エニグマvs全人類vsダークマター。宇宙最強ラスボス会議。①
10番街住民との同調後、オレは白目を剥いて倒れ込んだ。一度に多くの感情を受け止めすぎて、精神がパンクしたことが原因であった。
それから丸三日間、オレは眠り続けている。
神が不在の三日間、新生10番街をナビは一人で切り盛りしていた。約60億人の住民を惑星へと運び込み、全くの更地であった大地に緑を植え、地を耕し、急拵えではあるが住民が暮らすための住居を建造した。
途中、『ナビさんがいたら神様いらなくね?』という住民の心無い声に憤慨する場面はあれど、愚痴一つこぼすことなく、懸命に星のために労を惜しまず働いている
彼女の存在理由は10番に尽くすこと。
つまりは全てがオレのため。それが彼女の幸せだった。
「あーあーあー、おっ、おはよ、違うわね、いい朝ですね! これも違う。私史上最高の挨拶をするためには……うーん」
そんなナビは悩んでいた。
自らの主であり、10番街の神であるオレの起床時の挨拶をなんとするか、それだけを、かれこれ8時間近く考えている。
挨拶をどうするべきかヤキモキしていると、死んだように眠っていたオレの瞼がゆっくりと開くのがわかった。
ナビは一瞬で憂いを振り払い、太陽のような笑顔を作る。
「おはようございます!」
「あれ、いつの間にか寝てたのか」
「はい。三日ほど」
「三日も!?」
「一度に多くの感情が流れ込み、精神への負担に体が耐えられなかったのだと思います。今、精神面は安定していますか?」
寝ぼけ眼を擦るオレにナビが優しく尋ねる。
「精神は大丈夫だけど、オレの挨拶、酷かったろ? 結局みんな、先代の神とナビさんについてきたようなもんだし、頼りない神でごめんな」
「いえいえ。ご立派でした。最初から信用を得ようとせず、ゆっくりと時間をかけて住民と打ち解けていきましょう!」
オレは嘆息した後、深呼吸する。
そしてゆっくりと世界を見渡す。
何もなさすぎて、地平線の果てまでも見渡せる。
これが自分が守るべき世界。美しい世界。そう認識する。
「まっさらだけど、いい星だな。好きになれそうだ」
澄み渡る青空。
野を駆ける動物達
無邪気な笑顔の子供達。
そして軍服を着たレオナルド。
「え?」
2メートルを優に超える長身。
人類が百人いれば百人ともが見惚れるだろう端正な顔立ち。
世界を照らすような金髪に、世の全てを見透かすような碧眼。
服の上からでも見て取れる鍛え上げれた肉体美。
完璧という言葉を体言しているかのような男、レオナルドがオレの目の前に立っている。
「オレ、まだ夢見てるのかな? ナビさん少し強めに殴ってくれ」
「え!? オレさんの要望ならば、失礼します!」
ベチン!
ナビが遠慮がちにオレの頬をはたいた。
痛みを感じたので夢ではないことを確認する。
「やあ、久しぶり。いい星を作ったな。オレくん、元気してた?」
白い歯を見せ、爽やかな笑顔でレオナルドは語る。
「……てめえ、何しに来やがった! ラスボスがいきなり現れんじゃねえよ!」
「はは! 元気があってよろしい。悪役が常に城の最奥で待ってる時代は終わったのさ。あっ、世界的には君が悪役だったね! 失敬失敬」
悪びれる様子もなく、純然たる笑顔を見せる。
心からの笑顔だと理解できるだけに、余計に腹が立つ。
オレは拳を強く握り込み、食い掛かるように言葉を投げる。
「てめぇがそう仕向けたんだろうが! ナビさん逃げてくれ、オレがもしこいつを止められなかったら、氷駕でも誰でも、援軍を呼んでくれ」
「わかりました。無理はしないでくださいね」
ナビが姿を消すのを確認すると、オレは構える。
それを見たレオナルドは何を思ったか、原っぱに寝転び、ノンビリと欠伸をしながら雲を見つめている。
「あー! それにしてもいい天気だ。一緒にランチでもどうだい? いい店、知ってる?」
「星が出来たばっかで店なんてねえよ。稲妻ならいくらでもご馳走してやるぞ」
オレは寝転がるレオナルドに向けて稲光を放ち威嚇する。
レオナルドは面倒くさそうな顔を見せて寝返りを打った。
「よせよ、品がない。仮にも神になったんだろう? もっと余裕と威厳を持ったほうがいいよ? 今のままじゃ、君はただのチンピラだ」
「うるさい、目的は何だ、ちなみにあのクソみたいな演説は効果なかったみたいだぞ。誰もお前を信用していない」
レオナルドは反動も付けずに飛び起き、オレの顔を覗き込む。
「クヒッ! そうだろう。そう思うだろうね! でもあれでいいのさ! 実は君の同調能力、私も使えるんだ! しかも私のは完全同調。演説の中身なんてどうでもよくて、私はあの時、全宇宙の生命と同調したのさ!」
完全同調とはこの世の全てを操れる。つまり、世界はレオナルドに支配されたも同義。その事を知っているオレは、心の底から恐怖した。
吸い込まれそうになる碧眼を見つめ、オレは震えた声を出す。
「お前……嘘だろ、そんなことが……」
「出来るんだなぁコレが! つまり、つまりだよ? 私は今、全人類と繋がっている! 全宇宙の生命は既に私が掌握した事になる! その気になれば、私の合図一つで、この世に生きている全ての生命が私の忠実なる兵士に変わるのだ! どうだい、すごいだろう? だから10番街の住民も黙って返してやったのさ」
「待て、だとしたら演説を聞いたオレ達もそうなるのか」
「安心してくれ、それはない。エニグマも暗黒物質も私達が討伐する対象だから効果は適用されないんだよなぁ! ホッとした? 安心したよなぁ! まっ、元々支配出来るもんでもないのが君達なんだがな。厄介な存在だよ。でもまぁ、とりあえず全人類が人質って事には変わりない。世界はエニグマではなく、人類によって支配されるべきだ。例えそれが私だけの意思だとしてもね。異論は認めないよん」
「てめえ、マジで本物の悪党だな。あの時に殺しておくべきだったか……」
「そんな怖い顔するなよ。私は君の事が好きだからね。ちなみに小耳に挟んだのだが、暗黒物質の討伐を頼まれたらしいな?」
情報が筒抜けになっている事にオレは驚きはしなかった。
レオナルドには常識が通用しない。身をもってわかっている。
同調が使えるなら心を読まれた可能性もあり得る。
結局のところ、レオナルドという男には対話など意味はなく、ただただ悪意の渦の中に巻き込まれるしかないのだ。
「お前に好かれても全く嬉しくない。ダークマターを倒せと言われたのは事実だが、だったらどうした。手伝ってくれるのかよ。オレとしてはお前達が潰しあってくれると楽なんだがな……」
段々と真面目に話し合うのがバカらしくなってきたオレは、茶化すように、挑発するように言葉を送った。
「それも面白いな! 今すぐいこうぜ! この宇宙のトップ三人、ラスボス会議としゃれこもう」
皮肉も冷やかしも通用しない。
レオナルドという男は全てを純粋に楽しんでいる。
レオナルドがオレの腕を取り、闇の中へと引き摺り込んだ。




