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さらば友よ。こいつは俺が必ず殺す。


 ──第三惑星新人類居住施設。


 新人類の育成、管理、運営を目的として建造されたその施設の外観は、どこからどうみても何の変哲もない一般的な学校であった。

 三階建ての校舎、グラウンドにプール、サッカーゴールにテニスコートなど、人類には馴染み深い光景が広がっている。

 レオナルドが新人類を作り出すために地球から連れてきた学生達の母校がモデルになっているため、質感や雰囲気まで完璧に再現されており、オレは学生時代を思い出し懐かしい気分に浸っていた。


「氷駕、その体で本当に戦えるのか」


「お前こそどうなんだ。とても戦えるようには見えんがな」


「……無理はしている。多分、頑張っても稲妻三発撃つのが限度だ。それ以上は命を削るしかない」


 両者共に満身創痍。

 肉体を動かすだけで身体中が悲鳴を上げるような状態。

 オレはとある覚悟を決めていた。

 過去に17番カズキとの戦闘で使用した禁じ手、生命力をエネルギー源にして限界以上の力を引き出す能力を使うことを。

 自らの寿命までも縮めてしまう事になるが、それでも構わないとオレは思っていた。


「おい、感じるか。17番の波動だ。近いぞ」


 グラウンドの中を氷駕が進んでいく。

 しばらく歩いて体育倉庫の前で足を止めた。

 オレも意識を集中させる。

 すると微かではあるが、確かに人の気配と息遣いを感じた。

 オレと氷駕は息を合わせて鉄製の扉を蹴り破り、飛び込むように中へと入る。


「カズキさん、助けに来ました。無事です──うっ……」


 むせ返るような血の臭い。

 埃まみれの室内に、捨てられたように倒れている男。

 慌ててオレが駆け寄り、体を抱き上げるとそれは紛れもなく17番のカズキであった。

 何をされたのか全身が傷だらけで裂傷が酷く見るに耐えない。

 人間とは斯くも残酷になれるのだろうか。

 そう思えるような惨状であった。


「オレくんか……助けに来て、くれたんだな」


 掠れる声でカズキが話す。


「ああ……あぁ、もう大丈夫だから。直ぐに手当てをして家に帰ろう。もう大丈夫だから、大丈夫……」


 カズキの手を握り、懸命に声をかける。

 カズキの手は信じられないほどに冷たかった。


「俺が死ぬこと、サラには言わないでくれ」


「サラって誰だよ。死ぬなんて言うなよ……」


「29番の、真名だ。俺しか知らない、大事な、約束」


「29番ってナビさんのことか。ダメだ、カズキさんの帰りを待ってる。一緒に帰ろう。彼女には貴方が必要なんだよ」


「……オレ。現実から目を逸らすな。()()()()()()もう手遅れだ」


 オレを一喝し、氷駕がカズキの足元を指差す。

 煌めく光が天へと昇っている。肉体の粒子化が始まっていた。

 それはエニグマの死を知らせるためのサインであった。


「17番の最後の言葉だ。しっかりと聞いてやれ」


「ふざけんなッ! なんでそんなに冷静でいられるんだよ、悔しくないのかよ、悲しくないのかよ、仲間が死ぬかもしれないんだぞ」


 氷駕を睨みつけながらオレが叫んだ。


「甘ったれるな! 男が男に思いを託そうとしているんだぞ。お前はそれから目を逸らそうとしてるだけだ。俺だってな、仲間を傷つけられてどれだけ悔しいか……お前にはわかるまい」


 氷駕の握り込んだ拳から、ポタポタと血が滴っていた。

 悲しいのは自分だけではない。そう悟ったオレはやり場のない怒りを堪え、沈黙する。


「18番、いるのか。来てくれ。……俺の力を、お前に預ける。同属帯の夢、叶えられなくて、すまな……」

 

 最後の力を振り絞り、自身の力を氷駕へと託すと、17番は絶命した。カズキの肉体は程なくしてこの世から完全に消滅した。


「立派な最後だったぞ17番。お前の意思は俺が引き継ぐ。さらばだ、友よ……」


 また一人、エニグマが死んだ。

 永遠の命を持ち、絶対に死ぬはずのない彼が一体どうして死んだのか。

 答えは一つしかない。

 殺されたのだ。

 明確な悪意を持ち、不可能すらねじ曲がることができる力を持った人物の手によって。


「氷駕……もしお前が今、人類を皆殺しにしようと提案してきたら、オレは止められる自信がない。カズキさんをこんなにした奴らを殺してやりたい。新人類を心から憎いと思ってしまっている」


「……落ち着け。まだ犯人は判明していない。敵地のど真ん中で冷静さを欠いたら死ぬしかない。敵の罠に自らハマる必要はない」


 怒れるオレに、諌める氷駕。

 いつもとは構図が逆になっている。

 重苦しい沈黙が流れる。

 肉体的に疲労している二人に、仲間の死が追い討ちをかけ、精神的にも、限界を迎えようとしていた。


「あれあれ、人の気配を感じてくれば、不法侵入者が一人に二人。俺達の実験台に何したのかな〜?」


 凍りついた空間に突然響く、間の抜けた声。

 体育倉庫の中へと入ってきたのは学生服を着た男性だった。


「……実験台だと」


「そうよ? レオナルドからもらった能力を試すための実験台よ。他人を傷付けるのに最初こそ抵抗はあったけど、慣れれば案外爽快でねぇ。色んな実験をされても中々しぶとく生きてはいたが、どうやらようやく死んだみたいね、あの暑苦しい化け物は」


 氷駕の中で何かがキレた。

 憎しみの果てに見つけた感情は無。

 清々しいほどに心が穏やかになっている。

 雑念も迷いも何もない。

 考えることはただ一つ。

 目の前の存在をこの世で最も惨たらしいやり方で完璧に殺すこと。


「先にいけオレ。こいつは俺が必ず殺す」


「……わかった。死ぬなよ」


 オレが駆けていくのを見送って、氷駕は男と対峙する。


「腕もない、目もない。んな死にかけで新人類様に勝てるかな?」


「喜べ猿。今から俺は生まれて初めて本気で戦う。細胞一つ残さずお前を殺す。貴様に明日は訪れない」


 氷駕の足元から冷気が広がる。

 紅蓮に輝く闘気を纏い、炎と凍気が交差する。


「ハハァハ! 俺は無敵の新人類! 突いても斬っても死なねぇの! コードネーム・国士無双。エニグマを今から抹殺しまーす!」


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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