美唯子のコミュ力。宇宙の姫でも嫉妬する。
「落ち着け。レオナルドの策略だ。心が乱されているぞ」
「だったら証明してくれ。その仮面を外すだけでいい」
「……それは出来ない。俺は異世界に連れて来られる際に怪我をした。この仮面は生命維持装置を兼ねている。外すことはできない」
「なら魔法はどうなる。雷撃弾はオレの技だ」
「俺も雷属性なんだ。異世界にきて魔法なんて使い方も分からないところに、お前さんの資料映像を見て練習した。ただの見様見真似だよ」
考えてみればおかしな話である。
目の前にいる存在が自分自身だと錯覚する。
そんな事態は通常ならあり得ないだろう。
だがオレは追求をやめなかった。
「レオナルドがジャンヌのことをエニグマと言ったのも口から出まかせだ。証明しよう。陽神、入って来てくれ」
「はーい?」
鉄仮面に呼ばれて美唯子が保健室へと入ってくる。
状況が飲み込めていないようで首を傾げている。
「陽神。俺は誰だ?」
「生徒会長だよね。それがどうかしたの?」
「どうもしないさ。ではこちらの女性は」
鉄仮面がジャンヌを指差して問う。
「交換留学生のジャンヌさん。違う?」
「よし。正解だ。どうだ、少しは落ち着いてくれたか?」
第三者による存在の証明。
これで少しは疑惑の目が薄まると鉄仮面は考えた。
だがオレはまだ納得のいかない様子だった。
「美唯子さんとオレを離した理由は」
「陽神がお前さんについて行くと聞いたから、よろしく頼もうとしただけだ。そんなこと本人の前では恥ずかしくて言いたくないからな。……まだやり合うつもりなのか?
俺は敵であるお前さんを治療し、分かり合おうと誠意を見せているつもりだ。そんな俺がレオナルドより信頼ならないか?」
鉄仮面に強く言われてようやくオレの勢いが収まる。
一体なぜここまで執拗に盲信的に鉄仮面を追求したのか、オレ自身理解していないようだった。
「……すまない。疑って悪かった。頭が混乱してどうかしてたみたいだ。さっきは本気で感じたんだよ。アンタはオレだって」
「レオナルドに精神を揺さぶられて気が動転したんだろう。気にするな。疑いが晴れて俺としても気分がいい。それだけ元気ならもう自分の足で帰れるよな。これ以上、揉め事はごめんだ。お引き取り願おうか」
鉄仮面が扉を手で指し退室を促すも、オレはその場を動かない。
「待ってくれ。刹那と会うまでは帰るつもりはない」
「刹那? 仲間内にそのような名前の者はいないはずだが」
「レオナルドが伝説の勇者って紹介してた女性だ。オレの大切な仲間なんだよ。どうしても話したい事があるんだ」
「わざわざ乗り込んできた理由はそれか。そういうことなら俺も話がわからん男じゃない。お前さんの望みを叶えよう。彼女なら毎夜必ず屋上で星を眺めている。好きに会いに行けばいい」
「色々と迷惑をかけてすまなかった。刹那に会ったらすぐ帰るから」
オレが頭を下げて部屋を出ようとするのを今度は鉄仮面が引き止める。
「待て。お前は状況に流されすぎだ。自分の考えをしっかりと持って他者には決して呑まれるな。強い心で前だけを見ろ。いいな」
「……ああ。覚えておくよ。ありがとう」
感謝の言葉を述べてオレと美唯子は保健室を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
刹那がいるであろう屋上に向かって歩いている途中も、オレは先程の出来事を思い返していた。
全ての質問に論理的に返した鉄仮面。
まるで用意されていたかのようにスラスラと答えていた。
あそこまで淀みなく人は自身の潔白を証明できるものだろうか。
「あの、美唯子さん」
「ペル様。ミコって呼んで〜」
美唯子が満面の笑みで言う。
「…………ミコ」
「わぁ! すっごいキュンキュン来ましたー!」
多少の照れ臭さはあったが美唯子は心から喜んでいる様子見だったのでオレは良しとすることにした。
「生徒会長の名前、教えてくれるかな」
「はい! ……あれぇ? なんだっけ。おかしいなぁ……」
美唯子は懸命に考えるているようだが、中々鉄仮面の名前が出てこない。やはり何かがおかしかった。
「待てよ。クラスメイトの名前がわからないのか」
