戦闘機vs氷駕龍。完全同調への道。
「全員無事か?」
爆煙が晴れるのを待ってオレは尋ねる。
聞くまでもなくナビも氷駕も無傷で立っていた。
「ああ、爆薬によるただの自爆だ。俺達には通用しない。今のはダメージを与えるというよりは、情報漏洩を防ぐための自決だろう。それよりも第四惑星と言っていたな。モノのついでだ、協力してやる。29番、俺達を運べ」
「運べって……私はタクシーではないのですよ。まぁ、今回は10番街の住民の命が掛かっているので運びますけど……」
銀河の果てに人工的に作られた惑星がある。
人工太陽を中心に公転している10の惑星は、それぞれが調停者が活動するための重要拠点として機能していた。
銀河の各地からエニグマ打倒のために集められた人類、異人種、創造種などが堅牢な守りを固める第四惑星の要塞のど真ん中に、三人は降り立った。
「ここが第四惑星か。綺麗な星だな。ナビさんは、この場所知っていたの?」
侵入者の存在を伝えるサイレンがけたたましく鳴っている。
そんなことはおかまない無しにオレ達は会話を続ける。
「はい。我々は全宇宙を掌握していますから、よほど特殊に偽装でもしない限り、隠れ家を作るなんて不可能です。レオナルドもそれを知っていて敢えて擬似的な天体を作っているのでしょう」
「俺は全て破壊してやればいいと3番に提言したのだがな。他の奴らに様子見をしろと止められた」
「まあ、そうだろうな。やっぱり意味もない殺戮はするべきじゃないとオレも思うよ」
地雷原をピクニック気分で歩いて渡る。
途中いくつか地雷を踏み抜いてしまうが、足元で爆発が起きたところでダメージはゼロなのだから、気に留めることもない。
監視カメラもトーチカも鉄条網も、障害物は一切合切薙ぎ払う。
「なあ、オレ達が無敵なのも世界にとって意味はあるのかな」
「当然だな。お前も直に気づく。我々こそが世界なのだから」
「うーん? 少し違いますね。私達は今の宇宙ができる前から存在しているので、世界の真理は超越してますから」
「うるさいぞ29番。俺はオレにわかりやすく説明してやっているだけだ。そんなことは理解している。俺は本質の話をしているんだ」
一頻り暴れ回ったあと、7番倉庫にたどり着いた。
中へ強引に入ろうとするが、扉は固く閉ざされている。
重装備の警備兵達が慌てた様子で駆けてくる。
一目見ただけでわかる。彼等は普通の人間だった。
14番の能力を行使することも、エニグマの肉体を切り裂くような事もないだろうと氷駕は判断し、殺意を胸に前へ出る。
「扉を開けろ。さもないと皆殺しにする。扉を開ければ、その後で八つ裂きにしてやる。どちらか選べ」
オレが眉を顰める。選択肢のようで、そうではない。最初から殺す気しかないのだ。
「まて氷駕、殺す必要はない。同調の力を使ってみる。上手くいけば犠牲を出さずにすむかもしれない」
「言ったはずだ、人類など皆殺しにしてやればいい。こいつらがいるから悪が生まれて、事ここに至るんだろうが。諸悪の根源は常に人類だ。根絶やしにしてやる」
「だからさ、人類全てが悪いわけじゃないんだって。レオナルドに操られてるだけかもしれないし、一人一人が本当に正義のために考えて動いているとしたら、分かち合えるかもしれないだろ」
オレと氷駕が口論を始める。
ナビはもはや見慣れた光景に頭を抱えていた。
「隊長、仲間割れをしているようです。どうしますか」
「発砲を許可する。射殺しろ。援軍も呼べ。徹底的にやるぞ」
警備兵達がライフルで一斉掃射を開始する。
空からきた戦闘機の援軍も三人のエニグマに向けて絨毯爆撃を仕掛ける。
一瞬にして世界は炎に包まれた。
「ほうら見てみろ。お前が話し合いで済まそうとしていた相手が俺達を殺しにかかってきたぞ。やはり猿は猿だな。駆除するぞ」
