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零の螺旋。さよならレニー。


 オレと素零は地球にある寂れたアンティークショップにやって来ていた。

 古ぼけた外観とは裏腹に店内は清潔で洗練されている。

 オレが年季の入った小物や家具等を眺めていると店の奥から店主が姿を現す。

 長身痩躯の青年。1番に死んでいるといわれた11番(カナタ)が爽やかな笑顔を見せながら歩いてくる。


「いらっしゃい。10番に6番、よくこの場所がわかったね」


「1番に聞いた。11番は()()()に殺されたってな。どう考えてもおかしいよな? お前は一体誰なんだ」


 世間話に応じることもなく、オレが単刀直入に尋ねると奏は諦めたように嘆息する。


「ああ、なるほど納得だよ。忌々しい1番ね。全てお見通しか」


「お前さー、()()()だよね? 見た瞬間にわかったよ。

 あの時に殺さなかったっけ? うーん? おかしいよねぇ?

 どういう理屈で戻ってきたのか教えてよ」


 素零が不躾に尋ねると11番は明らかに動揺した表情を見せる。

 

「……何を言っているのか理解に苦しむよ。

 キミも知っているだろう? 死んだ者は生き返らない。

 1番が決めたこの世界の唯一にして絶対のルールだ」


 死んだ者は生き返らない。当然だが絶対の掟。

 蘇生手段が存在しない世界で死んだハズの男が言葉を並べている。


「だから聞いてるんだってば。早く答えなよ」


「丁重にお断りする。誰もがキミの力に屈服すると思っているなら、それは大きな間違いだよ、6番」


「そうか、なら死ねよ、ゲス」


 素零が指を鳴らすと奏の両腕が一瞬で消滅した。

 血が吹き出ることも、奏が痛みにのたうち回ることもなく、最初からなかったかのように付け根部分から完全に消えている。

 次の瞬間には右足も消失し、奏はバランスを崩して床に倒れ込んだ。

 額に脂汗を浮かべ、荒い呼吸で目を泳がせ、何が起きているのか理解できないでいる奏の頭部を素零は掴み、耳元で小さく囁く。


「今から3つ質問をする。一つの問いに10秒以内に答えるんだ。

 さもないとお前を消す。あと、答えられなくても消すからね」


 素零の脅しに屈したのか奏は静かに首を縦に振る。


「昨日の晩、暗黒物質(ダークマター)を操っていたのはお前だな?」


「そう……だ」


10番(アリシア)と本物の11番(カナタ)を殺したのはお前か?」


「…………違う」


「へぇ。さて、そんなお前は3番です。間違いありませんね?」


「…………オレ君、地球の消滅は全ての始まりだ、この先の未来を救えるのはキミだけなんだよ、キミだけが1番に対抗出来る。

 1番を倒してくれ、頼む──」


 素零の指先から放たれた光の螺旋が奏の胸を貫いた。

 11番(カナタ)の肉体は捻れ、歪み、直後に粒子となって消えていく。

 この世に存在していた痕跡を一つも残さず、奏は消滅した。


「残念、そんなことは誰も聞いてない」


 何の躊躇いもなしに素零は奏を抹殺した。

 冷酷で残忍な行為を目の当たりにして、ソレと素零は別物なのだと認識すると同時にオレは怒りの感情を覚えていた。


「なぜそんなにも簡単に仲間を殺すんだ。お前には慈悲の心がないのかよ。正体も分からずじまいだし、お前のやり方は間違っている」


 素零に説得や理念の押し付けは無駄だとわかっている。

 だとしてもオレは黙っていられなかった。


「キミさー、相変わらず人良すぎ。

 あそこまで追い込まれて口を割らないならアイツからはあれ以上何も得られないし話してもムダ。それにあいつは仲間じゃない。

 疑わしきは全て消せばいい。そうすれば何もかも解決するよね」

 

 身も凍るような冷徹な声音で素零は言い切る。


「……氷駕はお前を純粋な子供だと言っていた。

 オレはそう思わない。素零(お前)は悪魔だ」


「やっぱりキミは賢いね。そう、その通りさ。

 オレはバカなフリして生きている。

 真の愚者とは知を騙る者だ。

 全てを客観的にだけ捉えて本質を見抜けない奴等に世界を生きる資格はない。そんなことだから、やがて世界は零になる」


「いや、そうはならない。オレがお前を止めてやる」


「へーえ! 楽しみだなぁ! さて、次に行こうか」


 素零は有無を言わさずオレの手を取り、転移能力を発動した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 オレと素零は複数人の軍人に取り囲まれている。

