全知全能なんてクソ食らえ。彼女を殺す最大の理由。
オレと素零は闇に包まれ亜空間の中を移動している。
体にまとわりついてくる闇は鎖のように頑強で、振り払うことも脱出することも叶わない。
闇の中、オレは静かに考えていた。
素零は息をするような気軽さで生命を消していく。
何の目的があるのかはわからないが、このまま黙って付いていけば間違いなく美唯子は消されてしまうだろう。
「素零、久しぶりに二人になったんだ、少し話をしよう」
「あー、もしかして時間稼ぎのつもり? いいよ。お話しようか」
素零は無邪気な笑顔を見せる。
柔らかな笑顔のその奥には無慈悲な悪魔が潜んでいる。
素零という存在を諌めることが出来るのはオレ以外にいない。
話し合いで解決できれば何よりだが、場合によっては差し違えてでも素零を止める必要があるとオレは考えていた。
「お前は奏を3番だと言っていたな? だが3番はオレが倒した」
「少し違う。正確に言うとキミが痛めつけて、オレがシッカリとトドメを刺した。間違いなくアイツは死んだと思ったけどなー」
「ならば何故、奴が3番になるんだ」
「うーん、なんというか、フィーリング? 確信めいた予感がしたんだ。奴も完全には否定しなかったし、アイツは絶対に3番だよ」
素零は断言するが信じ難い話であった。
受け入れてしまえば、死んだ者は生き返らないという世界の法則を根底から覆すことになる。
結論を出すには早いし慎重に考えるべきだとオレは思った。
「ではレオナルドを消した理由はなんだ、奴は恐らく地球の消滅には関わっていないと思うけどな」
「うん、知ってるよ。ほら、アイツってさ、なんとなく死ぬイメージがないよね? 私は消えないとか言ってたし、確証はないけど、そのうちシレっと戻ってくる気がするんだよね」
「だとしたら、殺しても意味はないだろう。無闇矢鱈に生命を消すのは無しにしよう。少なくともオレはそんなことを望んでいない」
「ちっがーう! だからこそ、消したのさ!! さっきの3番の話に繋がるんだけど、奴等は死を回避する方法を知っているんだ。
世界の法則を無視するくらいの裏技だよ?
そんな奴、相手にしていたらキリがないし、対策する必要があるよね? 放っておいたら収集がつかなくなるよ。
この機会にその手口を探ろうと思ったんだ。だから戻ってくると知った上で敢えて殺すことにした」
素零の言葉も一理あった。
レオナルドが消された時、あまりにも無防備ではあった。
抵抗もせずに黙って退場するような器でないことは理解できるし、本当に戻ってくるような予感がしている。
そして散り際に一言、感謝しているとレオナルドは言った。
何か特別な意図がありそうな不気味な発言がオレの頭の中にいつまでも残っていた。
「だったら美唯子はどうなる。彼女を殺す正当な理由があるのか? もしお前の個人的な感情で消そうとしているなら、オレにも考えがある」
「まぁ確かに半分はやっかみかもね。キミにベッタリだからさ。
何が運命だよ、反吐が出るってのが素零と僕の共通の意見。
あと半分は美唯子から素零と同じ匂いを感じたから。
同族嫌悪じゃないけれど、アイツもバカなフリして生きている。
キミが考えてるよりも大分したたかな女だよ」
「だとしても、消す必要はないだろ」
「問題なのは、キミ達が1番の言葉を直接聞いてるわけではないことかな。
あの女のフィルターを通して間接的に受け取ることになるだろ?
つまり、1番は絶対だという認識の下で、あの女の言いなりになるしかないってことだよね。
もしあの女が嘘をついていたら? 何か陰謀を企てていたら?
1番の言葉だからと世界を消せと言われたらどうする? 従う?
──そして何よりもコレが一番大事。彼女を殺す最大の理由。
答えが全てわかる人生の何が楽しいの?
全てを知ってる他人に生かされる人生って虚しくない? 何が起きるかわからないから人生って楽しいんだよね?
全知全能なんて虚無さ、クソ食らえ。存在してはいけないんだ」
素零の言葉に身構えていたオレだが、意外な返答に面食らう。
核心をつく発言に反論も否定もできない。
「──さて、着いたよ。
素零は1番も1番に通じている者も全て消す。
止めたいなら止めてね。オレを消せるのはキミだけだからさ」
闇を破って素零は光の中へと飛び出していく。
この先には何も知らない美唯子が待っているのであろう。
オレはどうすればいいのか判断に困っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




