6番と18番。オレの正体を知るものは。
──10番と11番が都心の上空で大立ち回りを演じていた頃、氷駕は闇に導かれ悪意と対面していた。
「貴様の目的は一体なんだ6番!」
闇の中、氷駕は強い口調で言った。
目の前にいるのは少年のようで少女にも見える風貌の子供。
かつてオレからソレと呼ばれ、この世の理から外れた不死身のエニグマを唯一完全に抹殺できる不可能殺しと呼ばれている存在。
「なんかさぁ、キミ、雰囲気変わった? 前はもっとクールだったよね? ちなみに今は6番じゃなくて素零だから。そう呼んでよ」
あどけなさが残る声で素零は言う。
「俺の質問に答えろ。貴様がその気になれば人類など一晩で喰い尽くせるはずだ。なぜこんなまどろっこしい真似をする必要がある」
苛立ちを隠さず氷駕が怒鳴りつけるも、素零はケタケタと笑うだけ。
「もぅ、暑っ苦しいなぁ。そっか、キミは17番の意思を継いだんだっけね。人格にモロ影響出てるねー! そうなるんだぁ!」
素零は氷駕を挑発するように戯けた態度を見せている。
「まさかとは思うが、11番はお前の仲間か。だとしたら俺はまんまと嵌められたわけだ」
「……んふふ。なるほど、その筋書きも面白いね。
でも残念。キミの推測はハズレー! 良かったね!」
素零の言葉に氷駕は胸を撫で下ろす。
状況が状況なだけに正常に思考が働かず、疑心暗鬼の状態になっていた。
「さて、わざわざ来てもらったけど、キミをどうするかだよね。
オレ的に選択肢は二つかな〜。
一つはキミをこの場で惨殺して見せしめとして彼に送りつける。
もう一つは伝書鳩として働いてもらう。どっちがい〜い?」
氷駕は抵抗することも考えていた。
しかし不可能殺し相手では部が悪い。
反抗の意思を見せた途端にこの世から完全に消されてしまうだろう。
結局のところ、現時点では素零の言いなりになるしかないのだ。
「貴様は俺達が必ず倒す。しかし今の俺には力がない。
不服だが、従ってやる」
「いいね! 実に賢明な判断だと思うよ。
実はオレ、あんまりキミを殺したくないんだよね」
「なんだと? 貴様に慈悲の心があるとは知らなかったな」
「ん〜。オレってさ、なんだかんだ10番のこと大好きなんだよ。
それでず〜ッと彼の事、ついて回って見てるんだけどさ。
キミのことを友人みたいに思ってるみたいだし、さすがに気が引けるんだよねぇ」
素零は氷駕の周囲をくるくる回りながら言葉を投げかける。
真っ黒な闇の中、素零の思考も呼び出された意図も読み取れない。
氷駕に出来ることはなく、ただ黙って立ち尽くしていることしかできない。
「まぁ、10番が世話になってるみたいだし、キミにはこれから働いてもらうわけだし、オレも質問に答えてあげようかな。何か疑問があったら聞いてもいいよ」
「最初に聞いたはずだ。貴様の目的はなんだ……素零」
「……んふふ。今はただ、遊んでるだけ。
三年後には戦争もあるし、レオナルドみたいに人間をいじくって兵隊も作りたいし、暗黒物質を今よりもっと強化したいしさ。他に試したいこともあるしねぇ……。
やりたいことだらけで今とっても充実してるんだよね!」
闇の中を素零の満足気な声が響き渡る。
「あっ、あと最終的には1番を殺してやりたいんだよねぇ。
アイツってさ、万能すぎてウザいでしょ? そう思うよね?」
「いや、俺はそうは思わない。我等が頂点を敬愛している」
「へー。キミも反骨心のない小判鮫か。つまんな〜い」
素零は駄々っ子のように唇を尖らせる。
どうみても純粋無垢なただの子供。
本当に素零が殺戮の権化なのか氷駕には判断がつかなかった。
「オレには会わないのか。なぜコソコソと付き纏うような真似をする」
氷駕の言葉を聞いた素零は肩を落とし、陰鬱な表情をする。
「今のオレを彼に見られたくないんだよね。彼のこと、ホントに大スキだから。余計に会いたくないんだ」
シュンとした素零を見て氷駕は一歩踏み込んだ質問をすることにした。
「なぁ、聞いてもいいか? アイツは一体何者なんだ。オレの正体を知っているのか」
「知ってるよ。彼の本名も何者なのかも全部ね。知ってるのはオレと僕だろ? それに5番と1番くらいかな」
「仮にアイツがお前に会いたいと、全てを許すから戻ってこいと言ったら、お前はどうする。オレはお前を大切に思っているようだぞ」
「──えっ!? ……うん、嬉しいよ。でも、出来ないよ。僕は汚れてしまったから。オレにはもう、彼に会う資格なんてないんだ」
「資格だと? 俺達は仲間だ、仲間に資格なんて……クッ!」
──斬──
和みかけていた雰囲気を斬り裂くように、一筋の剣閃が飛来する。
氷駕は咄嗟に冷気の弾丸を飛ばし斬撃を相殺した。
「貴様ァァッ!!」
斬撃を飛ばした主に向けて氷駕が怒号する。
刀を肩に担いだ大柄な男性。
氷駕の腕を斬り落とし、右眼を奪った國裂信長が闇の中に現れた。
「よぉ、氷のエニグマ。また俺に斬られに来たのかよ」
中指を立て、舌を出しながら信長は氷駕を挑発する。
「貴様だけは絶対に俺が殺す。俺の命と存在の全てを賭けて。
必ず首を取ってやる……絶対にな」
氷駕が憎々し気に呟くと、信長は刀を構え高笑いを上げた。
「ハッ! 一度負けた奴が寝言いうんじゃねぇっツーの!」
「──覚悟しろよ。貴様を殺すとっておきを見せてやるぜ……」
氷駕は凍気を展開し、紅蓮の炎を拳に宿す。
キッカケさえあればすぐにでも戦闘が始まるであろう。
そんな一触即発の空気の中、素零はめんどくさそうに嘆息をする。
「はぁぁ。なんだか興が削がれちゃった。こんなの全然オレらしくないや。今日はもうカイサーン! お開きでーす!」
「……命拾いしたな雑魚。決着をつけたければいつでも相手してやるぜ、じゃあな」
素零の一声で信長は刀を鞘に納めて闇の奥へと姿を消した。
「ほら、キミも今日は帰っていいよ。オレのことは10番に内緒にしといてね。じゃあね、バイバーイ!」
言うだけ言って、素零も闇に紛れて消え去った。
「……クソッタレが、どいつもこいつも頭にくるぜ」
闇の中、氷駕は一人舌打ちをした。
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