美唯子vsアレスティラ・愛を賭けた女の闘い(ただの口喧嘩)。10兆度の炎でも脅しにすらならない世界。
愛。
「お早いお帰りですね。何か問題でも?」
「地球が存在しないのだ。宇宙のどこにもな」
地球を救うために飛び出したというのに、地球が見つからない。
異常事態に氷駕は頭を抱える。
念の為に地球周辺を捜索もしたが、破壊されたような痕跡もなかった。
「でも私達、レオナルドに異世界に連れてこられるまでは地球で普通に暮らしてたよ? 変な事件もなかったし、平和そのもの」
美唯子の発言で謎が深まる。
氷駕はまるで狐にでもつままれたような気分になっていた。
「そうか。ならば消滅ではなく隠匿されているかだな」
「……一つだけ、心当たりがあります」
神妙な顔でサラが言う。
「なんだ、何か知っているのか」
「オレさんです。彼が我々と同じになるキッカケを作った人物、全ての元凶をご存じですか」
氷駕は黙ったまま首を横に振る。
そろそろ付き合いも長くなってきていた二人だが、昔話などはしたことがなかった。
「オレさんから聞きました。アレスティラ、つまりは5番との出会いが全ての始まりだったと。オレさんを世界から切り離し、何かの目的のために地球を隠してしまった。私はそう推測しています」
「なるほどな。つまりオレではなく地球を丸ごと隔離したということか。ならば5番に会えば全てがわかるわけだ」
「恐らくはそうだと思います。ですが居場所がわかりません」
サラは暗い表情で俯いてしまう。
だが氷駕には事態を解決するための妙案があった。
「いや、わかるぞ。我々には宇宙最強の味方がいるのだからな」
氷駕が指を差したのは美唯子。
美唯子はまさか自分が指されるとは思ってもなかったのか、驚きの表情を見せている。
「えっ!? 私?」
美唯子というよりは彼女と通じている1番のことを指しているのだろうが、この場合どちらでも同じである。
「いいから早く1番に尋ねるんだ、5番の居場所をな。無礼のないようにしろよ? できるだけ丁寧にお聞きするんだぞ」
1番はエニグマの中でも頂点に立つ究極の存在。
さすがの氷駕も慎重にならざるを得なかったようだ。
「もうー! 注文が多いな〜。わかりました、聞きますよー」
美唯子が能力を発動し、天命を受ける。
「えっと、第三惑星にいるみたいですけど?」
美唯子による予言は意外なものであった。
第三惑星にはつい先日まで氷駕もいたはずだが、17番以外のエニグマの気配は感じていなかった。
「なんだと!? するとまた蜻蛉返りか。仕方ない。5番を探して話してくる」
「一人で大丈夫ですか? 相手は格上です。下手をすれば消されてしまいます。誰か一人でも連れて行くべきだと思いますが」
氷駕の身を案じたサラが忠告すると、美唯子がビッと手を上げる。
「だったら私がついていってあげますよー! なんたって宇宙最強だし!」
「ああ、そうだな。今回ばかりは頼もしく思うぞ。よし、行くか」
氷駕と美唯子は暗黒の運河を通って第三惑星へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「今から宇宙空間にでるぞ。新人類は呼吸はどうなる」
氷駕が尋ねると美唯子はスカートのポケットからガラス製の美麗な仮面を取り出した。
「レオナルドから支給された仮面だよ。これを付ければ宇宙空間でも活動できるし、他にも色々便利機能があって……」
「よしわかった。ならばすぐに付けろ。時間が惜しい」
美唯子の言葉を遮り、仮面を装着するのを確認してから、氷駕は暗黒の運河を解除する。
二人が飛び出した場所は宇宙空間のど真ん中。
目の前には第三惑星。
目標地点にピタリと辿り着いていた。
「あっ、あれ……人?」
美唯子が指差す先には二人を待ち構えるようにして少女が一人佇んでいた。
