー、言っとくけど、素零は10番も疑ってる。
個人的にはキミを気に入ってるけど、今の君が全くの別人だとしたらなんの愛着もないからね。偽物だとわかったら、その時は容赦はしないよ」
素零はいるはずもない犯人探しに躍起になっている。
犯人がこの状況を見ていたらきっとほくそ笑んでいるだろう。
『いい加減になさい素零、よりにもよってオレを疑うなんてアナタはどうかしています』
「さっきから言ってるだろ? 素零の知ってるオレは平然と人を消したりしないんだよ。疑って当然だろ?
もちろんキミも疑ってるからね。だから誰も庇うなよ。
見た目や愛着で判断するのは愚かだ、ここからは全員の発言だけに全神経を集中させるんだよ、いいね?」
『しかし、そんな事……』
「──獄炎弾」
氷駕が素零に向けて紅蓮の火球を撃ち放つ。
火球は素零の体を突き抜け、見えない壁にぶつかり消滅する。
「なんのつもりだ、18番」
「お前が偽物かどうか試しただけだ。
多少のムカつきもぶつけたがな。さっきから黙って聞いていれば偉そうに、クソガキは黙っていろ。これはゲームか? 違うだろ」
氷駕と素零が一触即発の雰囲気を出している。
できるだけ穏やかに、火に油を注がないように宥める必要があった。
「おい、お前らマジでやめろって。
オレ達が争うことに意味はないんだ。
あと少しで何かわかりそうなんだよ、静かにしていてくれ」
「確かに素零もさー、ムカついてんだよね。
お前って、素零の演技に平気で騙されて安易な結論を出すし、人をうわべでしか判断しないし、信用ならない。
正直18番なんて雑魚中の雑魚でしょ、必要ないんだよ。
死んじまえよ、ゲス」
素零が右腕に光を束ねていく。
本気でキレている様子で氷駕を殺すつもりのようだ。
「──オレ、あとは任せたぞ。
この世界での死には何かヒントがあるかも知れない。
そもそも俺がパラドクスかもしれないからな。
これで解決することを祈っている。美唯子のことを頼む」
氷駕の一言が最大のヒントであり答えとなった。
考え違いをしていれば死ぬことになるかもしれないと思いつつも、オレは覚悟を決めた。
「待てよ、素零」
「なぁに? 止めたとしても18番は殺すよ?」
「素零オレを撃て。この状況を終わらせてやる」
「キミ、正気? 死にたいの?」
「オレは死なない。いいから零の螺旋をオレに撃て」
「……キミが死んだら今度こそ間違いなく僕が壊れてしまうけど、そのへんはわかってくれてるんだよね?」
「ああ。オレはソレを悲しませないし、死ぬつもりもない。やれ」
「そっか、じゃあ遠慮なくやるよ──」
素零は零の螺旋を発動するために光を集めていく。
『やめなさい素零、オレが死んだらワタシはアナタを絶対に許さない』
「アレスティラ、大丈夫だよ。約束を果たすまでオレは死なないから」
『……オレ』
「さーて! 素零史上最大級の零の螺旋だよ! 楽しみだなー! どうなるのかなー!? ……本当に、死なないでね」
素零の右腕から零の螺旋が放たれた。
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