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命を削る諸刃の切り札・雷命延尽。最凶の覚醒・鬼神信長。


「また会ったな宇宙野郎、ここで会ったが百年目ってな。

 さっきの技、もう一回見せてみな。今度は俺が勝つぜ」


 信長が自信満々の表情で語り、刀を抜き鞘を投げ捨てる。


「ペル様、信長くんの相手は私がします。少しでも休んでいてください」

 

 オレを気遣い美唯子が一歩前に出る。


「気持ちはありがたいけど、キミじゃ無理だ」


 エニグマは本来無敵である。

 物理、魔法、状態異常、事象干渉、ありとあらゆる攻撃手段が通用しない。

 存在するがこの世に存在していないとは言い得て妙である。

 それを信長は斬り裂いた。

 つまりは再生能力も不死性も通用しない。

 美唯子がレオナルドから受け取った能力がいかなるものか現時点では本人以外知る由もないが、信長の能力を理解し攻略しない限り勝ち目はないといえる。

 新人類である美唯子でも不死性ごと斬り捨てられるだろう。

 先の戦闘でオレは宇宙と同調するという力技で押し切った。

 だが今の口ぶりを聞くに二度同じ手が通用するかもわからないし、何よりも今のオレには同調能力を発動させる余力はない。

 信長に勝つための方法は一つしかないとオレは思っていた。


「ヘーキです。私も一応は戦闘訓練を受けましたから」


「いいから下がってくれ、オレがやる。殺されるぞ」


「大丈夫ですよ〜。今の私は不死身らしいので!」


 強情を張って美唯子が飛び出そうとする。

 オレは咄嗟に美唯子の腕を取り、身体ごと手繰り寄せた。


「言う事聞けッ!」


 オレの真剣な眼差しと美唯子の視線がぶつかる。


「──っッ!?」


 数秒ほど見つめ合うと美唯子が突然顔を赤らめオレの胸の中へと飛び込んだ。


「おっ、オイ。なんのつもりだよ」


 突然の奇行に困惑する。

 美唯子はオレの胸に顔を埋めたまま動かない。


「ペル様のせいですからね。今の怒り顔は反則だよぉ。カッコいぃ……」


 さすがは推しを名乗るだけのことはある。

 美唯子はオレに怒鳴られたことに喜びを感じたようだった。


「あー。ウザってえ。この色ボケ野郎に俺は負けたのかよ……」

  

 呆れ顔で信長が呟く。


「まぁいい。二人揃ってあの世にいきなっツーの!」


 信長が跳躍し、オレとの距離を瞬時に詰めた。


「死ねやぁ! エニグマァッ!」


 雄叫びを上げ、手にした刀を縦一文字に振り下ろす。


「なんだあぁ、そいつは」


 叫んだのは攻撃した側の信長であった。

 オレの身体全体が金色の輝きを放ち、信長の刀を受け止めている。

 枯渇した魔力を生み出すために体内の電流を操作し、自らの生命力を燃やすことでエネルギーへと変換、肉体を強化する禁じ手。

 その名も雷命延尽(ライメイエンジン)。 

 自らの寿命をも縮める行為だが、オレはなんの躊躇いもなしに切り札を切った。


「お前とは掻い潜った死線の数が違う。お前は負ける」


 身体全体を雷でコーティングし、鋼鉄以上の硬度へ変える。

 信長の使っている得物が並の刀であるならば、ダメージが通る道理はない。


「ざけんなよ化け物。わけのわからん技ばかり使いやがって」


 信長が踏み込み、刀を振るう。

 オレは強化した腕を振るい、足で払い、信長の斬撃を巧みに捌く。

 時に鋭く、時にはしなやかな軌跡で、手を変え品を変え信長は剣撃を繰り出すが、オレはその全てを悉く受け流す。


「何故だ、氷のエニグマは斬れた。お前は何故、斬れねえ……」


 攻撃している側の信長が当惑の表情を浮かべる。

 明らかに目の前にいる敵オレに恐怖していた。


「お前の能力は対エニグマ特化なんだろう? 今のオレは普通の人間が無理してるだけ。そうなれば能力は関係ない。最後にモノを言うのは信念と覚悟だ。言っただろう。お前は負ける」


 オレの拳が信長の鳩尾に深々と突き刺さる。

 渾身の一撃が骨を砕き、信長の巨躯を吹き飛ばす。

 巨体がしばらく宙を舞い、凄まじい勢い壁に激突した。


「──ガッ……ハっ、そんなん、アリかよォ……」


 信長はそのままズルズルと床に倒れ込み、焦点の合わない目で虚空を見つめ、ブツブツと独り言を呟いている。


「もっとだ、もっと強く。俺は世界一の侍に……。弱いやつは死ぬ。俺は弱い。俺は弱くない。俺は強い。俺は強い。俺は強い」


「なんとか勝てたか。オレにしても、ギリギリの賭けだった」


「ペル様ー!」

 

 能力を解除したオレに向かって美唯子が飛んでくる。

 限界を超えて命まで削って戦ったオレは少女を抱き止める力もなく、二人して地面に倒れた。


「ペル様! サイコーでした! 素敵すぎです! 写真も動画もいーっぱい撮りました!!」


 美唯子が目を輝かせながら得意げにオレの戦闘中の様子を携帯で撮影した画像を見せつける。

 つい先程出会ったばかりだというのに距離の縮め方が異常である。


「あっ、ありがとう? でもさすがに死ぬ、降りてくれ」


 馬乗りになっている少女一人、どかせる力がない。

 刹那はまだ見つかっていないというのに、これ以上は戦闘が困難といえるほどにオレはすり減っていた。


「は〜い。……わっ! これは少しヤバいかも……」


 オレの身体から離れた美唯子が何かの異変に気付いた。


「どうした、何かあったのか」


「えーと。のっ、信長くんが、なんだかすごいことに……」


 オレの問いかけに美唯子は震える声で答える。

 美唯子が一心に見つめている先にオレも目をやると、そこには漆黒の闘気を身に纏った鬼が立っていた。


「よう。叛逆者(ペルセウス)。お前には感謝している。お前のおかげで俺はまた強くなれた。生涯一の気分だぜ」


「……やはり、人間の力では倒しきれなかったか。オレの負けだ」


 これ以上はないというほどの絶望的なタイミングで、新人類、第六天魔王・國裂信長は覚醒を果たした。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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