美唯子とアレと女の友情。地球へいらっしゃい。
どれだけの時間が経過したか。
アレスティラと美唯子はいまだに口論を続けている。
よくもまあ次から次へと際限なく口から言葉が生まれるものだと氷駕は静観しながら感心していた。
「ええい、埒が明かん。聞け5番よ」
意を決して氷駕が叫んだ。
女性二人の視線が突き刺さる。
殺気増し増しの射抜くような視線。
思わず後退りでもしたくなるような状況だが、氷駕は踏みとどまって前を向く。
「地球が暗黒物質に攻撃されて消滅する。お前が愛するオレの故郷だぞ。消されてもいいのか」
アレスティラとまともに会話するにはオレの名前を口にするしかないと氷駕は考えていた。
そうでもしなければまた一喝されて即終了だろう。
目論見通り効果は覿面で、アレスティラがようやく話を聞く姿勢を見せる。
『暗黒物質に? 有り得ませんね。少なくともワタシが管理している限りはそのような事は実現させませんから』
アレスティラの発言を聞いた氷駕は確信する。
地球の行方をアレスティラは知っている。
後は情報を引き出すだけでいい。
エニグマである限り絶対に拒絶できない魔法の言葉。
必殺の一撃をアレスティラに叩きつける。
「地球が消されると忠告してきたのは1番だぞ。それでも有り得ないと言い切れるのか」
『1番が? ……先程の発言は撤回します。それならばきっと地球は消滅するのでしょう。完全にワタシの力不足、残念です』
やはり1番の存在はエニグマにとって絶対のようだった。
あまりにもあっけなくアレスティラが折れる。
「諦める必要はない。俺達を地球へ連れていけ。暗黒物質を倒して地球が消滅しない未来を見せてやる」
氷駕の言葉を聞いたアレスティラは小さくため息をついた。
顔には負け犬でも見るような侮蔑の表情。
『それこそ有り得ませんね。1番が口に出した事を翻すのは不可能です。貴方もよく理解しているでしょう』
「確かに昔の俺なら諦めていただろう。だが最近馬鹿と付き合うようになって俺にもバカが伝染った。今では俺達だって努力すれば不可能を可能にできると思っている。──俺は絶対に諦めないってな」
氷駕が言い切ると今まで氷のように冷たかったアレスティラの表情に僅かばかりに色がついた。
『……オレ。貴方はやはりすごい人。ワタシ達でさえ変えてしまう。心から愛しています』
アレスティラが俯きながら独り言を呟いている。
美唯子はアレスティラの異変に気がついていた。
氷駕に助け舟をだすために、地球へ向かうためにも、美唯子は口を開く。
「アレスティラさん!」
『なんですか陽神美唯子』
「私、アナタを許します」
『はい?』
「本気でケンカして、嫌な思いもしたけど、アナタが真剣にペル様のことを考えてるのが伝わってきた。だから、同じ男性を想う女として、アナタの事、嫌いになれない」
『貴女は一体何を……』
「よければ仲直りして、一緒に10番街に行こうよ! ペル様の寝顔、とっても可愛いから! 絶対にペル様も貴女を待ってるよ?」
『それは出来ません。ワタシだってオレに会いたい。彼と離れているだけで毎日不安で潰れそうになる。でもワタシにはやるべき事があるんです。だから、今は自分を殺します』
「そっか。強いんだね。私には真似できないな」
先程までの険悪な空気が嘘のように、和やかな雰囲気の中、美唯子とアレスティラは見つめ合っている。
『美唯子、ごめんなさい。一方的に敵視して強い言葉をぶつけて。ワタシが愚かでした』
「んーん。何も気にしてないよ。私達ライバルだけど、もう友達だから。ちょーっと、ライバルが多すぎるんだけどねぇ……」
美唯子が笑うと、アレスティラも微笑みを返す。
『不思議な娘。アナタからもオレと似た雰囲気を感じます……』
アレスティラの右手に光が集まる。
氷駕は警戒するが、美唯子は冷静だった。
『18番。地球に行きたいのでしょう。──許可します』
「これはまた随分と急な心変わりだな。仲間を連れてくるから少し待ってくれ」
『それはできません。ワタシには時間がないのです。美唯子はどうですか?』
「全っ然、問題なし! ありがとね、アレ!」
『──どうかご武運を』
アレスティラが右手に集めた光を解放する。
光を浴びた氷駕と美唯子の姿が足元から徐々に消えて行く。
二人の姿が宇宙空間から完全に消失するのを確認すると、5番と呼ばれた少女はアイマスクを取り出して顔に装着し、第三惑星に向かって帰っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
気がつけば氷駕と美唯子は都会の喧騒の中に放り出されていた。
美唯子はまだ意識が完全に覚醒していないのか、ふらつく足取りで歩き、人波の中に飲まれていく。
氷駕は人間を掻き分けながら進み、フラフラと歩いている美唯子の腕を掴む。
「おい、しっかりしろ、ここは地球で合っているのか、おいっ!」
「うーん? わっ! 懐かしいなぁ、都心の中心だよここ! 完全に地球だー! 地球よ、私は帰ってキター!!」
美唯子が大声を出すと道行く人の視線が一斉に集まる。
好奇の目に晒された氷駕は恥ずかしく思っていた。
「黙れ、人目に付く。移動するぞ」
雑踏を抜け、人気のない路地裏にたどり着いた二人は一息ついていた。
「お前、また一人味方を増やしたな」
「アレさんのこと? そんなつもりないよ。ケンカしたら仲直りするって、普通の事じゃない?」
「普通ね。その普通ってのが難しいんだがな。末恐ろしい女だぜ」
美唯子のコミュニケーション能力の高さに氷駕は感服していた。
エニグマは基本的に群れる事を嫌う。
それに加えて10番より上のメンバーは宇宙的規模の思考をしているため、並の頭脳では何を考えているのか推測すらできない。
だというのに美唯子は1番に続き5番までも虜にした。
少しずつではあるが美唯子に対する氷駕の評価は変わってきていた。
「それで、これからどうするの?」
「わからん。暗黒物質がいつ攻めてくるかも不明だし、何よりも問題なのは俺とお前、二人しか戦力がいないことだ。地球の防衛力はどうなっている」
氷駕に問われて美唯子は考える。
しかしただの女子高生には荷が重い質問であったようだ。
「えっと、一応は軍隊がいるけど、頼りないかなあ。映画とかだと怪獣にいつも負けてるし。アニメだと強いんだけどね、日本人」
まるで役に立たない情報。
氷駕は舌打ちしそうになるが、先程評価したばかりなのを思い出し、堪えることにした。
「ならば頼みの綱は1番か。能力を使え」
「ダメー。私の能力は一日一回しか使えないから。あ〜、ペル様に会いたいなぁ……」
そう言って美唯子は携帯を取り出し、ペル様成分を補充するために今までに撮影した写真を眺め始めた。
氷駕は遠慮なく舌打ちした。
「クソッタレが、お先真っ暗だぜ。何か手を打たねば地球が消されちまう」
──ようこそ地球へエニグマさん……。
不意に声をかけられて二人が同時に振り返る。
エニグマの存在を知っているということは少なくとも人類ではないと判断し、いつでも戦闘ができるように氷駕は凍気を身に纏う。
「男の子?」
美唯子が小首を傾げている。
二人に話しかけてきたのは中学生くらいの年齢だと見受けられる少年だった。
「お前、誰だ。俺のことを知っているなら人類ではないな」
氷駕の問いに少年は優しく微笑む。
「よくわかりました。僕は地球です」
少年の理解不能な発言に氷駕も美唯子も呆然としていた。
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