初めての同調。人類の底力。
「生け捕りにするって、具体的にどうするんだよ」
「だからそれを今から考えるんだろうが」
オレの問いかけに氷駕は苛立ちの表情で答える。
捕獲対象が人類であることに間違いはないものの、無敵で不死身のエニグマを切り裂く攻撃能力を有し、絶対零度の世界の中で平然と行動するなど耐久力に関しても尋常ではない事がわかっている。
それに敵は個ではなく群。
オレと氷駕が力を練り込み、ようやっと一人倒すのが精一杯であった敵が、ビルの中からウジャウジャと湧き出して来たのは記憶に新しい悪夢だった。
「真っ向勝負で行ったら、数の暴力で切り刻まれるよな?」
「ああ、コチラが二人に対して敵は軽く見ても30はいた。ビルの中にもまだ伏兵がいるとなると、完全にお手上げだ」
「じゃあさ、オレが破壊の力でビルごと消滅させようか。奴等が出てくる前に力を溜めて一気に解き放てば倒す事はできると思う」
「お前は愚かだな。敵を調べるために生け捕りにというのが今回の目的だろう。少しは考えてモノを言え。お前は殺人マシンか」
「ムッ、氷駕が何も意見を言わないから、苦し紛れでもオレが変わりに考えたんだろ! 大体いつもお前が殺せ殺せ皆殺しにしろとかいうから、オレも感化されたんだ。殺人マシンはお前だろ! 大体、オレの方がランク的に上なんだから、少しは敬えよ」
「お前がジェイドだった頃から俺は今のランク付けに納得していなかった。戦闘力的にも精神的にも俺のほうが上だ。なんなら試してみるか?」
「やってやるよ! 氷駕は最初からそうだった。上から目線で偉そうにして、男らしく白黒つけよう」
議論が進むに連れて喧嘩が勃発し、完全に論点から逸脱していた。
雷光と冷気が鬩ぎ合い、不毛な争いが始まろうとしている。
「私なら、簡単に隔離できますけど?」
男達の諍いを冷ややかに見ていたナビが発言するが、オレも氷駕も喧嘩に夢中で気付いていない。
ナビはうんざりとした様子でため息をこぼす。
「男ってホントばか。10番の冷静さが懐かしい。私がしっかりしないとオレさんはダメね……」
ナビが呆れ顔で能力を発動させる。
オレと氷駕の身体が強烈な浮遊感に包まれ、世界が暗転する。
気がつけば先程まで戦闘をしていた惑星に舞い戻っていた。
ビルの前には14番の力を行使した人類が時間を止められたかのように静止していた。
直立不動のまま、ズラリと立ち並ぶ人類はマネキンのようにも見える。
「なんだこいつら。もしかして機械か何かだったりするのか」
「気をつけろ、無闇に近寄るな」
オレが一歩、足を踏み出した途端に人類は活動を再開させる。
男達が一斉に拳を突き出し、魔力を収束させていく。
大気が渦を撒き、翠色の光に世界が染まる。
「オレさん。話していた敵はあれで間違いないですね?」
今にも真空波が飛びだそうとしているのを見てナビが早口に尋ねると、オレも素早く頷いた。
「対象は四人。飛びますよ、転界群瞬!」
翠色の光を掻き消すように広がる朱色の閃光。
ナビが発動した瞬間転移能力により、手近にいた人類を一人連れ去り、四人で異空間へと身を移す。
辺りは一面の白。
ナビが創り出した固有空間の中心点にオレと氷駕、それに得体の知れない不気味な男が一人、ポツンと佇む。
「また止まってる。一体こいつらは何なんだ」
オレが微動だにしない正体不明の敵を眺めながら呟く。
見た目は軍服を着た普通の人間。それ以外に感じるものはない。
「恐らくは群れを支配している能力者がいるか、何か動くための条件が必要なのだろう。あの惑星に現れる侵入者を抹殺しろ、と命じられているとかな。どちらにしても調べるには都合がいい」
言いながら氷駕が冷気の弾丸を飛ばす。
男の腕に弾丸が直撃すると、瞬時に凍結し、パキンと音を立てて砕け散る。
