恋するヒミコの大予言。ペルさま推しの美唯子です。
「刹那……どこだ……」
グラウンドを駆け抜け、校舎内へと侵入したオレは周囲を見渡しながら呟いた。
出来ることなら敵との遭遇を避け、最短距離で刹那を救出。氷駕と合流して第三惑星から脱出するのが理想だろう。
オレの体力は残り僅か。二、三発でも殴られたら簡単に倒されてしまうような状態。
攻撃の手段は雷撃を数回撃てるかどうか。
不死性が継続しているのかもわからない絶望的状況。
「叛逆者さまっ!」
背後から突然声をかけられたオレは恐る恐る振り返る。
「キミは確か輝夜さんの友達の……」
輝夜の記憶の中で親友と呼ばれていた少女が立っていた。
栗色の髪でポニーテールを結っている活発な印象を受ける美唯子は、腕を後ろで組み、明るい笑顔でオレの顔を眺める。
「わー! 驚いた顔も可愛くて素敵ですねー。すっごいイケメンだぁ。彼女とかいるんですか? 連絡先とか交換しましょうよー」
携帯を取り出しながらグイグイ迫ってくる。
悪意のカケラも感じないが、別の意味で怖さを感じたオレは美唯子と少し距離を取る。
「連絡先って……オレとキミは敵同士だろ。怖くないのか」
「んー? 私はペル様ゲキ推しマジラブっ子ですから。むしろもっとお近づきになりたいんですよねー」
いつの間にやら叛逆者さまからペル様に変わっている。
押しが強い今までにいなかったタイプの女性。
オレは対応に困っていた。
「わけのわからないまま異世界に連れてこられて、ほんとの恋もしないで死んでいくなんてイヤなんです。ペル様は違いますか?」
気がつけば息がかかりそうな距離にまで美唯子は近づいて来ていた。
潤んだ瞳でオレを見つめる彼女の本心、目的がわからない。
「ペル様。私は貴方の1番になれますか。私のこと好きになってくれませんか」
「ごめん。今急いでいるからそれどころじゃないんだ。キミに戦う意志がなければそれでいい。オレは先に行くから」
ただでさえ廊下は声が響く。
無駄話をしていては敵意を持つ新人類に見つかる可能性が高くなると判断したのであろう。オレは足早に歩き出す。
「アーン! ペル様〜。待ってくださいってば〜」
その後を美唯子はついていく。
オレの前方に回り込み、今度はイタズラな笑みを浮かべる。
「どうすれば私のこと信じてくれます? じゃあこうしましょう! 私の事が心から憎いならこのまま行ってください。
でももし、私に1%でも可能性があるなら、前方に見える自販機の辺りに雷を打ち込んでみてください!」
まるで意味がわからない。
突飛な発言にオレの思考が一瞬止まる。
力が万全の状態であれば、戯れに付き合うこともできる。
だが今は少しでも能力の使用を抑えたい場面。
オレは美唯子の意図を考える。
気に入られたい相手に嫌がらせをしたいと思う人物はいない。
だとしたら何か意味がある行為なのだろう。
逡巡し、オレは決断した。
右手を突き出し、魔力を集める。
「──雷撃弾」
雷撃弾が飛んでいく。
雷は光の筋を残しながら飛行し、煌々と明かりを放つ自販機のそばで何かに衝突し炸裂した。
「グぎゃあ! ビレろべぇむ……ウゲッ」
バタリ。
情けない叫び声が聞こえ、何かが倒れる音がする。
しばらくすると忍び装束を着た男性が床にヌッと浮き上がってきた。
特殊な能力を使い姿を消して暗闇に紛れていたらしい。
校舎内に潜んでいたということは新人類なのだろうが、不意打ちということもあり、一撃で気絶したようだった。
「敵か!? ──クッ……」
たった一発魔力を放っただけで体がふらつく。
肉体の疲労は想像以上に酷いようである。
床に倒れ込みそうになっていたオレの身体を美唯子が支える。
「わっとと! 私のこと、信じてくれたんですね。うれしぃな」
「……仲間を売ったのか」
美唯子はオレを自販機のそばに設置されているベンチまで連れて行き、二人して座った。
「仲間ってほどでもないです。ただのクラスメイト? 輝夜みたいな親友なら別ですけど、ただなんとなく同級生って認識だけの知人って、仲間って言えますか?」
額に汗を浮かべるオレを見た美唯子はポケットからシルクのハンカチを取り出し優しく拭う。
「卒業後はバラバラになるんだし、連絡を取り合あうわけでもない。何年か後の同窓会でこんな人いたなーって、過去を懐かしむための判断材料にしかならないような人って、仲間って言うのも失礼ですよね?」
淡々と語り、美唯子は最後に優しく微笑んだ。
「現実的なんだな。ドライというか、割り切ってるというか」
美唯子の言葉を受けてオレも過去を振り返る。
仲が良くてもその場だけ。
少しでも不利益があれば平然と人は離れていく。
意見も聞かず、印象と仲間意識で他者を排除する。
それが人間が生きている世界。
オレは実際、その洗礼を受けて社会から孤立していた。
言葉だけの友情という概念を大切にするよりも、美唯子のように全ての事柄において割り切って生きたほうが楽なのかもしれないとオレは思っていた。
頭の中の陰鬱な過去を振り払い、オレは嘆息する。
「実は私達の中で今、意見が真っ二つに分かれていまして。ズバリ、レオナルドを信じるかどうか、スッゴク揉めているんです」
当然といえば当然である。
突然異世界まで学生を連れ去り、戦闘を強要する。
普通ならばそんな状況に順応できる人間のほうが少ないだろう。
「あっ! でもでも私は断然、ペル様推しですから!」
「……信じてくれるかわからないが、オレは宇宙を破壊する気なんてない。レオナルドの陰謀に嵌められただけなんだ」
「知ってますよ。全て予知しましたから。だからここにペル様が来るのも知ることができたわけで……えへへ」
言い終えて美唯子がはにかむ。
「予知? それがキミの能力なのか」
「ペル様にだけは教えてあげます。私がレオナルドからもらった能力は、全ての真理を見通す眼。知りたいことの答えがほぼ100%わかる神技なんですよ」
「1st……1番。まさか……な」
「クラスが揉めていたので、確認したんです。悪いのはペル様? レオナルド? 答えはこうでした。真実の先に悪魔が二人」
「悪魔が二人ね。具体的なようでそうじゃないのがもどかしいな」
「そしてもう一つ。重大な事実、というより予言がありまして。ペル様。暗黒物質って知っていますか」
「ああ。何かと縁はあるよ」
「さすがペル様! 実はその暗黒物質が地球に……」
美唯子がいいかけた途端、二人の目の前をどこからか飛来した短刀が掠めていき、自販機に突き刺さった。
「よぉ、ご両人。敵同士が仲の良いこって」
二人が声のした方へと視線を向けると、気流し姿の侍。
國裂信長が刀を肩に担いで立っていた。
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