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鉄仮面の秘密。不可能殺しの正体は。


「随分派手に暴れたな。死にかけてるのに無茶しなさんな」


 目が覚めると目の前に鉄仮面を被った男が立っていた。

 心地のよい目覚めとは言えない。

 オレは鉄仮面の男に見覚えがあった。

 10番街に信長を迎えにきた新人類の集団の中でリーダー格のように振る舞っていた男だった。

 何かにつけてオレを気遣い、同情するような言葉を投げかけてきたのをしっかりと記憶していた。


「やれやれ。()()()願うって言っただろう。言葉の真意も読み取れず、自分の感情に流されて敵地にまで乗り込んでくるかね。

自制が効かないガキじゃあるまいし、それでも一つの惑星を任された神かよ。おかげで無駄な死人が何人も出ちまった。

 今回の一件、言っちゃ悪いがお前さんの非が大きいぞ?」


 正論すぎて返す言葉が見つからず、鉄仮面を見つめたままオレは黙っていた。

 確かにオレが乗り込んでこなければ信長の覚醒もなかっただろう。無駄な犠牲も出なかったかも知れない。

 しかし新人類側がカズキを拉致し死に至らしめたのもまた事実である。もしかするとそれも含めてレオナルドの策略なのかも知れないが、どちらにしても両者共に非がないとは言えない状況。

 それは鉄仮面も理解しているらしく、互いが納得する妥協案を思案しているようだった。


「レオナルドとの協定についての詳細は知らないが、お前さんの仲間のエニグマが死に、こちらも相応の被害を被った。今回は痛み分けってことで手打ちにするのが得策じゃないか」


 相手側から折れてきている以上、納得するしかない状況だが、オレにはどうして聞かなければならないことがあった。

 

「17番を傷つけた理由はなんだ。なぜあんな酷いことができる。人の心を無くしたのかよ」


 カズキの体には痛めつけられた痕跡が残っていた。

 故意でなければ成立しないほどにである。

 如何なる理由があろうとも人として見過ごせない行為だった。


「……言い訳をするつもりはないが、そのことについて俺は何も知らなかった。もし、無抵抗のものを虐げているような事実を知っていたら、俺もジャンヌも必死で止めただろう」


 鉄仮面の声音は真剣で心から悔いている感が伝わる。

 人とエニグマの狭間でオレの心は揺れていた。


「突然異世界に連れてこられ、皆が参っている状態だ。怖かったんだと思う。人は決して強くはない。ときには悪だとわかっていても踏み切らなければならない状況もある。俺からも謝る。許してやってくれないか」


「カズキさんの帰りを待っている人がいるんだ。許す許さないの話じゃないだろう」


「気持ちはわかるが、俺としても最大限譲歩はした。死人は生き返らない。この世界の掟だ。これ以上は水掛け論になるだけだ。理解してくれ」


 オレも鉄仮面も押し黙る。

 互いの主張には筋が通っていて、結論を出すには難しい状況。

 直接的な加害者でもない鉄仮面にこれ以上反論することもできない。

 オレはやり場のない怒りを抱えたまま沈黙を続ける。


「そうそう。人類みな兄弟って言うだろう? 仲良くしなさい」


 場の空気をぶち壊すような、おちゃらけた声が響いた。

 どこまでも人を小馬鹿にしたような言い草。こんなことを平然と口に出せるのは宇宙広しと言えど一人しかいないだろう。

 

「悪いね。君にあげるはずだった赫奕姫(かぐやひめ)には逃げられた。代わりと言ってはなんだが、君の質問に答えてあげよう。何でもいいよ。聞いてくれ」


 レオナルド・オムニ・エンド。

 新人類を生み出し争いを引き起こした全ての元凶と言っていい男。

 何度対峙しても人を不快な気分にさせる男。


「お前の言うことは信用できない。お前は宇宙一のペテン師だよ」


 オレは心からの言葉を言い放った。

 どんな暴言をぶつけようともレオナルドは気にも留めないだろうが、言わずにはいられなかった。


「そう言うなよ。確かに私は嘘つきだが約束は守るんだ。さぁ、何でも聞いてごらん。せっかくのチャンスだぞ?」

 

