美唯子と鉄仮面。それが私の運命だから。
──新人類居住施設校舎内保健室。
負傷したオレを前に美唯子はわかりやすく狼狽えていた。
「えっ、えーと、まずは消毒? 止血なのかな。刀の切り傷だから縫合も必要だろうし、そうなると服を脱がさないと……ペル様の身体……ゴクリ……」
信長の一撃から美唯子を庇うために飛び出したオレは背中を深く斬り裂かれていた。
斬撃によるダメージ、蓄積していた疲労が重なり、今は死んだように眠っている。
幸い、刀を完全に振り切られる前に主人の危機を察知したメアが間一髪、二人を保健室まで転移させたため、北条のように両断されることもなく、一命は取り留めた。
美唯子はハサミを手に取りオレが着ているTシャツを切る。
肩甲骨から腰の辺りまでをバッサリ斬られていた。
「や〜ん! 細身なのになんで筋肉質なのぉ! そうだ写真……はさすがに不謹慎だよね。集中しないと……」
美唯子はオレの肉体をうっとりとした表情でじっくりと観察し、携帯を取り出しカメラアプリを立ち上げるすんでのところで自重した。
「そこで何をしている」
保健室の扉が開き、男女の二人組が中へと入ってくる。
二人とも学生服を着用しているが、男性は鉄仮面で顔全体を覆い、金髪の女性はアイマスクで目元を隠していた。
「へっ!? 違う違うよ! まだ何もしてないってば!」
携帯を手に恍惚の表情で言われてもまるで説得力がない。
突然言い訳を始めた美唯子を尻目に鉄仮面の男性がオレが寝ているベッドに近づいていく。
「この男は……。ジャンヌ。手当てしてやれ」
鉄仮面にジャンヌと呼ばれた女性が頭を下げ、オレの治療を開始する。美唯子とは違いテキパキとした動きで無駄が一切ない。
「陽神。お前さんは俺についてこい。話を聞かせてもらうぞ」
鉄仮面が美唯子の手を取り、廊下へと連れ出した。
夜の学校の廊下はヒンヤリと冷えていて、どこか寂しい。
鉄仮面と美唯子は向かい合い、会話を始める。
「あれは一応、俺達の敵だ。わかっているのか?」
「それは知ってるよ。でも敵とは違う。彼は私の大切な人だから」
「大切だと? 三年間、苦楽を共にした仲間よりか。まさかお前さん、奴についていくつもりではないだろうな」
「……うん。そのつもり」
美唯子が即答すると鉄仮面は腕を組んで嘆息する。
「お前があの男にそこまで尽くす理由はなんだ。
お前が敵方についていった理由を他の仲間に問われたら、俺はなんと答えればいい。惚れた弱みだと、そう言うのか。それでは誰も納得しない。慎重に答えろよ。俺だって級友を憎みたくない」
「彼は私が命を懸けてでも守らなければならない人。私の全てを捨てたとしても、私は彼を守ります。それが私の運命だから」
美唯子が強い眼差しでキッパリと言い切った。
ここまではっきりと言われると説得する気も失せてしまう。
「運命ね。お得意の予言か。それが神のご意思だとでも?」
「神様以上かな。この世で1番の人にそう言われたから。だから彼は私の全て。まぁ、惚れた女の弱みってのも間違いではないかな。一目惚れは間違いないし、その上運命なんて言われたら……ね」
他にも色々と質問はあったのだろうが、鉄仮面は黙り込む。
これ以上の問答は無用だと悟ったのだろう。
何を言っても聞いても運命などという非科学的で論理性のカケラもない言葉で返されていたら、時間の無駄でしかない。
「そうか。ならば好きにすればいい。仲間には俺がもっともらしい理由を考えて説明しておくさ。達者でな」
「生徒会長はこれからどうするつもりなの?」
「袂を分つお前に言っても仕方のないことだが、まずはレオナルドを倒す。そして地球での日常を取り戻す。今、輝夜くんが上手く立ち回ってくれている。頭のいい女性だ。キミとは違って頼りになるよ」
親友の名を聞いた美唯子の表情がパッと明るくなった。
「そっか。私も輝夜に負けないように頑張らないと。計画が順調なら近いうちにまた一緒になるかもね」
「そうならないことを願っているよ。お前のような奔放な女には今後、関わりたくもないんでね。さて、お前さんはここで待っていろ。そろそろ治療も終わっただろうし、今度はキミのフィアンセと話してくるよ」
場を和ませるためなのか、鉄仮面が軽口を叩いた。
「……うん。わかった」
美唯子は笑わなかった。
学生として過ごした三年間で初めて見せる真剣な表情。
そこにはオレに対する美唯子の想いの強さが表れていた。
「ふっ。一人の人間にここまで想われて、あいつは幸せな男だな。 ──互いの故郷でまた会おう。友よ!」
美唯子に背を向けて歩き出し、鉄仮面は保健室へと入っていった。
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