濛々と煙が立ち込める中、オレの目を見て氷駕がキツく言い放つ。
氷駕が飛び出していくのをオレは止められなかった。
「己の事しか考えない猿野郎が、生まれてきた事を後悔しやがれ。氷柱風囲撃」
氷駕の全身から氷の刃が飛び出した。
トス、トス、トス。
銃を構える男達の額に、風に乗った氷柱の先端が小気味のいいリズムで突き刺さる。
次々と死んでいく仲間を見た兵士達が銃を投げ出し、一目散に逃げていく。
氷の刃は逃走すらも許さない。
トトン。
背中に無数の氷柱が突き刺さり、命を刈り取る。
地上にいた兵団はものの数秒で全滅した。
「逃げるくらいなら最初から勝負を挑むんじゃねぇ。喧嘩するなら相手を選べ、猿」
氷駕が天を見つめる。
目障りなハエを撃墜したかった。
両手に凍気を集めて空へと放つ。
「氷駕龍」
氷の結晶が集まり、固まり、龍となる。
天を優雅に翔ける氷龍が戦闘機を丸呑みにしていく。
「なっ、なんだこれは! 氷の……龍!?」
大空で編隊を組む戦闘機がミサイル、機銃で応戦するも、氷の結晶が砕けてはまた凝固するだけで意味がない。
反転、錐揉み、急加速、いかなるテクニックを用いても空翔ける氷龍を振り切れない。
「くっそぉ! 人類の平和のために!」
複数の戦闘機が無謀にも特攻を試みるが、氷龍の鱗一つ剥がすことが出来ずに爆散していった。
「隊長、指示を、指示を願います。ミサイルも効果ありません」
「……総員退避だ」
「できません! 操縦桿が凍りついてます。操縦不能、操縦不能」
落下していく戦闘機は全て、龍の腹の中に収まった。
陸にも空にも、敵意を向けていた人類は存在しなくなった。
「お前さ、なんでそこまで人類を憎むんだよ。確かに悪い奴らもいるけど、そこまで毛嫌いするほどではないだろ」
オレはやるせない思いを氷駕にぶつける。
氷駕は冷たい表情のまま黙っていた。
「氷駕さんも昔、自分の星を持っていたんです。ですが利己的な人間が多過ぎて……」
「黙れ29番。それ以上、口を開けば貴様も氷漬けにする」
氷駕がナビの言葉を途中で制する。
「所詮は人間のお前に俺の気持ちなど理解できんだろうさ。14番と異形の人類について報告してくる。オレ、死ぬなよ」
凍気を残して氷駕は去っていった。
「彼も彼なりにオレさんを気遣っているんだと思います」
「わかってるよ、ナビさん、それはわかっているんだけど……。扉を開けようか。皆んなが待ってるから」
「待ってください。少しだけ、お時間よろしいですか?」
「ん?」
「これからは貴方は神として、人前に出る事になります。なので同調の練習をしましょう。人の心を理解できないようでは神とは言えませんから。今度は相手の肉体に触れずに同調してみてください。私の心を読む事ができれば成功です」
オレが同調の能力を発動させる。
目の前にいるナビと波長を合わせ、一体となるための行為。
ナビが心を開いてくれているためか、同調はすんなりと成功した。
相手の意識を読み取り、思考すらも感じ取る。
『オレさん頑張って!』
「聞こえた! 頑張ってって、ありがとな!」
「素晴らしい! 同調を極めることが出来れば、同調は完全同調となり、この世の生きとし生けるもの、この世の理全てを自在に支配できるようになります。これは本来の能力者であるアリシアさんでさえ成し得なかった事ですから、並大抵の努力では足りませんが、少しずつ頑張りましょう」
世界を支配するつもりはなかったが、オレは強く頷いた。
「全てを支配って、この能力は便利すぎないか?」
「色々と制約もあります。心に鍵をかける術を知っているものと同調するには工夫が必要ですし、能力を使用するたびに精神に莫大な負担がかかります。使い所を見極めるのも大事ですよ!」
「わかった。色々試してみるよ。さっ、扉を開けるぞ」
オレは10番街の住民が待つ第7倉庫の扉に手を掛けた。




