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女子高生の大ピンチ。宇宙から来た運命の人。

主役は遅れて。


「はぁ、退屈だなぁ。これじゃあ10番街に残ってたほうが良かったかも……」

 

 机に突っ伏している美唯子が気怠げに呟いた。

 渋川連魏志(シブカワレンギシ)工業高校の転入生、姫乃 弥呼(ヒメノ ミコ)として一年A組に籍を置くようになったまでは良かったが、平凡な毎日の繰り返しに美唯子はうんざりしていた。

 持ち前の明るさとコミュ力の高さからクラスにもすぐに馴染み、気の合う友人もできた。

 だが異世界に拉致され刺激的な毎日を送っていた美唯子にとって、再び訪れた平和な日々は苦痛でしかなかったようだ。


「ミコ、おはよ」


「おはお〜」


 前の席に座る友人の望月 妃里(モチヅキ ユリ)に声をかけられた美唯子は気の抜けるような挨拶を返した。

 始業のチャイムが鳴るまでの数分間、雑談をするのが二人の日課

だった。


「ゆり〜昨日はなんかあった〜?」


「急にバイトがなくなって暇してた。中学の時の同級生の男子から連絡がしつこくってさー」


「えー? 相手したげればよかったのに。暇だったんでしょー」


「いや、ないわー。なんか雰囲気イケメンだから話してみたら思ってたのとチガったし〜。連絡してくる頻度エグいしさー。やたらベタベタしてくるし自分の事しか考えてないの。ヤバくない? やっぱ付き合うなら年上がいいかなーって本気で思った」


 妃里の意見に美唯子はうんうんと首を縦に振る。


「あー。それはわかるなぁ。頼りになるし、真剣に私のこと叱ってくれるんだよ。あの余裕は同級生じゃ無理だなーって思ったぁ」


「そのいい方……え? ちょ、ミコ彼氏いるの? しかも年上で? 紹介してよ!」


「えー、普通に恥ずかしいからなぁ……」


 待ち受け画面を見られたらマズいと感じたのか、美唯子が机の上に置いた携帯をしまおうとするのを見た妃里が疾風のような速度で掠め取る。


「隙あり! 前々から携帯が怪しいと……えっ? ヤバくない? やばいヤバい! マジイケメンじゃん。欠点が見つけられないのがクヤしぃ〜。20代前半くらいだよね? 何してる人?」


 美唯子の携帯の待ち受け画面にされていた黒髪の青年を見た妃里が嵐のような質問攻めを開始する。

 このモードになった妃里はヤバいと美唯子は焦っていた。

 自分が納得いくまで延々と質問を繰り返す妃里の悪癖を今までの付き合いから知っていた。

 

「えっと、神様……じゃなくて、正義の味方でもないし、叛逆者……はもっと違うよね。エニグマ? どうしよう説明するのがすごく難しい……ペル様、地球にいた頃は何してたんだろぅ……」


「静かにしなさい。授業を始めるぞ。携帯しまわないなら没収するからな」


 いつの間にか教壇に立っていた教師の一言に美唯子は救われた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 放課後。

 美唯子と妃里は学校を出て帰宅の途につく。

 何事も起きない平和な日常。

 本当に暗黒物質(ダークマター)によって地球を滅ぼされるのだろうかと美唯子は半信半疑になっていた。


「おい姫乃。ツラ貸せや」


 美唯子達の前に立ち塞がるのは同じ学校の制服を着た男子の二人組。

 髪を染めピアスを耳に付け、イカつい風貌をしており、道行く人は男二人を避けるようにして歩いていた。


「ゲッ! サイアクなのが来た!」


 妃里が嫌悪感丸出しの顔で二人組を見ている。


「ゆりの知ってる人?」


「タクヤとハルヤ。有名な不良だよ。昨日も喫茶店で大暴れしたみたい。女子供関係なしに手を出す生粋の悪ってやつだね」


 氷駕にボコられたチンピラ二人組であった。

 美唯子に対して難癖をつけようとしているのを見るに、まるで懲りていないらしい。


「お前の兄貴にボコられた借りを返しに来たぜ」


 タクヤが指の関節を鳴らしながら美唯子を威嚇している。

 美唯子自身はなんとも思っていないのか、特に反応を示していない。


「ミコ、どうしようか、叫んでみる?」


「大丈夫、私もそれなりに強いから。それで? なんの用?」


「お前を拉致って痛めつけて兄貴を誘い出して殺す」

 

 脅迫まがいの発言を平然と言い切るタクヤ。 

 子分であろうハルヤはそれを聞いてニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。


「はぁ? どーせ自業自得なんでしょ。アンタ達、女相手に強がって恥ずかしくないの? 私達、帰るから。いこ、ゆり」


「そうはいかねえ。大人しくしねぇとお友達も怪我するぜ」


 ナイフを取り出しながらタクヤが笑う。

 

