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完全無欠の殺戮鬼神。覚醒信長大暴れ。

氷駕熟睡中。


 赤黒い肌。先程よりも明らかに肥大している筋肉。

 荒い息遣い。時折り漏れる獣のような唸り声。

 顔には般若の面をつけ、手には柄と鍔しかない刀の残骸のような物を持っている。

 覚醒した信長の姿はさながら鬼のようになっていた。

 身体から常時溢れている常闇のような瘴気が廊下に立ち込める。


「──雷撃弾(サンダーベイン)


 一か八か、破れかぶれで放ったオレの雷撃が信長の肉体を()()()()た。

 

「まさか……お前」


 この現象をオレは誰よりも理解していた。

 認めたくないが認めるしかない。

 信長は新人類の唯一と言っていい欠点を克服してしまったのだと。


「ご明察。エニグマと同じ、俺はこの世から存在しなくなった。それだけじゃねぇ。お前からも学んだ。これからは俺も命を懸ける」


 信長が手にする物体から間欠泉のように鮮血が噴き出した。

 飛び出した液体と信長が放つドス黒い闘気が空中で混ざり合い、鍔の周りに収束していく。

 生み出されたのは目にも鮮やかな真紅の刀身。

 妖しくも心惹かれる純粋な赤。

 信長が()()を振るうと大気が裂ける。

 斬り裂かれた空間が耳を劈く悲鳴をあげた。

 何もかもが異常。オレと美唯子は一連の流れをただ黙って見つめていることしか出来なかい。

 

「おーい。助っ人に来たぞー。あれ、信長くん……か?」

「嘘だろ。なんだこの煙。見ろよあの姿、完全に化け物だ」


 新人類の援軍。学生服を着た二人の男子が廊下を駆けてくる。

 信長の異様に気がついた二人は思わず息を呑んで硬直した。

 信長は一人の男子の頭部を鷲掴みにし、ゆっくりと持ち上げる。

 空中で足をバタつかせ抵抗するも、異常なまでの怪力でしっかりと掴まれており、とても脱出できそうにない。


「お前の能力を言ってみろ」


「グッ、グルし……放してくれ信長くん。友達じゃないか。助けに来た、んだよ。俺の……能力は……、完全防御(ダミカルド)。無敵の硬度と、カメレオンのような柔軟性。鉄で殴られたら鉄より硬く……不死、性と合わせれば、完全に無敵……グァッ」


 信長がほんの少し力を加えるだけで男子生徒の頭部が紙粘土のように変形していく。


「へぇ。ちっとは面白い能力考えたな。だがテメェもハズレだ。レオナルドが言ってたろ。守ってどうする。殺すための力を手に入れるのが正解なんだよ。喜べ、試し斬りしてやる。死ねや」


 真紅の刃が腰に触れると同時に、完全防御の特性が発動し、信長の斬撃に順応しようと肉体が硬化を始める。

 その速度は超速。一般的な刀であれば触れた途端に対応し、刃こぼれを起こす、あるいは根元から折れてしまうだろう。

 しかし真紅の刃はそんなことお構いなしに肉の中に沈んでいく。

 無敵の硬度を誇るはずの肉体は意図も容易く真一文字に両断された。


「北条くん……」

 

 同級生が斬られる様子を美唯子が悲しげに眺めている。


「見るな。あれは人じゃない。ただの悪鬼羅刹だ。キミだけでも今のうちに逃げてくれ」


「逃げません。逃げる場所なんてないですし、ペル様の側にいたいんです」


 オレは歯痒かった。 

 新人類に憎しみの感情を抱きつつも、自分よりも年下の人類が目の前で惨殺されていく光景に心が痛んでいた。

 だというのに身動き一つとることすらままならない。

 自分の不甲斐なさを呪うしかない現状に思わず舌打ちをする。


 信長は手にしていた北条という男子生徒の上半身を投げ捨て、次にもう一人の男子へと目を向ける。


「気でも狂ったのか! 僕達が戦う意味なんてないだろ! 一緒にエニグマを倒して世界を平和にしよう。クラスのみんなで地球に帰るんだ」


 鮮血に染まる般若の面。

 信長の感情は読み取れない。

 同級生の必死の叫びは、信長の心にどう響いたのだろうか。

 鬼神と化した信長は鼻で笑うだけだった。


「ハッ、何を気取ってやがんだ。それは違う。俺はいたって平常で、お前らだけが狂ってる。世界はいつだってそうだった」


「──仕方ない。僕もやりたくないが戦うよ。君という存在を消し去る。存在抹消波(ExistencE)!」


 決意の目をした男子が眩い閃光を撃ち放つ。

 攻撃対象を文字通り完全に世界から消失させる。

 攻撃能力としてこれほど有能なものはないだろう。

 しかし今回ばかりは相手が悪かった。

 閃光は無常にも信長の肉体を擦り抜けていく。


「お前、救いようのないバカ野郎だな。エニグマはこの世に存在してないっツッてんだろ。ハナから存在しないモノをどうやって消すんだよ。そんなゴミみたいな能力選んだ時点でお前の人生は終了だ。後悔しながら死んでけや」


「そんな……どうして、僕」


 哀れ男子は信長の一刀のもとに葬られた。


「見てただろ? これでこの世で俺に斬れないものはない。

 全てを斬り裂く最強の矛とエニグマと同じ無敵の盾を手に入れた。お前が光ろうと問答無用で斬り殺す。これで俺は天下無双だ」


 ゆっくりと信長がオレの側へと近づいてくる。

 身動き取れないオレを庇うため、身を挺して美唯子が信長の前に立ち塞がる。


「ペル様を殺すというのなら先に私を斬りなさい」


「うるせぇよ。だったら二人まとめて叩っ斬る」


 信長が真紅の刀身を振り上げる。


「待て、この子は何も関係ない。望み通りオレの首をやる。それで満足だろう」


「あー、うぜぇ。この期に及んでジタバタするなっツーの。じゃあな叛逆者(ペルセウス)。レオナルドも俺が殺してやるから安心して逝きな」


 振り上げた刀を、信長は無慈悲に振り下ろした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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