直後、シュルシュルと音を出しながら肩口からグロテスクな触手が飛び出し、細胞を増殖させながら男の腕が再生していく。
ものの数秒もせずに砕け散った男の腕が完璧に復元された。
「寄生体か? いや、今の触手は邪神のそれに近いな。クソ、生態分析に長けていたのは9番だったな。連れてくるべきだったか」
憎々しげに男を睨み、氷駕が舌打ちをする。
「9番ってノノだよな。あの子は今いないよ。オレ達でなんとかするしかない。14番の力を使い、肉体が再生もする。これってもしかしてオレ達と同じ原理の能力じゃないのか?」
オレの言葉に氷駕が目を見開き、すぐに嫌悪に満ちた顔となる。
「こんなものと俺達を一緒にするな。こいつは酷く不完全で醜悪なただの模倣品だ」
氷駕が怒りをあらわにする。どうやら人類と同一視されたことが頭にきたらしい。
「9番がいなくても、今のオレさんなら敵の正体に近づけるかもしれませんよ?」
「え、オレ?」
「はい。10番の能力は【同調】無機物、有機物、関係無しにシンクロできます。能力を極めれば世界の一部にもなれます」
ナビの説明を聞いても、オレは首を傾げることしかできない。
10番から上の存在は規格外だとナビは話していた。
現にアレスティラは時間を支配していたし、エドは惑星規模の破壊能力と天地創造レベルの再現能力を有していた。
だが同調という馴染みのない言葉はピンとこない。
11番から20番までの能力。"属性を支配する”という単純明快で強いという能力ではないだけに、今のオレにはいくら頭を捻ろうが答えを見つけられそうになかった。
「えーっと、同調って?」
「そうですよね。いきなりは難しいと思います。ではこの人類で試してみましょう。対象者の肉体に触れて、意識を統括、一体になる感じでイメージしてみてください」
ナビに言われるがまま、オレが男の肉体に手を当てる。
頭の中に他人の思考、記憶が流れ込んで来る。魂が連結する。
オレはオレであってオレではなくなるような感覚に陥る。
他者という存在を介して世界を俯瞰で眺めている。
「待て、怖い怖い。なんだこれ……」
「意識をしっかりと持って、逆に支配してください」
『わかった、なんかいけそうだ。氷駕、……何か質問してくれ』
オレが手を触れている男の口で、男の声で氷駕に話しかける。
氷駕は仰天しているが、ナビは満足気だ。
「……お前はなぜ14番の能力を持っている」
『レオナルド様から授けられた力だ。人類は一つとなり、必ずや貴様達を殺す。貴様等が虫ケラのように見ていた人類の力で、お前達は滅びるのだ。そのために肉体を捧げる。滅びの先にあるのは救い』
オレが男の深層意識の中の記憶と感情を抜き取り、言葉にして氷駕に送る。オレは同調を初めてにしては上手く使いこなせていた。
「ふざけたことを抜かしやがる……。オレの願いも聞いてやるか。10番街の住民は今どこにいるんだ」
『ナイスだ、氷駕。……だっ、だい、第四惑星の、7番倉……庫。ののの能力を抜かれ、用済みだ。近く、処分さ、、れる』
段々とオレの息が上がってくる。
初めての同調作業に精神が限界を迎えようとしていた。
「オレさん。そろそろ能力を解いてください」
『あぁ、わかった。待ってくれ、なんだこれは、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死エニグマ滅殺死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死』
男の口が狂ったかのように動き続ける。
頭を支配する死という単語と破滅願望。
危険を感じたオレが同調を解除し飛び退くと同時に、男の肉体が眩い閃光を放ちながら膨張していき、そして。
──異空間に爆光が駆け巡る。




