オレは絶対に諦めない。オレと素零とアレスティラ。
宿命の三角関係。
氷蜜茶房の店内で素零と美唯子は向かい合っていた。
素零は一見すると普通の子供にしか見えない。
美唯子は警戒の色を微塵も見せず、自ら素零のそばへと近づいていく。
「わ! 可愛い! 雰囲気的にキミもエニグマ? お名前は?」
「オレは6番の素零、お前は1番と繋がっている美唯子だね?
悪いけど、目障りだから消えてね」
素零が右手に光を収束させていく。
零の螺旋を使い美唯子を本気で抹殺するつもりらしい。
「──アナタは私を殺さないよ」
「えっ、何?」
美唯子の雰囲気が豹変した。穏やかな目付きで素零が突き出している右手を両手で包み込むようにして優しく握る。
予想外の行動に呆気にとられたのか、素零の腕から光が消えた。
「本当に殺す気なら、話しかける前にやってるよね?
アナタは迷っている。私を殺せばペル様が傷つく事を理解しているから、違う? それにね、私はまだ死ぬ運命じゃないの」
「……やっぱりお前、ウザったいなぁ。
まさか本気で自分が死なないとでも思っているのか?
調子に乗るなよ人間、それが運命だと言うなら変えてやるよ」
素零は憤怒の形相で美唯子の手を払い除け、右手に再度、光を収束させていく。
今度こそ本当に殺すつもりなのだろう。
「やめろ、素零っ!」
オレが叫ぶと素零はすぐさま反応する。
苛立ちと悲しみが混在する表情は自分を責めているようでもあった。
「やっぱり止めるんだ。この女がそんなに大事?
見てよ、あの勝ち誇った顔を。
キミが助けてくれるのがわかってる表情だ。
本当に、イライラするなぁ……」
「見ろ、零の螺旋だ。
ちゃんとできてるだろ? オレに撃たせないでくれ、一度落ち着いて話し合おう」
オレが光り輝く右腕を突き出すと、素零は微笑を浮かべる。
「うん、合格。キミは飲み込みが早いね。
でも話し合うつもりはない。
美唯子、お前は1番と繋がっているだけではない、他にも何か隠しているだろう? 生かしておく理由がない、ここで死ね」
オレの制止も聞かず、素零が零の螺旋を解き放った。
光の螺旋が美唯子めがけて一直線に飛んでいく。
咄嗟にオレも走り出すが、救助が間に合う距離ではなかった。
光の螺旋が美唯子の胸を貫く寸前、不可解な出来事が起こる。
美唯子の肉体が突如として消失したのだ。
オレも素零も美唯子の行方を追って周囲に目を走らせる。
そして次の瞬間、オレの頭上から美唯子が降ってきた。
『──いい加減にしなさい、素零』
頭の中を直接抜けていくような透き通った声が響く。
オレは声の主を知っていた。
世界を照らすような黄金色の髪、煌々と輝く紅蓮の瞳。
息をも失うような絶世の美少女、オレが探し追い求めていた何よりも特別な存在、アレスティラが天を引き裂き優雅に降臨した。
「これはこれは、懐かしい顔だね。
やっぱり、素零達は三人揃ってないとダメだよね。
待っていたよ、薄情女のアレスティラ」
『ワタシが薄情? 何を言っているのです』
「だってそうだろ、自覚ないの?
彼を巻き込むだけ巻き込んで、ほったらかしにしてるじゃないか。
少なくとも素零達は彼から一度も目を離さずに見守ってきた。無責任でどうしようもないね、キミってさ。
前に殺せるなら殺してやりたいと言ったよね?
今の素零なら出来る、お前を本気で殺すことがね」
『アナタにワタシの何がわかるというのです。
ワタシの行動原理は全て彼のためです。
アナタは常日頃から物事の本質を見抜けない者は愚かだと蔑んでいましたね? ソレはまるっきりアナタのことですよ。
物の道理が分からない生意気な子供、嘆かわしい存在ですね』
「昔から口ばっかり達者だな!
いい子ぶりやがって、素零はお前が大嫌いなんだよ!!」
『理屈を通されるとスグに激昂する。
本当に幼稚ですね、アナタが同胞だと思うと情けないです』
感動の再会を楽しむ余裕すらなかった。
顔を合わせた途端に喧嘩が始まる。アレとソレはまさに犬猿の仲なのだろう。
二人のあまりの剣幕に口出しできない。
だが既視感のある光景をオレはどこか懐かしくも感じていた。
「あのー! ジャンヌさ、じゃなくてアレスティラさんは何をしに来たんですか! 今って結構、修羅場な感じなんですけど!!」
睨み合う素零とアレスティラの間に美唯子が遠慮なしに割って入る。
こんな時、女性は強いものだなとオレは感心していた。
『そうでした。時間がないので端的に話します。
素零、アナタが仲間を無差別に殺している諸悪の根源、1番の抹殺を目論む謀反人だと同胞は断定しました。
間もなく、我々の全勢力による総攻撃をもってアナタは消されることになるでしょう。ワタシは友人として警告に来たのです』
「ちょっと待ってくれ、つまり、エニグマが総力を結集して地球にやって来る、素零を殺すためだけに? 地球を滅ぼす犯人が誰なのかもわかっていないのにか!?」
「ふーん、上等だね。
元々、素零は仲間も全員消すつもりだった。
宇宙を探し回る手間が省けたよ、返り討ちにして全滅させてやるさ」
「強情を張るなよ、素零。
アレスティラ、エニグマの戦力はどれくらいになるんだ」
『……最上位の4番を筆頭に、およそ数万人規模です。
まともな戦力になるのは精々20番までですが、下位の者も軽視はできません。全員が不死身かつ、特異な能力を持っている、それに加えて4番は素零を封じる秘策があると言っていました。
数の暴威に蹂躙され、敗北は必至でしょう』
想定していた以上に最低最悪な状況にオレは戸惑っていた。
素零を殺すために全力をあげる。それだけ不可能殺しが憎まれていたということだろう。
『オレと美唯子はスグに地球から避難してください。
今スグにでも10番街へと転移させます。
レオナルドも消えたようですし、アナタ方は全てを忘れて平和に暮らしてください』
「アレはどうするんだよ」
『ワタシはソレの友として出来るだけの事をします。
いくら憎くても昔馴染みですから、消えてほしくありません』
「ふざけるな! 勝手に決めるなよ、素零はお前が嫌いだって言っただろ! お前も一緒にどこへでも消えてしまえ!」
体を小刻みに震わせ素零が精一杯の強がりを見せている。
元を正せば原因は素零にある。それは間違いない。
因果応報だと突き放すこともできるが、そんなことはしたくなかった。
素零はオレのために殺しをしていると言っていた。
つまりは無意識の内に原因の一端を担っていたのかも知れないのだ。
「……アレスティラ、オレとの約束を覚えているか?」
『約束ですか?』
「オレとお前の勝負は終わっていない。
全てが終わったら何もかも教えてくれるって言ったよな?
オレはアレの口から真実を聞きたい。
だから、オレも戦うよ。アレとソレを守るために。
全てが狂う前のあの瞬間を取り戻すために。
──オレは絶対に諦めない!」
「ペル様! 私も協力します! 頑張って勝ちましょー!!」
『本当に、アナタ達は……ほら、ソレもお礼を言いなさい』
「キミ達って本当にどうしようもないバカだよね。
殺す気も失せるよ。……ありがとう、今までごめんなさい」
「よし、やるか!」
エニグマとの総力戦に臨むことをオレは決意した。
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