運命は変わらない。お前は誰だ。
──氷蜜茶房。深夜2時。
怪物騒動が終息し、オレと氷駕は合流した。
二人の帰りを待っていたのであろう美唯子はカウンターテーブルに突っ伏して小さな寝息を立てている。
「それで、そっちはどうだった」
氷駕が淹れたコーヒーを啜りながらオレが尋ねる。
「……口止めされているが言うべきだろうな。6番と話してきた」
「ソレと会ったのか!? どんな様子だった?」
思わず大声を出してしまったオレが軽く咳払いをする。
一瞬で店内は静寂に包まれ、時計の針が時を刻む音だけが静かに響いていく。
氷駕は沈黙を見せた後、囁くような声で話し出した。
「……話をしてわかったことは奴が思っていた以上に幼稚だということ、お前に対して異常なまでの執着を持っていること、そして恐らくだが奴は地球を破壊するつもりはないように思えた」
「どういうことだ」
「言っただろ、奴は計画性もクソもない良くも悪くも純粋な子供だ。素零は好奇心のままに行動しているようだった。
今回の一件もレオナルドに新人類について吹き込まれて自分もその真似事をしたいと思ったからだろう。
兵隊を作るとか実験がしたいだとか言っていたからな。戦争ゴッコでもしてるつもりなんだろうさ」
「待てよ、そうなると話が変わってくるよな?」
「その通りだ。6番がその気になれば地球に蔓延している暗黒物質を利用して人類を絶滅させることも地球を消滅させることも簡単にできる。しかし奴にそのつもりはないらしい」
「じゃあ1番の警告が間違っていたと? 暗黒物質が地球を滅ぼすってのは杞憂に終わるかもしれないんだな?」
「いや、そうではない、1番の言葉は絶対だ。間違いなく地球が暗黒物質の攻撃を受けて消滅する未来がやって来る。
考えられるのは素零以外の第三者の手によって地球は消滅することになるということだ」
ピシャリと言い切る氷駕を見てオレは小さく息を吐いた。
「つまり、ソレ以外の犯人を探す必要があるわけか。大変だな」
「それほど難しいことでもない、目星はついている。
お前、11番についてどう思う。共に戦闘をこなして何か感じなかったか」
氷駕の質問にオレは眉をひそめる。
話の流れからして犯人は11番であると言っているようなものだった。
「別に何も……やたら気のいい奴って感じはしたけど、待てよ、氷駕は11番が犯人だと思っているのか?」
「何もかも、奴の都合よく事が運びすぎているとは思わないか?
アイツと再会してから、拭い去れない疑念がある。
俺が知っている11番ではない気がしてならんのだ」
「確かに今この地球上で惑星を壊せるような力を持っている人物は限られているけど、確証も無しに仲間を疑うのもな……」
今度は逆に氷駕が顔をしかめる。
「仲間だと? ついさっき会ったばかりの奴をもう信頼しているのか? お前は手を差し伸べてきた者全てに心を開く癖があるな、少しは疑うことも覚えた方がいい。世の中、綺麗事だけではすまないのだからな」
「氷駕こそおかしいぞ、エニグマは皆んな仲間で大切に思ってるんじゃないのかよ」
「確かにそうだが例外もある。では聞くが、お前がそこまで11番の肩を持つ理由はなんだ」
段々と二人の会話がヒートアップするにつれて、声のボリュームも大きくなっていく。
オレは隣で安らかに眠っている美唯子をチラリと見た後、声を抑えて会話を続ける。
「そりゃ、地球を守るって同じ志を持つ同士だし、オレのことを助けてくれたし……」
「それすら奴の策略だったらどうする。あの化け物事件の全てが自作自演で、お前を信用させるための罠だったとしたら?
大体、あの緊急時に俺だけを引き剥がす理由がない。奴が俺に正体を悟られるのを恐れていたのかも知れないし、もしくは最初から6番に俺を消させるつもりだったのかも知れん」
氷駕は荒い口調で言葉を並べる。
いつになく真剣で頑なな態度を見せる氷駕の真意をオレは理解できないでいた。
「どうしても11番を悪役にしたいんだな、まるでそう思い込みたいようだ。らしくないな、何かあったのかよ」
「……そうかもな。俺はそう思いたいだけなのかも知れない。
6番、素零はお前を大切に思っているのが伝わってきた。
そんな奴が故郷をぶち壊すようなことはしないだろう。
ハッキリ言うと、奴と話しているうちに情が移った。
本当にアイツが純粋で、誰かに利用されているだけなら、奴を救ってやりたい。そう感じた俺は間違っているか?」
「いや、間違ってない。オレだってソレを信じたい。
ごめんな、氷駕。お前なりにオレとソレのことを心配してくれてたんだな。お前はいつだってオレの味方をしてくれる。
何よりもまず信じるべき友の言葉を聞かないでホントにバカだ」
「……ウルウル。なんて素敵な友情!
ペル様のためにもお兄ちゃんのためにも、ここは私が頑張る!」
いつの間にか起き上がって二人の様子を眺めていた美唯子が目を潤ませながら天高く拳を突き上げた。
「……ミコ」
「お前、起きていたのか」
「途中からね! モヤモヤを解決するために、1番に答えを聞けばいいんだよね?」
何よりも明確で手っ取り早い解決策を美唯子は提案する。
1番の名前を出されてはオレも氷駕も納得するしかない。
「そうか、その手があったな。スゴイぞ、ミコ!」
「えへ! ペル様ぁ! もっと褒めて〜」
「いいから、とっとと聞きやがれ!」
美唯子がオレに擦り寄り、甘えるような雰囲気を出そうとしていたのを見た氷駕が苛立ちの表情で怒鳴りつけた。
「は〜い……」
美唯子はオレから離れて能力を発動する。
1番と交信し、11番の正体を知るための天啓を得る。
「えっと、これは大変かも? なんか怖くなってきちゃった……」
「1番は何だって?」
「奴は敵なのか味方なのか、どっちだ」
ほぼ同時にオレと氷駕が質問する。
美唯子は少しだけ間をとって、やがてゆっくりと口を開いた。
「あの、11番は……三日前に殺された……って」
美唯子の言葉にオレも氷駕も言葉を失った。
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