新人類の秘密。この世の真実を知ってくれ。
力が枯渇し、人間に近い状態になっているからこそ、わかる事がある。
新人類の恐ろしさだ。
可愛らしい声、華奢な身体、おどおどした態度、だというのに圧倒的な圧力と威圧感が感じ取れる。
今戦えば確実に負けるとオレは予感していた。
しかし同時に微かな希望も見出している。
突如として現れた少女は、仮面を付けているため表情こそ見えないものの、体全体から温かく柔和な雰囲気も醸し出していた。
殺意の塊とも思えた信長と違い、彼女からは人間味を感じる。
オレは緊張を解き、少女と対話を試みることにした。
「人類を抹殺するってのは冗談で、新人類と戦いたくないってのは事実だ。それより君は仲間と一緒に帰ったんじゃなかった?」
オレの話を少女は黙って聞いている。
漠然と『今の話』とだけ聞かれたため、話の道筋を辿り少女が求めているであろう答えを返した。
「えっと、あはは……転移とか魔法とかまだ慣れていなくて、その、置いてけぼりになっちゃいまして、あはは……は」
悪意も邪念も微塵も感じない。
純度100%の真綿のような無垢さと幼さ。
彼女となら人と人として話し合えるかもしれないと考える。
「そっか、君が望むなら後で送ってあげるよ。オレも質問していいかな。君達は一体何者なんだ?」
レオナルドやエニグマが相手なら成立しない質問だ。
まともな返答が返ってきた試しがない。
だが目の前にいる少女は違った。
拍子抜けするほどアッサリと、オレに対して答えを投げてくる。
「あたしは、月光院 輝夜っていいます。地球の日本から来た学生です。何者って聞かれると、普通の人間? ですね」
少なくとも普通の人間ではない。という野暮なツッコミは無しにして、会話のキャッチボールが成立している。
そんな当たり前の事にオレは感動していた。
「日本って、太陽系第三惑星地球のアジア地域にある島国の?」
「え? はい、そう……ですけど。随分と詳しいのですね」
「マジかよ、オレも日本人だよ! 待てよ、じゃあさっき集団で現れた連中も全員が地球人だったりするのか?」
「えっと、えっと……私達は卒業式の途中、レオナルドさんの力で異世界に連れて来られました。そして不死身の肉体と特殊な能力を与えられ、その……アナタを倒せと言われまして………」
まともな会話ができる事が楽しくて仕方ないと言った様子でオレは喋り続ける。
この時点で輝夜に対する敵意も恐怖も完全に消え去っていた。
「相変わらず滅茶苦茶な奴だな。オレを倒すって理由は?」
「アナタはコードネーム・ペルセウス。エニグマのリーダーで宇宙崩壊を目論む悪の首謀者だと聞いています。本当は倒したくないし、戦いたくもないです。ただ、お家に帰りたいだけで……信長くんとか一部の人達はこの状況を楽しんでますけど……」
「信長くんって、待ってくれ、あれも学生なのか!? どうみても浪人だろ。迫力も半端ないし、何で平然と人を斬れるんだよ!」
オレの疑問は当然だった。
輝夜と同級生となると10代という事になる。
一体どんな人生経験をしたら高笑いしながら日本刀を振り回し、エニグマ相手に大立ち回りを演じる人間になるのだろうか。
なんの躊躇いもなく人を切り捨てる鬼神のような男。
学生というのが事実なら世も末も極まった感がある。
「あはは……確かに彼は普通じゃないですよね。異世界に来て早々に同級生を斬り捨てましたし……。学生時代は寡黙な印象しかなかったので、あたしもビックリしました」
オレは彼女達、新人類についてもっと知りたいと考える。
幸いにもその術はある。
新人類について詳しく調べれば、レオナルドに対抗する手段も見つかるかも知れない。
そう判断し、輝夜に提案を持ちかける事にした。
「えっと、輝夜さん、ちゃん? 君も争いをしたくないと考えているんだよね。だったら、君達の事を知りたいし、オレの事も知ってほしい。同調という能力で、記憶も体験も共有できる。できれば、お互いをよく知り合わないか」
通常であれば、敵対する相手に得体の知れない能力で繋がりたいと言われて受け入れる存在などいないだろう。
だが輝夜もオレを信頼し始めていた。
レオナルドから聞いていた印象とは随分と違う、むしろ異世界に来てから初めて感じたといっても大袈裟ではない人間味と親しみ安さ、優しさに、いつの間にか心を開いて会話をする事ができていた。
「輝夜って呼んでください。あたし、アナタを信じます。アタシも真実を知りたい。全てを知って、あたしの意思で答えを出したいから」
スッと輝夜が仮面を外す。
あどけなさが残る可愛らしい少女が、オレの瞳をジッと見つめる。
「ありがとう。この世の真実を知ってくれ。その上で、君がこれからどうするか決断して欲しい」
オレが輝夜の首筋に触れる。
少女の身体がピクンと跳ねた。
オレは小さく息を吐き、全身に力を集める。
新人類の秘密を探るため、少女に何があったのかを知るために。
能力を発動させた。




