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10番街復活。再始動。


 鋼鉄製の扉は固く閉ざされている。

 複数の電子ロック、指紋認証、虹彩認識、様々な仕掛けで侵入者が立ち入る事を頑なに拒んでいた。


「……確か同調(シンクロ)って無機物にも有効なんだよな」


 オレが呟き、能力を発動させる。

 感情がない分、人よりも簡単に同調は成功した。

 電子音と共に全ての施錠(ロック)が一斉に解除され、主人を招き入れるが如く、鉄製の扉が両開きに開かれた。


「さすがです。応用力も抜群ですね!」


 ナビの賛辞の言葉を気恥ずかしく思いながら、オレは扉の中へと足を進める。

 中にいたのは大勢の人。

 一体どれだけの人数が収容されているのか判別がつかないほどの人種が一箇所に集められていた。


「これ、どうなってんの? 数万? いや、もっといるのか?」


 困惑の表情でオレが呟く。

 ナビは倉庫内の周囲をグルリと見渡し、唇に指を当てる。


「消滅以前の10番街には、およそ57億9500万の生命が生きていました。恐らく、その全てが今この場にいると思います」


「うぇ!? マジに? だって明らかに倉庫の容量(キャパ)を超えてるでしょ……」


「ええ。ですから、この倉庫内は異次元領域のはずです。敵の中に次元を支配し、操れる能力者でもいるのでしょう」


 物理的に考えてもナビの判断が正しいだろう。

 それよりも何よりも、住民が無事に生きている事実をオレは嬉しく思っている。


「──オレさん!」


 群衆を掻き分けながら、少女が走ってくるのが見えた。


「ルナ! 久しぶりだな。怪我はないか? 酷い事されてないか」


 少女の顔を確認したオレは、天使の少女に優しく問いかける。


「はい! 平気です! オレさんなら必ず助けてくれると信じていました!」


「ヤァ、やっぱり君が助けに来てくれたのか。俺達のことを覚えているかな?」


 二人組のドワーフが朗らかな笑みを浮かべて立っている。

 オレはしっかりと二人の顔を覚えていた。


「ああ、もちろん! トッドさんと、パイルーだっけ、覚えてるよ。パイルーさんは黒焦げにしてごめんな」


「アッハッハ! そう、お前、文字通りカミナリを落とされたんだったな! ハッハッハ!」


「からかわないでくれよ、思い出すだけでも体が痺れてくるよ」


 過去の苦い思い出を笑い飛ばしているドワーフ二人の人柄の良さと、友情の深さが垣間見え、オレは自然と笑みをこぼした。

 

「オレさん、そろそろ本題に移りましょう。

 一応ここは敵地のど真ん中ですから、ノンビリはしていられません。簡単にでも事情を説明してあげてください。貴方は神なのですから、臆せず、威厳を持って話してくださいね」


「ああ、わかったよ。でもいきなり60億人と同調(シンクロ)なんて出来るかな」


 オレは同調能力を発動する。

 効果範囲は倉庫内全体。

 住民一人一人と繋がる余裕はなく、自らの言葉を届ける事のみに集中して、力をセーブする。


「突然だけどオレ、10番街の神になったから。これからはオレが皆んなを守るからさ、もう今回みたいな事はないと保証するよ。昔の10番街は消えたけど、新生10番街を皆んなと、一からやり直していきたいと思う。新米の神で申し訳ないけど、力を貸してほしい」


 オレの声は間違いなく住民の胸へと届いている。

 しかし住民達の間にはザワメキが起こっていた。

 神が現れるという突然の出来事を受け入れる事が出来ず、軽いパニック状態に陥っている。


「ここからが、正念場ですね」


 オレの隣でナビが小さく呟いた。

 このままパニック状態が続けば、収集がつかなくなる。

 否が応でもオレの神としての資質が問われる状況になる。


「ちょっと質問いいかな」


 群衆の中の一人が手を挙げる。


「あー、はい、どうぞ」


「この無理矢理話しかけてくる感じ、なんか知ってるんだよな。俺達を攫ったレオナルドって奴が使った手段だろ? そいつが頭の中で言っていたが、アンタはエニグマって化け物で、世界を滅ぼそうとしてるって言ってたっけな。そんなヤツの仲間になるなんて俺はごめんだぜ」


 男の言葉によってザワメキが一層大きくなる。

 オレは表情を崩さず、真摯な態度で言葉を紡ぐ。


「半分正確で半分は間違いだ。オレは確かにエニグマになりかけているが、世界を滅ぼそうなんて考えていはいない。いきなり神なんて言われても信じられないよな。今この場で証明することは出来ない。だから、オレは言葉を送るよ。オレを信じてくれ。

誰一人、欠けることなく全員で平和に暮らしたいだけなんだ」


 パニックは一転し、今度は水を打ったような静寂が訪れる。

 住民一人一人が同じ事を考えているのが伝わってくる。

 突然現れた神を名乗る男を信じるかどうか。

 オレには住民の動向を見守ることしかできない。

 同調の能力を利用して無理矢理に懐柔させることもできる。

 だがそれだけはしたくなかった。

 人間として人を信じていたかった。力ではなく心で繋がる事ができなければ、世界に平和は訪れることはないと感じていたから。


「オレさん、立派です。貴方ならきっと10番街を素晴らしい世界に出来ると私は確信いたしました。微力ながら私もお手伝いさせていただきます」


 ナビがオレの肩にそっと手を触れる。

 そして子を慈しむ母のような表情でナビは住民に語りかける。


「皆様、私は10番街が銀河に誕生した瞬間から全てを見てきました。先代の神、アリシアさんと協力しながら、人の進化と真価を目の当たりにしてきました。

 ここにいる住民の一人一人を私は全て把握しています。

 様々な自然災害、戦争、疫病、目を覆いたくなるような苦難困難をあなた達が乗り越えて来たのを知っています。

 あなた方が(アリシア)を信じ、神の恩恵を糧に努力してきた事実を知っています。

 神も人を、貴方達を信じていました。神としての任を全うし、命が尽きるその瞬間まで、(アリシアさん)は10番街の住民全ての幸福を祈っていました。

 貴方達を愛してやまないアリシアさんが、全てを託したのがここにいるオレさんなのです。

 最後に私からもお願いします。神が愛した10番街は、貴方達なしには存在する意味がないのです。

 どうか、神の意思を継いでください。一度は消えた10番街を、皆様自身の手でもう一度甦らせましょう」


 ナビの言葉が終わると、どこからともなく、ポツポツと歓声と共に拍手が起きる。

 小さな渦はやがて荒波となり、喝采と歓声が世界を覆う。

 住民と同調しているオレの心に、喜びと祝福の感情が傾れ込んでくる。

 

「良かった、何とかなったのか、……あれ、力が、足が……」


 住民達の喜びの表情を眺めながら、オレはその場に倒れ込んだ。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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