「素直になった方がいいぜ。タクちゃんキレるとマジで刺すからな!」


 碌でもない男達に絡まれたものだと美唯子は呆れて嘆息をした。


「アンタ達、いい加減にしなさいよね。仕方ない、戦うかぁ……」


 友人の妃里を守るため、美唯子は戦うことを決意した。


「えーと、戦闘訓練を思い出して、レオナルドが言ってたのは……新人類が使える基本魔法の、エアロ、ぶれいど、だっけ? ──わっ!」


 美唯子が突き出した右手が翠色の煌めきを放ち、直後に真空波が飛び出した。

 勢い余って見当違いの方向に真空波は飛んでいき、真空の刃が電信柱を真っ二つに引き裂いた。

 

「なっ、なんだコイツ!」


「タクちゃんコイツら、やっぱ兄妹揃って魔法使いなんすよ。このままじゃ、やばいっすよ。完全に化け物っす」


 タクヤとハルヤが驚愕の表情を浮かべている。

 女子高生が電信柱を切り裂いたのだから驚くのも無理はない。


「うるせぇ! ごちゃごちゃ抜かすな! さすがにツレまでは化け物じゃないだろ。やれハル!」


 タクヤに支持されたハルヤがナイフを取り出し、妃里の背後に回り込む。

 妃里の首筋にナイフを当てがい、卑下た笑いを見せる。


「ミコ、ごめん」


 妃里が美唯子に謝罪する。

 友人を人質に取られては下手に動けない。

 美唯子は焦りの表情で何か策はないか周囲を見回す。


「タクちゃん、この転入生、よくみると大分イケテないすか」


「ああ。そうだな」


「色々やっちまいましょうか」


「そうだな。少しは気が晴れるだろうしな」


「ウィッひっひひ! タクちゃんさすが! 話がわかるぅ!」


 カッ! ドゴロゴゴロォォ──

 

 夕焼け空に突如、雷鳴が轟いた。

 

 空全体が重低音の唸りをあげ、雷が大地に降り注ぐ。


「なんだこれ、急に台風でも──ギェバァッ!」


 雷が()()()()降ってきた。


 ハルヤの体に電撃が直撃し、バタリと地面に倒れる。

 ハルヤの身体は陸に上がった魚のような勢いで痙攣していた。

 

 ……コツコツコツ。


 雷鳴轟く夕闇の世界。何者かが近づいてくる足音がする。


「テメェ、今度はなんだ! 邪魔すんなら殺っ……ウォォッ!」


 タクヤの身体が天高く()()()()()。両手足をバタバタと振って見苦しく羽ばたくも、何の意味もない。


 ズガシィィィン!!!


 タクヤは顔面からアスファルトに落下した。


「遅くなってすまない。準備に色々手間取った。助けに来たぞ」


 夕日を背に男は立っていた。

 美唯子の表情が一瞬で明るくなる。

 ずっと待ち焦がれていた運命の男性(ヒト)がそこに立っていた。


「ペ、ルさま? ペル様! ペル様ァァー!!!」


 美唯子が走り出しオレに飛びつく。

 余程嬉しかったのか目に涙まで浮かべている。


「あー。ありゃ確かにカッコいいわ。映画のヒーローみたいだもん」


 妃里が二人の様子を遠巻きに眺めながら言う。


「クソがよおおぉォッ! どいつもこいつもくだらねぇマジック使いやがって! ここは御伽話の世界か? 違うだろ! 現実なんだよ!」


 地面に寝ていたタクヤが起き上がり雄叫びをあげる。

 ナイフを手にとり大地を駆ける。

 オレは身を翻して突進を躱しタクヤの首筋に手刀を叩き込んだ。


「グァッ! はええ、人間の動きじゃねぇ……」


 地面に膝をついたタクヤが立ち上がろうとしたところへ、オレはハイキックで顎先を蹴り上げた。

 蹴り飛ばされたタクヤは地面を数回バウンドしてから倒れ込む。


「まだだ、グォなんだこれは、世界が揺れてらぁ、覚えと……け」


 一度は起き上がり、戦う意志を見せようとしていたが、顎から伝わった衝撃が脳まで揺さぶったためか、膝をガクガクと振るわせた後、タクヤは両手を広げて地面に倒れた。


「ミコ、ごめんな。怖い思いをさせたな」


「いいえ! ペル様が助けてくれるって信じてたから! ん〜♪」

 

 美唯子はオレの胸に顔を埋めて、満足そうに微笑んでいた。


「想像以上にバカップルだ。私もあんな年上彼氏ほしいなぁ……」


 二人を見守っていた妃里が小さく呟いていた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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