流れるような艶のある金髪、銀河を照らす紅い瞳。
端正な顔立ちにしなやかな肢体。
氷駕は少女の正体を知っていた。
「5番だな。俺のことは覚えているか」
『覚えています。ワタシに何のようですか18番』
「わっ! すっごく可愛い! こんな綺麗な女の子、初めて見た〜。……ん? あれ? もしかしてジャンヌさん?」
美唯子がクラスメイトの名をあげる。
すると少女は諦めたように苦笑する。
『やはりわかってしまいますか。さすがですね陽神美唯子。ワタシは5番。アレスティラ。覚えなくても結構です』
「ほぉ。どうやら人類の真似事をしているらしいな。その惑星に大切なものでもあるらしい」
『だとしたらなんなのです。不躾な態度は粛清しますよ』
「オレとの関係を洗いざらい話せ。そして地球をどこにやったかもな」
『貴方に話す必要がありません。今すぐに立ち去りなさい。目障りです』
アレスティラが苛立ちを隠さずに言うと氷駕は鼻で笑う。
そして指先に炎を出して5番を睥睨する。
「ここら一帯は全てレオナルドの軍事惑星だな。お前が口を割らないのなら、今から俺は10兆度の炎を放つ。これでも大分手加減しているが、この恒星系くらいならまるごと全てを蒸発させられる」
氷駕の脅しを受けてもアレスティラは平然としていた。
それどころか逆に氷駕を睨み返し冷笑する。
『──ふふ。やってみなさい。ワタシはそれよりも前に貴方の存在ごと消し去ります。あまりワタシを見くびらないことですね』
ハッタリでもなんでもないと氷駕は理解していた。
5番が本気を出せば18番など一瞬で塵にされるだろう。
だがここで引くわけにはいかなかった。
「どうしてペル様を巻き込んだの? ねぇ、友達だよね、答えてよ!」
氷駕が思案していると横から美唯子が口を出す。
『陽神美唯子。ワタシは貴女を友として認識したことは一度もありません。ですが答えてあげましょう。ワタシは彼を愛しています。オレはワタシだけのモノ。彼もワタシを愛していますから』
「へっ、へー。そっ、そうなんだ。でも残念。彼の運命の人は私です! 私だってペル様を本気で、あ、愛してるんだからぁっ!」
今まで愛や恋など口に出して言ったことがないのであろう。
美唯子は顔を真っ赤にしながら、つかえながらも自分の気持ちを真っ直ぐに言葉にして出していた。
『何も知らないで可哀想な娘。貴女では彼の相手は務まりませんよ。一度でも彼が貴方に振り向いたことがありますか? ワタシは抱きしめられました。愛を囁かれました。貴女はどうですか?』
「うぬぬ……これからだもん。全部これからだもん!」
『貴女に一方的に付き纏われて、さぞ迷惑しているでしょうね。
可哀想なワタシのオレ。離れていても愛だけは変わりません。
彼は今もワタシだけを想っています。ワタシが今頑張っているのも全て彼のため。
貴女のような陳腐な愛とは違うのです。ワタシはこの世の全てに憎まれたとしても目的を達成してみせます。
全てはオレだけのため。彼のためならこの身も投げ出せます。彼はワタシの全てですから』
「うっわ! 気持ち悪い! 自分に酔ってる激重オンナ!
どうせアンタなんか催眠か吊り橋効果でペル様の心を弄んだだけでしょ!
私だって彼のために死ねるし! 何されたって構わないし!!
ペル様のことが世界で一番大スキだしィッ!!!」
女の闘いが過熱し、いつまでも終わりそうにない。
黙って見ていただけの氷駕だったが、さすがに止めることにした。
「何してんだよ、お前達。子供のケンカか」
『「男は黙ってて!」』
アレスティラと美唯子が同時に氷駕を怒鳴りつけた。
「あー。なんかこんなんばっかだな俺は。帰りてえ」
氷駕は本気で帰りたかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




