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オレ・アレ・ソレ


 ──隔離世界時間、午後七時。

 時間通りに様子を見に来たアレを引き留め、オレは対話を試みる。


「オレさ、最初はムカついてたんだよ。いきなり現れて説明もなしに契約されて、喰べるなんて言われるしさ」


 本来なら言葉を交わす必要はないのだろうが、現実世界へ帰還するために少しでも情報を得ようと他愛ない話を毎日アレとすることにしていた。


『アハハ……そうですよ、ね……』


「でも今は違うぞ? 闇の世界で命を救われたのは事実だし、なんだか愛憎半ばする不思議な気分だよ」


『それは……ですよね……。では、また明日』


 出会った頃から素っ気ない態度で、会話も端的に、必要以上に話そうとしないアレは、今日も今日とて用件だけ済ませるとヨソヨソと出て行こうとしている。


「待てよ」


『ヒャい!?』


 声をかけられたアレの身体が、あからさまにビクンと跳ねた。

 呼び止められるのを想定していなかったのだろうか、ビクつきながらも様子を伺う姿はまるで小動物のようでもある。

 

「どうしていつもすぐに逃げる? アレはいつもオレと三十分も同じ場所にいようとしないだろ、何か理由があるなら別だが、何もないなら…………真剣にオレと向き合え!」  


『……キュン』


「きゅん?」


『い、いえなんでもないです。わかりました! 相互理解を深めましょう。聞きたいことがあれば聞いてください』


「そうだな、じゃあアレは本当に神様とかじゃないんだな? 正体を明かしたくないならYESかNOでもいいから答えてほしい」


『はい。 ──神に邪神、天使、悪魔、自然現象、宇宙人、女神、精霊、時間、精神、魂、妖精、機械、吸血鬼、幽霊、魔術師、怪物、妖怪、鬼、錬金術師、AI、自動人形、死神、実験生物、妄想、幻影、魑魅魍魎、半妖、陰陽師、魔法少女、魔人、亜人、魔族、夢オチ、人造人間、細菌、災害、天災、宇宙、人類、厄災、潜在意識、思い込み、霊体、世界、星、太陽、概念、事象、

 ──の、どれにも該当しません』


「……悪かった、聞いたオレが悪かったから許してください」


 言葉の洪水に飲まれ、オレはゲンナリと降伏(ギブアップ)する。

 たった一言問うただけなのに、念入りに入念に答えてくれた。

 アレの正体は世間でよく聞くような簡単なものではないらしい。


「話題を変えよう。オレとアレの契約について話したい」


「──それなら僕も必要だよね! っと!」


 声と共に空を引き裂き天から落下してきたソレは、オレの胸の中に飛び込み、アレに見せつけるようにわざとらしく抱きついてみせる。


『貴方……どうして……』


「僕もさ、オレと契約したんだよね! あれ? でも二人の関係に首を突っ込むと殺されるんだっけ、僕?」


『どうして……契約なんて…………』


 ワナワナ震える声でアレがオレに尋ねる。

 その声音は悲しみと怨嗟が混じり合っており、考えも無しに契約を交わしたオレの心に後悔という楔が打ち込まれていく。


「大丈夫、ソレがウルサイから契約しただけで、こいつに頼ろうなんて考えてもないし、力も使わない。それにこいつは思ったより悪い奴じゃないみたいだしさ、許してくれよ」


 どうして自分を喰べようとしている相手に弁解しているのか、オレ自身わかってはいないが、とりあえずこの場を収めるように言葉を取り繕っていた。


『そういう問題ではなくて……ワタシが言いたいのは』


「そういえば聞いてなかったけど、ソレ、お前の契約内容は?」


 不穏なアレの言葉を遮るように、オレはソレに問いかける。

 その様子を見て、アレは一層沈み込んでいく。


「僕は僕の全てをオレにあげる。無条件で、全部。オレになら、切り刻まれても、辱めを受けても全てを受け入れてあげる。どんな障害からも守ってあげるよ。絶対にね。君は僕の全てだから」


『ふざけないで! そんなこと、私達のするべき事ではないでしょう!?』


 大喝一声。アレはソレに明らかに敵意を向けており、このまま静観すれば闇の世界の出来事が再現されてしまうかもしれない。

 落ち着いてくれと二人を諭したいオレだったが、中々一歩踏み出せずにいた。

 人外二人が牽制し合っている状況の中に入っていくのが怖くて仕方がなかった。


「僕ねぇ、昔から君がキライだったんだよ。だから、半分はその当て付けかなぁ。君みたいに無理難題を押し付ける女より、僕の方がオレを愛せると思ったんだ。ごめんね?」


『ごめんねって……だからと言って立場や状況も鑑みないで、個人の意思で行動してもいいの? やるべきことをしないで、自分の気持ちだけを遵守すればいいの? それは違うでしょう』


「違わないよ。だってそれが愛だから。

 最初はさ、ちょっかい出すだけのつもりだった。

 でもね、彼のキモチに触れて僕は理解したんだ。この人を守らないとってね! 

 僕は君と違う。取捨選択を永遠に繰り返して心が壊れてしまった君とは違う。慈しむべき相手に平気で喰べるなんて言う君とは絶対に違うねッ!」


『アナタという人は……もういい、知りません……』


 アレとソレのあまりの剣幕に、オレは口出し一つすることが出来ない。アレが空間を引き裂き、影の中へと消え去ってしまったが、まるで蛇に睨まれた蛙のように微動だに出来ない。


「こういうとき、男の子は黙って後を追うべきだよね?」


「あっ、あぁ……そうだな!」


 ソレの言葉でまるで魔法のように硬直が解ける。

 オレはアレの後を追い、影の中へと飛び込んだ。

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