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エニグマvs全人類vsダークマター。宇宙最強ラスボス会議。②

 

 転移能力によって一瞬で宇宙空間に飛び出したオレは、10番街を眺めているレオナルドに掴まれている腕を振りほどく。


「レオナルド、お前滅茶苦茶だな。オレ達は敵同士だろ」


「私達の仲だ、レニーと呼んでくれないかな」


 星を見つめたまま、レオナルドは語った。


「どんな仲だよ、人を一方的に世界の悪に仕立てやがって……」


「その必要があったからさ。しかし、一部の部下の中には君を神話の英雄ペルセウスだと盲信している者もいる。人類には直感的に救世主を見抜く能力があるらしいな。第六感ってやつかな」


 オレはアリシアを救出に向かった際に出会った人類の研究員のことを思い出していた。

 彼等はレオナルドの配下でありながらオレに好意的であり、会話の中で人と人としての調和が取れていた。

 結果的に彼等は惨殺されてしまったが、人類とエニグマという垣根を超えて共存共栄が可能なのではないかと密かに感じていた。


「お前さ、人間の肩を持つような発言をしているが、結局は人類とエニグマを殺し合せたいだけだろ。お前さえいなければ、人類もエニグマも今までやってきたように、一定の距離感で平和に暮らせていたはずなんだよ。やっぱり、お前のやってる事は間違っている」


「……だとしたら、私はこの世に生まれていないよ。私は何も好きで今のように振る舞っているわけではない。全てが必然であり、予定調和なのさ。世界はなるべくして、こうなったんだよ」


「詭弁だな。世界は誰か一人の意思で動くべきじゃない。やはり、お前は世界にとって必要ない存在だよ。なぁ、()()()


 レオナルドがここに来てようやくオレの瞳を見つめる。その瞳には憂いに怒り、羞恥、同情、親愛、全ての要素が含まれている。

 

「少しは神様らしくなって来たじゃないか。いい兆候だ。さて、そろそろ本来の目的に移ろうか。暗黒物質(ダークマター)との対談だ」


 レオナルドが革手袋を外し指を鳴らすと、宇宙に歪みが生じた。さながら小型のブラックホールのような事象のそのど真ん中に、オレを抱え上げて一気に飛び込む。


「おい、ちょっ、何しやがる! ──うぁっ!」

 

 オレの抵抗虚しく、二人の肉体は宇宙空間から消えた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 宇宙空間の()()