「いくらなんでもそこまで薄情じゃないですっ! でも名前、名前……名無しの権兵衛!」
「いい加減にしろ」
ツッコミのつもりでオレは美唯子の頭を軽くはたいた。
「いったぁーい! でもペル様、初めて素で接してくれましたね。あぁ……やっぱりカッコイイなぁ…」
美唯子がすかさず携帯を取り出しオレの横顔をバーストモードで撮影する。
同じ顔を何枚も撮影することに何の意味があるのかオレには理解出来なかった。
「無駄遣いするなよ。電池なくなるぞ」
「その時はペル様の電撃でズババッと充電お願いします!」
「いや、携帯ごとバッテリーが吹き飛ぶから。それは無理だろ」
「や〜ん! でも写真撮りたい〜!」
いつの間にかオレは美唯子に対して素で接していた。
基本的に女性に対しては敬語で対応することの多いオレにとって珍しいことである。
美唯子の異常なまでの接近力の強さの賜物だろう。
「ただいま」
二人の前に次元を引き裂き天からメアが降ってきた。
信長との戦闘を終えた直後だからか、疲れ気味の様子だった。
「メア。ありがとな助けてくれて」
「うわ! 綺麗な人ですねー! 外国の方ですか?」
オレの隣で美唯子がはしゃいでいる様子をメアは黙って観察していた。暗黒物質に嫉妬という感情が存在するのかわからないが、恐らくはそれに近い感情を抱いているのであろう。
長い期間、一心同体で過ごしていたからか、オレに対する独占欲のような意識が芽生えていた。
「ああ、この子は暗黒物質の娘で、オレの……」
「妻のメアです」
オレの言葉途中で食い気味にメアが被せる。
「えっ!?」
美唯子が硬直する。
「いや、そんなわけない。オレの体を貸してるだけで」
「つまりは肉体関係ってことですか……」
「意味が全然違うからやめてくれ」
またしてもオレと美唯子が仲良くしている様をメアは静かに見つめている。
「あれ? メアちは無口だね」
「メアち?」
「愛称だよ。嫌だった? 私のことはみぃかミコって呼んでね」
暗黒物質に対してもグイグイ近寄る美唯子のコミュ力の高さは、さすがであった。
「わかった。ミコ?」
「ああ。美少女に名前を呼ばれるのもキュンだなぁ。カワイイ……」
美唯子はメアを気に入った様子で、ペル様専用と言ってもいい携帯で珍しく別の被写体を激写している。
「メアは普段オレの身体の中から世界を見ている。外に出てるのは珍しいんだ」
「そんな、美人なのにもったいない! メアち! これからは一緒に外を歩こうよ。ね?」
「うっ、うん」
「あまり対人関係に慣れてないんだ。人見知りするらしい」
「ダメダメ! 絶対もったいないですよ! ね〜!」
「うっ、う〜」
美唯子がメアに頬擦りをしている。
エニグマ、暗黒物質、新人類が仲良くジャレあっている光景は感慨深いものがあった。
「メア、信長はどうなった」
「大丈夫。倒したよ。とりあえず、戻っていい?」
メアがオレとの同化を希望する。
「いや、しばらくミコと待っていてくれ。刹那とは二人で話したいんだ。人間として。多分、そうしなければダメだと思うから」
「そう。わかった」
同化することを拒まれたメアは子供のように拗ねてしまう。
その幼い行動にオレは思わず笑いそうになる。
「あっ、あの! 刹那さんはそんなに大切な人なんですか!」
「そうだな。オレを戦えるようにしてくれた師匠だし、助けたり助けられたりしたし、大切な仲間だよ」
「はぁ。そうですか。ライバル多いなぁ……シクシク」
美唯子が悲しみを表現していると、メアがツンツンと肩をつついた。
「ミコもオレが好き?」
「オレ? 俺? メアちは俺っ娘?」
「違う。この人、名前が思い出せないから、ずっとオレと名乗ってるみたい」
「それは大問題! 本名もきっとカッコイイんですよね。ウーンと……美唯子命名、ヴィクトリアスサンダー王子とか!」
「オレは日本人なのだが?」
「雷撃ピュンピュン丸」
「ダメだコイツら。人の名前でふざけ始めやがった」
三年後に迫る戦争のことなど忘れ、今この瞬間だけは微笑ましい光景が続いていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




