神乃紀高等学校・生徒集団失踪事件。よくわかっています・氷駕も美唯子も人間になりました。
──太陽系第三惑星地球。
氷駕と美唯子は情報収集のために国立図書館にやって来ていた。
暗黒物質が地球を攻め滅ぼす未来は確定しているが、一体いつ、どのような方法で攻撃を仕掛けてくるかまでは把握できていない。
少しでも情報を得られたらと藁にも縋るような思いではあったが、何もしないよりはマシだと言えた。
氷駕は図書館内、新聞資料室で膨大な情報量の中から必死に答えを探そうと努力している。
美唯子はその隣で椅子に座りウツラウツラと船を漕いでいた。
呑気なものである。
「独裁国家実験失敗、宇宙から来た鬼の謎。奇病、黒血ウィルスの恐怖。ゴシップばかりだな。役に立たん。待てよ、これは……」
第77056号 蒼蝶新聞 4月16日。
現代に蘇る神隠し!? 卒業式で生徒が消えた!!
日本でも有数の進学校である神乃紀高等学校。
その卒業式に生徒が集団失踪するという怪事件が起きてから一ヶ月あまりが経過した。
消えた学生の人数は30余名。
マスコミも大々的に事件を取り上げ、日本各地で話題となったことは記憶に新しい。今回は事件の詳細について振り返る。
新聞記者の取材に応じた事件の目撃者はこう語る。
教員、父兄が見守る中、滞りなく式は進行。
午前10時21分。式場に霧が発生。
同22分。生徒の消失を確認。
当初は神隠し、国外逃亡、政府陰謀論など様々な憶測が飛び交うも、物証が乏しく、目撃者による証言の信憑性も低かったことから捜査は難航。
警察も異例の早さで捜索を断念。バッシングの的となる。
事件の続報が報じられなくなると、世間の関心は徐々に薄まっていき現在に至る。
こうして神乃紀高等学校・生徒集団失踪事件は未解決事件の仲間入りを果たした。
筆者も子を持つ一人の親として不明生徒達の無事を祈るばかりである。
「どうやらレオナルドのせいで日本中が大騒ぎしていたらしいな。……起きろバカ女」
言いながら氷駕が美唯子の首筋に冷気を飛ばした。
「ヒエェェェ! つめたぁ〜い!? 何をするんですか! せっかくペル様が夢に出てきてくれてたのに〜ッ! バカ!」
清々しいほどの逆ギレである。
美唯子は不機嫌な顔をして携帯の待ち受け画面を眺め始めた。
「は〜。ペル様ぁ〜。早く私を迎えに来てぇ〜」
「お前はそれしか言えんのか。やることがないなら両親に顔を見せてやってこい。心配しているだろうからな」
「ウーン。それはダメですねー。クラスの皆んなが異世界にいるままなのに、私だけのうのうと家に帰るのちょっと違うかなーって思うし」
いつになく真剣な口調で美唯子が言う。
口を開けばペル様ペル様としか言わない美唯子の意外なギャップに氷駕は驚いた。
「そうか。仲間思いなのはいいことだ」
「それよりさっきの地球くんはなんだったんですかー」
「さあな。僕に任せてとだけ言って煙のように消えちまった。人間じゃないのは確かだが目的も正体もまるでわからん」
「う〜。ペル様に会いたいー!! あっ! 暗黒のルンバで帰れないのかな!」
「暗黒の運河だ! ふざけた名前に改名するな。試してみたが不可能だった。5番の力で地球は宇宙から完全に切り離されているらしい。これでは転移どころか脱出もできん。籠の中の鳥だ」
「でもこのままじゃマズイですよねー。お金もないし行き場所もないし。ペル様さえいてくれたら一文無しでも構わないけど……あーん! ペル様ぁ〜!」
「ペル様ペル様とうるさいやつだ。九官鳥かお前は。アイツの何に惚れたのか理解できん。どこにでもいる普通の男だろうが」
「テレビに出てるモデルさんよりイケメンでー、優しくてー、時々ちょっと可愛い。私の運命の人……にゃはぁ……」
蕩けた顔で美唯子が言う。
氷駕は心の底からムカついていた。
「お前が敵だったらこの場で凍りつかせてやれるのにな」
エニグマと新人類が無駄話をしていると、二人の前を一陣の風が吹き抜ける。
煙のように消えたはずの少年が、今度は風のように現れた。
「よくわかっています。貴方は働く。貴女は学校です。敵もわかりました。地球を守って」
少年は謎の言葉を残して姿を消した。
「あっ! 地球くん! また消えちゃった」
少年が去った後には書類の束と数枚のカードが落ちていた。
氷駕が書類を拾い上げ中身を確認する。
戸籍謄本、運転免許証、健康保険証、マンションの権利証等、人間として生活していくために必要なものが一通り揃えられていた。
「氷蜜茶房の社員証。日本人の氷駕 雪翔。俺に人間ごっこをしろってのか! ふざけろよ!」
「私のは学生証だ。姫乃 弥呼。ありゃ! 一学年になってるし。サバよまなきゃだなぁ……」
エニグマと新人類は普通の人間としての生活を余儀なくされた。
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