 世界の真理と呼ばれる世界。

 天国、浄土、桃源郷、ニライカナイ、ユートピア、様々な名称で呼ばれているその場所に、()()は存在していた。


「よう! 暗黒物質(ダークマター)のダンナ! 隠れてないで出てこいよ!」


 腕にオレを抱えたまま、軽妙な声音でレオナルドが叫ぶ。


「やめろ、いい加減におろせ、恥ずかしいだろ」


 体全体で抵抗を示し、オレはレオナルドの腕の中から飛び降りた。それをレオナルドは涼しい笑顔で眺めている。


『久々の客人か。大方、エニグマが我々を殺しに来たか』


 世界の端々から声が聞こえる。

 煙のような、ガス状の闇が周囲に漂い、オレとレオナルドを警戒するようにして動向を伺っている。


「これが暗黒物質(ダークマター)? ただのガスじゃないか」


「油断したらダメだ。彼等は宇宙そのものだからね。よろしい、オレくんのためにわかりやすく擬人化してあげようか」


 オレの耳元でレオナルドが囁き、両の手に光を収束させる。

 その輝きには見覚えがあった。3番の創造の能力である。


「お前……それは3番の能力だろ? 何でもできるのかよ」


「前に言わなかったかな? 私は全てなのさ。エニグマの能力も当然使える。私はレオナルド・オムニ・エンドだからね」


 オレの問いかけにレオナルドは悪戯な笑みで答えた。

 レオナルドの底が見えずにオレは呆然とする。

 全てが規格外。敵として見たら、これ以上に恐ろしい相手はいない。

 レオナルドが光の波動を放つと、数秒もせずに男性が一人、()()()される。

 彫の深い顔に鋭い眼光、ダブルのスーツと中折れ帽子で着飾り、手にはステッキを持っている。


「宇宙誕生当時から生きている彼等に敬意を表して、暗黒街の首領(ドン)をイメージしてコーディネートしたのだが、オレくんどうかな?」

「アースゴイネー、ワカリヤスイネー」


 レオナルドが茶目っけタップリに尋ねて来たが、オレはめんどくさかったのか、感情ゼロの棒読みで返した。


「くだらん、実にくだらない存在だレオナルド。まず貴様から殺してやろうか」


 威厳と深みのある声でダークマターがレオナルドを恫喝する。


「残念! 私は死なない。怒らなくても、その顔の方が渋くていいじゃないか。散歩するにも足があるほうが便利だろう?」


「黙れ……我々はこの小僧に興味がある。ゆっくり話をさせろ」


 レオナルドに侮蔑の目を向け、ダークマターはオレを指差した。


「ああ、いいよ。何でも聞いてくれよ。隣にいる軍服のアホと違ってオレは場をわきまえるからさ。おふざけはなしだ」


 オレの言葉が愉快だったのかレオナルドが膝を叩いて笑いだす。

 

「小僧、貴様は見たところ半分は人間だな。お前なら、何か知っているだろう。我々を長年に渡り悩ませるエニグマとは何だ、正体を教えてくれ。どうしても、この宇宙から排除したいのだ」


 射抜くような視線で、本質を見抜こうとするダークマター。

 はぐらかすことや、虚偽は通じないだろうと判断したオレは、ありのままの事実を伝える事にする。


「さあね、オレが知りたいくらいだよ。

 まずエニグマってのはレオナルドが付けた仮称で正式名称じゃない。正しい名前は別にあるみたいだな。オレの友人は世界そのものだって言ってたし、また別のやつは、人類にとって身近な存在だとか言ってたな。何が何だかさっぱりだ」


 短い沈黙の後、ダークマターが顔のシワを揺らしながら、くつくつと笑い出す。


「世界そのもの? そいつは違うな。世界とは人類のことだ。現実に生きていて、毎日に変化を与えている。つまり人類こそが世界だ。ここまではわかるな?」


「さっすが、大先生はいいことおっしゃる!」


 くだらない相槌を入れてきたレオナルドをダークマターは睨みつける。空気を読んだのか、早々に飽きたのか、レオナルドは黙り込んだ。


「我々、暗黒物質とは宇宙の意思、宇宙のどこにでもいる、宇宙を構成している一つ一つの要素そのもの、つまりは宇宙だ。

では、お前らは何だ? 宇宙が存在する前から全てを支配し、自分達の思うままに全てを塗り替える。完全なる化け物。我々は過去に何度もお前達を滅ぼそうとした。結果は惨敗だったがな。宇宙で一番強いはずの宇宙の意思ですら勝てない存在。つまりは何だ?」


「オレもいくつか考えてみて、なんとなしには心当たりがある。だが断定はできない。多分、オレが人間を捨てれば全てを理解できるんだろうけど、人間に戻りたいって意思もあるし、悩みもんだな」


 オレは複雑な表情を見せる。

 真実を知りたいが人間に戻りたい。だが世界を救うためにはどうしても力が必要なのも事実であり、答えを出せないでいる。


「誰にもわからない謎だからエニグマなのさ。勿論、私は正体を知っている。暗黒物質も人類もよく知っているものさ。聞いて理解できないものではない。気になるだろう? なんなら、教えてやろうか?」


 レオナルドの言葉を聞いた途端、オレと暗黒物質(ダークマター)がほぼ同時に視線を向ける。

 レオナルドは注目を浴びて喜ぶ無垢な子供のような笑顔を見せた。

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