宇宙vs新人類。アンドロメダの瞳。
「最初から全力でやるからな。メア、宇宙と同調する」
オレの両目に銀河が生まれる。星が瞬き、眩い煌めきを放つ。
宇宙の理と一つになり、この世の全てを支配する。
オレが右手を薙ぐと、昼夜が逆転し、世界が月明かりで照らされる。物理法則、事象、因果関係、世界は全てをオレに委ねた。
「なんだっツーんだよ、コレは! 何がどうなってやがる!?」
世界の異常を察知した信長が吠える。
「アンドロメダの瞳、と言うらしい。お前が人としてこの世に存在する限り、オレには勝てない。今のオレは宇宙だから」
大地を蹴り、信長を壊すためにオレは飛び出す。
無から生み出された爆発的な推進力でオレは加速する。
あまりの速さに姿が世界から完全に消えた。
「そんなのアリかよ! ──グァォ!?」
信長の顔面にオレの拳が直撃した。
宇宙の一部となったオレの繰り出す攻撃は、全方位から突然打ち込まれる防御不能の不可視の連撃。
速度は音速を軽く超過し、威力は一撃一撃、全てが必殺。
信長が攻撃をなんとか刀で捌こうとするが、一撃受けた時点で刃が消滅し、柄だけが残った。
「ハッ、ハッハァ! 完全にバケモンだぜ、コイツはよ!」
思わず笑ってしまう。勝負になってもいない。
笑う信長の全身をオレの拳が襲い続ける。
骨を砕かれ、手足が吹き飛ばされても再生はするが、攻勢に出ることが出来ない。それもそのはずである。
対戦相手がこの世に存在しないのだから。
今の信長に出来る事といえば、オレの仲間に手を出したことを後悔しながら一方的に嬲られことしか出来ない。
無限地獄の中で強制的に強いられる懺悔と贖罪。
怒り狂う神様が攻撃に飽きる事を天に祈るしかないのだ。
「わかったよメア。もう終わらせるから」
オレがポツリと呟いた。
信長の祈りが天に通じたか、オレの繰り出したトドメの一撃が深々と腹部に突き刺さる。
嘘のような勢いで信長の身体が重力を無視して一直線に吹き飛ぶ。しばらく空を飛んだ後、地面に落下するも勢いは止まらず、地面を抉りながら大地を転げ回り、ようやく止まることを許された。
天を仰いだまま大地に寝そべる信長はピクリとも動かない。
白目を剥いて泡を吹き、完全に意識を失っていた。
「見ていてくれたか氷駕、オレは勝ったよ」
倒れる信長を一瞥すると、オレの両目から銀河の煌めきが消える。
肉体と精神の過度な酷使に、身体全体が悲鳴をあげ始める。
悪夢のような疲労感、身体が引き千切られんばかりの苦痛に耐え、オレは歯を食いしばり、気合いと根性でなんとか立っていた。
「なるほどお前がエニグマの大将か。想像以上に強すぎるな」
オレが声のする方へと視線を向けると、そこには絶望が立っていた。
崖の上にズラリと並ぶ敵の援軍。
数十はいるであろう仮面をつけた男女の集団が月を背に疲労困憊のオレを眺めている。
「なんだよ、まだいたのか。やるならやろうぜ、こいよ」
とても戦闘を続行できる状況ではない。
オレ自身が一番よく理解している。だが見栄と虚勢で声だけはなんとか出していた。
「無理しなさんなって、お前さん、限界なんだろ?」
仮面の男が、オレの心情を見透かすように言い放つ。
オレは無理矢理に笑顔を作り、静かに首を横に振った。
「アナタ、見苦しいですよ。自分の弱さを認めなさい」
「黙っていろジャンヌ。お前さん、レオナルドと協定を結んだってな。今回の信長の行動は完全なる独断だ、俺達の意思ではない。だからこうしよう、俺達はこのまま黙って引いてやる。だからお前さんは今日の出来事を忘れるんだ、いいな?」
言うや否や、仮面の男が倒れる信長の側まで転移し、抱き上げる。
「あんたも元は人間なんだろ? 難儀だよな、お互いにさ。よし、引き上げだ。敵の大将の御尊顔も拝めたし、約束は約束だからな」
その場を去ろうとする男の腕をオレが掴んだ。
それだけで身体中に激痛が走り、苦痛に表情が歪む。
「待てよ……まだ終わってない」
「……嫌でも三年後、潰しあうんだ。御自愛願うぜ、神様よ」
意地でも戦おうとするオレに、仮面の男が悲壮的に囁く。
仮面の集団は信長を連れて去っていった。
気が抜けた途端、オレは地面に大の字で倒れる。
「あー……しんど…………」
月を見つめ、オレは小さく呟いていた。




