戦う宇宙のお姫様。最強少女は不死をも殺す。
──ドガォァィッン!!
信長が振り下ろした刀による一撃の威力は凄まじく、衝撃波を巻き起こしながら地面を抉り取り、砂嵐のように土煙を巻き上げる。
「……消えた。そんなはずはない。奴は動けないはずだ」
煙が晴れると信長は訝しむ顔で呟いた。
信長の凶刃に倒れるはずだったオレと美唯子の姿が見えない。
変わりに見慣れぬ少女が一人、信長の前に立っている。
今この瞬間、突然この世に生まれ落ちた。
そう感じられるほど不自然に少女は現れた。
「テメェ、誰だ! 何をしやがった」
苛立ちの表情で声を荒げて信長が吠える。
透き通るような白い肌をした可憐な少女は信長の圧力をものともしない。涼しげに、儚げに、目の前の男を見据えている。
「もうやめなよ」
透明感のある声。
優しくも凛々しい声音。
「ああ? 何言ってやがんだ。テメェも殺す」
問答無用で信長が刀を袈裟斬りに振り下ろす。
少女は音もなく羽のようにふわりと飛び上がり、斬撃を躱すと信長の背後へ静かに着地した。
「アナタ。うるさい」
トン。
優しい手つきで撫でるように背中を押す。
すると信長の身体は冗談のような勢いで吹き飛んだ。
壁に激突するも勢いがおさまることはなく、コンクリートをぶち破りながらグングングングン突き進み、ついには壁を抜けて校舎の外へと飛び出していく。
「……ンだぁ、アリエネぇ。なんで俺がダメージを受ける。俺は無敵だぞ。化け物女、ありゃ一体……」
グラウンドの真ん中に倒れている信長が頭を抱える。
世界の理から外れ、ダメージを受け付けなくなったはず。
だというのに現実問題として少女にいいように弄ばれている。
その状況が理解できないでいた。
「──お父様から聞いてるの。エニグマに対抗する秘策。存在しないものを消す方法……」
するとそこへまたしても羽のように軽やかに少女が天から舞い降りた。
「見て、綺麗な宇宙。あれが私」
少女が天を指差す。
見上げると満天の星。
星が瞬き流れていく。
「貴方は私の大切な人を傷つけた。ユルサナイ」
少女の足元に風が生まれる。
白いワンピースが風にたなびく。
「アンドロメダの瞳。いくよ──」
──タ─────オ──────ソ───ラ──
少女の呼びかけに宇宙が共鳴する。
両の瞳に銀河が広がる。
少女の正体は宇宙そのもの。
この世の全てを支配していた暗黒物質の忘形見。
アンドロメダの瞳は無限に広がる大宇宙に存在するエネルギーの全てを結集し、支配できる。
よって少女と戦うということは宇宙と戦うに等しい。
宇宙の前では人類がいかに矮小な存在か、身をもって知ることになるだろう。
「──紅炎咲星」
信長の肉体を紅蓮の業火が包み込む。
呼吸も出来ない状態で、骨の髄まで焼き尽くされる。
「ハッ……こんなナマッちょろい炎で俺が死ぬかよ! 俺は國裂信長だ! こんなもの……クソ喰らえってんだよぉッ!」
身体から闘気を放ち炎を吹き飛ばす。
しかしそれは一瞬だけの虚しい抵抗。
炎はすぐさま勢いを取り戻し、信長の肉体を焦がしていく。
皮膚が焼け、骨が溶けるも一瞬で再生する。
その度に想像を絶する痛みが走る。
「──黒星圧搾」
炎の中で悶え苦しむ信長に向けて、少女は追撃の小型ブラックホール弾を撃ち込んだ。
信長の体が奇怪にひしゃげていく。
物理法則など関係もなく、潰れ、伸ばされ、内臓が破壊され吐血する。宇宙の意思のままに蹂躙されるしかない。
しかしそれでも信長は死ねない。
不死身の肉体を持つ男の悲しい性である。
地獄のような苦しみを永遠に味わうことしかできない。
これでも少女は手加減している。
宇宙の裁きの名の下に世界から完全追放することもできた。
しかしオレの中で輝夜の記憶を共有していた少女は彼等がレオナルドに利用されただけの罪もない人類だということを知っていた。
その点を考慮すると冷徹になりきれないでいた。
ある時点で少女は力の放出をやめてしまう。
無限地獄から解放された信長は地面にグッタリと倒れこんだ。
「反省……した?」
少女は怒りを表に出さずに優しく尋ねる。
恐らくはこれが最後通告だろう。
信長の返答一つで彼の運命は決まると言っていい。
「ハッ! クタばりやがれ! 化け物がよぉ……ハッ、ハハッ、ハーッハッハー! いい気分だ。最高だぜ!」
中指を立て挑発し、高笑いをあげる。
最後まで一本筋の通った男である。
「そう。じゃあ。──さよなら」
少女が手を振ると信長の消滅が始まった。
暗黒物質はこの世のありとあらゆる場所に存在する。
宇宙、惑星、生物の体内。いたるところに。
この宇宙に存在している限り、目に見えない、顕微鏡でも捉えられないほどの小さな無数の暗黒物質に囲まれ、満たされて生活している。
その暗黒物質が少女の指示で一斉に牙を剥く。
信長は暗黒物質に喰われていく。
体の外からも中からも。
逃れる術は存在しない。
自らの肉体が喰われているというのに、信長はいつまでもいつまでも、高笑いをやめなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




