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暗黒生命体素零厄。地球が好きな11番。


 オレと氷駕は緊張の面持ちで扉の前に立っていた。


「いいか、敵の刺客の場合もありうる。用心しろよ」


 氷駕の言葉にオレは静かに頷く。

 ゆっくりと扉が開き、来客を知らせるドアベルが鳴る。


「お邪魔するよ。──キミが新しい10番だね。僕は11番。地球では虹希 奏(ニジノ カナタ)と名乗っている。よろしく」


 店内に入ってきた長身痩躯の男性が声高らかに挨拶をした。

 小顔で甘いマスクの男性がオレに握手を求める。

 オレが応じると奏と名乗った男性は握った手を軽く振ってから笑顔を見せる。

 性別問わず、心惹かれてしまうような不思議な魅力を奏は放っていた。


「へーえ、なるほどねぇ。10番(キミ)の第一印象を率直に言うよ。初めて会った気がしない。

 別にキミを口説いてるわけじゃないけどね。キミを見ていると懐かしい気持ちになる。18番も最初そうだっただろ?」


 氷駕は黙ったまま頷いている。

 懐かしい。エニグマはオレに会うと全員が同じ感想を口にしていた。


「その言葉、エニグマにはよく言われるよ」


「おっといけない。そのエニグマって言葉は禁句だ。レオナルドが勝手に付けた仮称を我々は受け入れていない。18番が人類を猿と呼んでいるのと同じだから。まぁでもいいか」


 オレの言葉を奏は訂正させようとしたが、気にしないことにしたようだ。

 奏が微笑むと、同時に甘い香りがふわりと漂う。

 人を自然と惹きつけるような魅力をオレは奏に感じていた。


「お前、どうやって地球に来た。まさか8番のように敵と繋がっているわけではないだろうな」


 鋭い口調で氷駕に尋ねられても、奏は涼しげな顔を崩さない。


「やだなぁ、僕はずっと地球に住んでいるじゃないか。

 僕は人類が好きだ。ずっと見守ってきた。これからもね」


「確かにお前は変わり者だったな。では5番(アレスティラ)が地球を宇宙から消したことについてどう考えている」


「10番から上の存在は何を考えているか理解に苦しむからね。

 とりあえず地球を文字通り消し去るってわけでもないのなら、身を任せるしかないさ。人類を傷つけるってなら話は別だけどね」


 奏の口調はどこまでも穏やかだが、表情には僅かばかりの嫌悪感が表れていた。

 

「ではとりあえず、お前を味方と考えてもいいんだな?」


「それは少し違う。僕は地球の味方だよ、18番(氷駕)くん!

 ──おっとそうだった! テレビをつけてご覧? 今地球は大ピンチなんだ」


 奏に言われて氷駕がリモコンを手に取りテレビの電源を入れる。

 画面には赤文字でデカデカと緊急生中継の文字。

 レポーターが天を指差し、何かを必死に説明していた。


「なんだ、あの化け物は……」


 囁くような声で氷駕は言う。

 黒い塊が空に浮かんでいる。

 全長数百メートルはありそうな巨大な闇の塊。

 目や耳など人の器官のようなものが無数にあり、真っ黒な触手が体全体から飛び出し蠢いている。

 複数のスポットライトに照らされながら宙を浮遊している姿は異様の一言。

 この世の終わりだと説明されても納得してしまうような光景が広がっている。


暗黒物質(ダークマター)の集合体だ。どうやら暗躍することをやめたらしい」


 落ち着き払った声で奏が言う。

 今のところはただ浮かんでいるだけのようだが、未知の物体が首都上空に存在するだけで人々は不安な気持ちになるだろう。

 攻撃を仕掛けてくる可能性も高いし、排除するにこしたことはないとオレは考えていた。


「あんなもの存在すること自体ダメだろ。なんとかしないと」


 オレが氷駕を見やると、既にやる気満々の様子で拳に冷気を集めていた。

 氷駕も宙に浮かぶ暗黒物質に脅威を感じているようだ。


「少しは冷静になりなよ。これではあまりにわかりやすいだろ? この怪物は僕達を誘い出すための囮ってとこだろうね」


「ならば、本来の目的があるとでも?」


「恐らくそうだろうね。18番(氷駕)、キミは何か異常がないか地上を見て回って欲しい。あの怪物は10番(オレ)と僕が片付ける。いいね?」


 さも当然のように奏が言い切る。

 しかしオレは不安に思っていた。

 テレビに映っているのは天を覆わんばかりの巨獣。

 足元には人類がいる。

 被害を出さずに倒しきれる保証もないのだ。

 

「待ってくれ、オレたち二人でなんとかなるものなのか? 映画に出てくるような大怪獣みたいなあのデカブツを!?」


「落ち着け、11番(カナタ)は11から20番が所属する俺達同属帯を束ねる長だ。実力は最強クラス。当然銀河崩壊級の力を持っている。暗黒物質(ダークマター)ごときに遅れはとらん」


 氷駕は淡々と奏について説明した。

 エニグマになったばかりのオレとは違い、宇宙が誕生するよりも前から11番と付き合いがある氷駕の言葉は真実であろう。

 判断材料としては十分すぎる。オレは納得することにした。


「お褒めに預かりどうも。どうだい10番(オレ)くん。安心したかな? 僕とやれば全てがうまくいく。約束しよう」


「ああ。わかった。地球を守るために力を貸してくれ」


「言わずもがなってね。さ、怪獣退治といきますか」


 暗黒物質の討伐に向かうため、全員が店を飛び出した。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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