「……不可能殺しは何者だ」


 オレが半ば投げやりに質問を投げかける。

 するとレオナルドはニンマリと微笑んだ。


「なんだそんなことか。君は賢いからとっくに気づいていたと思っていたよ。不可能殺しは6番だ。君達がソレと呼んでいたね。今は暗黒物質(ダークマター)の大将を気取っているよ。困ったガキだよな」


 驚くほど簡単にアッサリと、レオナルドは答えを口にした。


「そんな……嘘だ。そんなはずがない……」


「信じられないか? だが事実だ。()()()()も君が本気でエニグマの正体を尋ねていたら、私は答えていたのにな。実に残念だよ」


 レオナルドの言葉など耳に入っていない。

 オレは受け入れ難い事実に困惑している。

 タチの悪い冗談だと思い込みたいが、こんな時に限ってレオナルドの言葉に信憑性を感じてしまう。

 点と点が繋がっていく。


 少年のような少女のような。

 無邪気で純粋。

 黒塗りの光。

 闇。


「違う! そんなはずはない……だとしたら光とはなんだ」


「おっと、これ以上は私に答える義理はない。約束は果たしたのだから。そうね、一言付け加えるとするならば、元に戻った。過去の記憶を辿ってごらん? ヒントくらいは見つかるだろう」


 一度に色々な事が頭に浮かび、記憶の海に溺れてしまう。

 オレは混乱していた。

 周囲をぐるりと見渡すが答えなど転がっているはずもない。


「私は今から挨拶にいくつもりだが、なんなら一緒にくるかい? それで白黒ハッキリするだろう。そのままでは君は壊れるよ」


「遠慮する。今すぐに目の前から消えてくれ」


 レオナルドの声がノイズのように頭に響く。

 オレは必死になって雑音を振り払う。


「ツレナイナァ。おっと、それともう一つ。君は誰だい?」


 レオナルドが質問した相手は鉄仮面だった。


「…………」


 鉄仮面は沈黙を貫いている。


「私は全てを知っている。この仮面の中身もね?」


 ジリジリと追い詰めるようにレオナルドが鉄仮面に迫る。


「──雷撃弾(サンダーベイン)ッ!」


 鉄仮面が()()()を繰り出した。

 突然の出来事にオレは驚愕する。

 雷の性質、発射時の所作、全てに見覚えがある。まるで自分自身を鏡で見ているような感覚であった。

 

 レオナルドは片手で紫電を払いのけ、鉄仮面の耳元で囁く。


「落ち着けよ。争う気はない。()()()……」


 レオナルドが保健室の中をツカツカと歩き、今度はジャンヌの前で足を止める。


「それと、君もだね。私は君達を連れてきた覚えはない。一体いつ紛れ込んだのかなぁ?」


 今まで直立不動だったジャンヌが身構える。

 金髪の少女は明らかに動揺していた。


「ニオウ、臭うなぁ。そう、この匂いは、エニグマァ!」


 大袈裟な身振り手振りでレオナルドが告げると、ジャンヌは条件反射のような勢いで後方へ跳躍し、両手を突き出した。


「レオナルド、ここで貴様を……」


「黙って消えろ! お前の態度は不愉快だ! レオナルド!」


 ジャンヌの声を掻き消すようにしてオレが叫んだ。

 興が醒めたのかレオナルドは白けた表情で一礼する。


「特別ゲストの要望に応えるとしよう。それでは皆様ご機嫌よう」

 

 レオナルドは嵐のように現れて嵐のように去っていった。


 オレは一息ついてから鉄仮面を真っ直ぐに見据える。

 背格好が似ている。声も似ていた気がする。

 なぜオレと美唯子を離したのか。

 なぜ自分と同じ性質の雷撃弾を放てたのか。

 頭の中が疑問符で一杯になり、オレは自身の存在すら否定しかねない禁断の質問を口にしてしまう。


「お前……オレなのか?」

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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