新たなる究極の謎パラドクスは誰だ。脱出不可能喫茶。
「ケ! 懐かしい顔が揃ってんな。
ここにいたはずの4番はどうなった」
暗黒の運河に現れたのは7番と見覚えのない複数のエニグマ達であった。
7番は懐疑的な目でオレ達を見据える。
「聞け、7番よ、俺達は3番に……」
「ヤッホー! 素零がキタヨー!!」
氷駕が事情を話そうとした矢先、素零が明るい声音で挨拶しながら空から降ってきた。
そのまま7番の前に静かに落下し、挑発的な視線を向ける。
「ケケ、不可能殺しの登場か。
胸糞悪いクソガキめ、4番を消しやがったな」
「あ! わかる? あのオバさんがあまりにウザったいからさー。
思わず殺しちゃった! お前も消えるか? 7番!」
「やってやろうじゃねえか……。
覚悟しろよ、素零。お前はここで退場だ」
『これ以上の不要な戦闘は避けましょう。時間の無駄です。
一度引きますよ、素零。転移します』
「はーい! じゃあねー! 7番のオバサーン! ベーだ!」
素零は憎らしい表情であっかんべーをして見せる。
子供らしい挑発だが効果覿面だったようで、7番は顔を真っ赤にして憤慨している。
「おい、お前ら! ──出られない」
暗黒の運河を立ち去る直前、7番が小さく呟いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
氷蜜茶房へと戻ってきたオレ達は今後の事について話し合っていた。
「素零、なんのつもりだ。4番に化けていた3番を消したのはオレだぞ、何故罪を被るような真似をする。それに待っていろと言ったはずだ」
「キミ達のこと見てたらさー、居ても立っても居られなくなったんだよねー。何もかも不自然な事だらけで、全てがらしくないよ」
「らしくない?」
「うん。キミは零の螺旋を使えるようになってから必要以上に好戦的になっている。自覚ある?
タクヤと4番モドキをあっさり消したり、さっきのアレスティラへの言動だってそう、キミってそんなに情熱的だった?
明らかに人格がおかしくなってるよねー? まるで別人だ。
憎まれ役は素零の役目だし、キミはもう少し思慮深くなきゃ、世界のバランスが崩れちゃうよ」
素零の言葉にオレは目を丸くする。
どちらかと言うと普段通りにしていたつもりだったからだ。
アレとソレを守るとは決意したのは事実だが、他人に、特に人間に対して明確に殺意を抱いたことは今までになかった。
オレは本当に自分がタクヤを殺したのかわからなくなっていた。
「アレスティラはどう思う?
キミは彼に好かれて嬉しいだろうけど、不自然には思わない?
18番もどうだい? 自分が変わったって自覚はない?」
『確かにワタシも信念をアッサリと捨てました。
オレと結ばれたいのは事実です、しかし今のワタシは客観的に見ても素零の言う通りらしくないと感じます。今のワタシはワタシではない?』
「……信長と共に地上へ出た時、不思議と憎しみの感情が消えていた。そしてパラドクスを見た時、俺は密かに同胞を皆殺しにしてやろうと考えていた。ハッキリと言う、今の俺は俺ではない」
アレも氷駕も自分自身に対して違和感を覚えているようだった。
オレ達全員がおかしくなったのか、この空間がそうさせているのかは不明だが、何か異常な事態に巻き込まれてしまったらしい。
「さっきの、パラドクスだっけ? 3番じゃないのかも。
姿をハッキリ見たわけじゃないだろ? 声や雰囲気だけでさ。
11番も4番も本人のまま話してた。
もしかすると素零達は大きな勘違いをしているのかもしれない。全てはパラドクスという、名前しかわからない存在の緻密な計画にいいように踊らされていただけかもね」
「待て、では今のオレもオレじゃないとでも言いたいのか?」
「かもね。もしかすると素零達まるごと操られてるかもしれないし、今自分だと感じているものは全くの別物かもしれないし、もしくはそう思い込まされているのかもしれない。
パラドクスという何者かの想像を絶するような力によってね」
全員が深刻な表情で黙り込む。
誰もが状況を理解できていないだろう。
『集団催眠、あるいは概念領域そのものが乱されている。
ワタシ達個人の人格や世界の仕組みごと改変されているのでは』
「そんな感じかなー。パラドクスを3番だと思い込むように最初から仕向けられていた可能性もあるよね。
実際この場にいる全員がパラドクスは3番だと認識しているだろ? 素零が最初に感じた11番への違和感も布石だったのかなぁ。だとしたら、完全にしてやられたよね」
「オレも一つ、引っかかりを覚えていた。
奴はエニグマと何度も強調して言っていた。
エニグマは自身や仲間のことを絶対にエニグマとは言わない。
氷駕もアレもソレも、今まで出会った全てのエニグマは我々や同胞と言っていたのを覚えている。
やはりパラドクスは3番じゃない可能性が高いと思う。
素零の言う通り3番だと思い込まされ、オレ達はそれを信じた」
「そうだね。目的は今のところわからないけど、パラドクスという明確な悪意の能力に巻き込まれているのは事実だと思う。
レオナルドは今死んでるし、パラドクスって誰なんだろう?
待てよ、そうなると素零を殺すための戦争自体怪しくなってくるよね。アレスティラ、その点はどう?」
『素零を抹殺するために同胞が地球へ向かっているのは事実です。
少なくともワタシはそう認識したからこそココに来ました。
それすら仕組まれた事でワタシがそう思い込んでいるだけということになれば、また話は変わるのでしょう。
しかしそれではキリがありませんよ』
「ふ〜ん。そっかー。
どこからどこまでが現実で、真実なのかなぁ。
オレの告白は? タクヤと4番の死は? 全て本物? 偽物?
何もかもあやふやで考えるのが面倒になってきちゃった」
そう言って素零は小首を傾げる。
どうやら誰もが思考を放棄したくなるような異様な状況に陥ってしまったようだ。
「だとしたら、そんなとんでもない奴にどう対抗するんだよ」
「いや、いるぞ、一人だけ、絶対の存在が!」
『1番ですね。確かに彼ならこの状況も簡単に打破できるでしょう』
アレも氷駕も同じ答えを導き出したようだった。
「そうなると頼みの綱は美唯子だよね?
でも見てごらん、美唯子がいないよ。
敵は素零達の手の内を熟知しているらしい」
素零の言葉通り、美唯子は消えていた。
店内、厨房、二階、どこを探しても姿が見えない。
「あのバカ、こんな時にどこへ行きやがった……。
待っていろ、すぐに連れ戻してくる」
「あー、それは無理かもね。素零の予想だと、もう手遅れかな」
入り口のドアに向かって走る氷駕に素零は諦めたような表情で告げる。
「クソっ……開かない、どうなってやがる!」
氷蜜茶房の外へと通じる扉は全て固く閉ざされていた。
氷駕の獄炎弾はもちろんのこと、オレと素零が放つ零の螺旋までもが見えない壁に阻まれて掻き消されてしまう。
「7番が帰り際に言ってたな、出られないって。
だとしたらオレ達は終わりだな」
「待てよ、簡単に諦めるのか? お前らしくない……クソが!」
『一体何がどうなっているのでしょう。ワタシ達は……誰?』
数万人規模のエニグマが地球に向け進軍している絶望の状況。
それに加えてパラドクスという得体の知れない敵の策略にハマりオレ達は監禁された。
「ゲームオーバー! なんちゃって!!」
素零の明朗な声が氷蜜茶房の店内に響き渡った。
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