 突如として天を破り現れた二人組に向けて軍人は警告も無しに手にした自動小銃による一斉掃射を開始する。

 撃ち放たれる弾丸はオレと素零の肉体を次々とすり抜けていき、地面に薬莢が落ちる乾いた音が虚しく響く。 


「あ! 終わった? じゃあクタバってねー!」


 素零は軍人が弾を打ち尽くしたのを確認してから頭部を吹き飛ばした。

 軍人を皆殺しにした素零はオレの手を取り、軍事施設のような場所をグングンと突き進む。

 道すがら監視ドローンを撃ち落とし、戦車や戦闘機を薙ぎ払い、周囲一面を焼け野原にしながら歩を進める。

 誰も素零を止められない。

 素零が放つ光の螺旋は全てを溶かし、破壊し、消滅させていく。

 一頻り暴れた頃、軍服を来た長身の男が一人、オレ達のもとへとやってきた。


「随分と派手に暴れたものだ。協定を忘れたのか素零」


 周囲に目を配りながら、呆れ顔で言うレオナルド・オムニ・エンド。

 素零は実に楽しそうな笑顔でレオナルドを迎える。


「ヤッホー! 遊びに来たよー!!」


「オレ君もいるのか、これは一体どういうことかな?」


「なんか、ごめん。オレには素零を止められなかった」


 申し訳なさそうに言うオレを見たレオナルドが苦笑する。


「そうか、ワガママなガキの扱いには手を焼くよな」


 ──零……!


 閃光一閃。 

 レオナルドの四肢が同時に吹き飛んだ。


「お前を世界から消すために来た。あれこれ画策されるのもいい加減にウザったいからねー!」


「……ふ、素零、オフザケも大概にしろよ。

 今この場で私を消す理由がないだろう?

 今なら見逃してやる。オレ君を連れて帰りなさい」

 

 レオナルドの四肢は瞬間的に再生していた。

 諭すような口調でいうが、素零は聞く素振りすら見せない。


「黙れよゲス。10番(オレ)を悪役に仕立てた時点で死刑は確定だから。それが今この瞬間ってワケさ。大人しく消えてね?」


 素零の右手に光が収束していく。

 そのままレオナルドを攻撃をするかに思えたが、素零は途中で何かを思い出したように手を叩き、光はたちまち分散していった。


「そうだ! 折角だからレオナルドはキミに殺させてあげる!

 (ソレ)と契約してるから素零(オレ)の技も使えるんだよね。ほら、右手を出して?」


 素零がオレの腕を取ると、右腕が眩い煌めきを放つ。

 

「待て、こんな形の決着は望んでいない。

 オレは実力でレオナルドを倒したい、余計なことはするな」


「キミがやらないなら今この場でオレが消しちゃうよ?

 それじゃあ意味ないでしょ? いい? この世で最強の攻撃手段だからしっかりと覚えてね。

 素零(オレ)(ソレ)が交わることで生まれる究極の技。無すらも消し去る零の螺旋だ!」


 オレの右手から素零が放っていたのと全く同じ光の螺旋が飛び出した。

 光はレオナルドの体に吸い込まれるようにして消えていく。

 肉体が破壊され粒子になろうとするのを、体の内側から溢れ出る瘴気が阻止しようとしている。

 レオナルドは肉体の消滅を必死に抑え込もうとしているが、徐々に破壊の比率のほうが大きくなっていく。


「──グッ、この場は負けだが、私は消えない。

 素零、キミは私を本気で怒らせた。()()()()()

 レオナルド・オムニ・エンドの名にかけて、キミは私が殺す」


「黙って死になよ、みっともない。さよならレニー!!」


 破壊と再生を繰り返していたレオナルドの身体に向けて、素零は追撃の閃光を撃ち放つ。

 レオナルドの肉体は塵となりこの世から完全に消滅した。


「さてと、めぼしい敵は消し去ったし、さすがにこれで運命は変えられたよね! 素零(オレ)とオレの勝ち〜!」


「おい素零」


「なぁに?」


「オレが今、零の螺旋をお前に使えばどうなる」


「あー、そう考えるんだー! 心優しいキミにしては珍しいね。

 うん、多分素零(オレ)は死ぬかな。でも、キミは撃たないよ!」


「どうして言い切れる? オレは感覚を覚えた。撃てるさ」


素零(オレ)が死んだらソレも死ぬ。オレ達は二人で一人だからさ。

 つまり、キミは絶対に素零(オレ)を殺さない。

 オレもキミを殺さないよ。これからも()()でずっと仲良くやっていこうねー!」


 素零は満面の笑顔でオレの身体に抱きついた。

 オレは素零の身体を無言で引き離す。


「勝手なことばかり言うな。何かあるはずだ、素零の中からソレだけを救う方法が……」


「うんうん。じっくり考えてねー。じゃあ、次いくよー!」


「次? もうこれ以上、誰も殺す必要はないだろう」


「いや、あるよ。1番と繋がっている女、陽神……美唯子さ」


 素零は冷淡な声で言うとオレの腕を取り転移を開始した。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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